学び!と共生社会

学び!と共生社会

インクルーシブ教育の進展と新学習指導要領への期待
2020.02.26
学び!と共生社会 <Vol.01>
インクルーシブ教育の進展と新学習指導要領への期待
大内 進(おおうち・すすむ)

 小学校は2020年度から、中学校は2021年度から「新学習指導要領」が全面実施されますが、新しい学習指導要領をさまざまなニーズのある子どもの教育という観点から見ると、特別支援教育や障害理解、交流及び共同学習に関する記述がより充実しています。今回の学習指導要領が、「障害者の権利に関する条約」批准後、初めての改訂になるということもあり、小学校、中学校での「インクルーシブ教育システムの構築」への歩みがさらに進められたという印象を受けます。
出典:外務省HP「障害者権利条約」パンフレット(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page25_000772.html 「障害者の権利に関する条約」には、「あらゆる段階における障害者を包容する教育制度(an inclusive education system)及び生涯学習を確保する。」ことと「障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと(not excluded from the general education system)」が記されていることはご存知のことと思います。
 この条文からは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会、つまり、「共生社会」の実現のために「インクルーシブ教育システム」の理念が重要であるということが読み取れます。その構築のためには、特別支援教育を着実に進めていくことはもちろんですが、それだけではなく通常の学校に在籍する児童生徒の観点からの取組も積極的に進めていかなければならない重要な課題だといえます。
 このことが、新しい学習指導要領においては、総則の「家庭や地域社会との連携及び協働と学校間の連携」の項に、交流及び共同学習の一層の充実を図ることとして規定されています。また、平成30年2月8日には、「障害のある幼児児童生徒と障害のない幼児児童生徒の交流及び共同学習等の推進について(依頼)」(29初特支第33号)という文書も発出されています。ここには以下のような重要な観点も記されています。

  • 単発の交流機会を設けるのみにとどまらず、年間を通じて計画的に取り組むこと。
  • 障害について形式的に理解させる程度にとどまらず、児童生徒等が主体的に取り組む活動とすること。
  • 交流及び共同学習を行う授業中の活動だけで終わらせないよう、児童生徒等に対する十分な事前学習及び事後学習を実施すること。
    また、日常の学校生活においても障害者理解に係る丁寧な指導を継続して実施すること。
  • 校長のリーダーシップの下、学校全体で計画的かつ組織的に取り組み、全教職員が交流及び共同学習の目的や内容等を共有すること。

 交流及び共同学習は、これまでも取り組まれてきていますが、この学習の精神は「人間形成」(交流及び共同学習ガイド)にあるといえます。インクルーシブ教育は、特別なニーズのある子どもだけの問題ではなく、すべての児童生徒の生涯にとっても重要な意味があるということがここでも理解され、このように捉えれば、通常の小学校や中学校の先生方にとってもインクルーシブ教育がより身近なものとなり、インセンティブも高まっていくのではないかと思われます。
 最後に、イタリアで現地の学校にお子さんを通わせている日本人が発しているブログを紹介しておきます。イタリアは、フルインクルージョンが実施されている数少ない国の一つです。イタリアの教育について不安を感じたことがあったものの、常同行動のあるクラスメートと共に学んでいるお子さんが、そのクラスメートをタブー視することもなく、特別視するでもなく、気の合う仲間の一人として見ている姿を見て、人間としてとても大事なことを学んでいることを感じたという内容でした。学校は人間形成の場として大切な役割を有しています。
 改めて、新しい学習指導要領によって、すべての子どもの人間形成という観点から「インクルーシブ教育システムの構築」が進んでいくことを期待しています。