学び!とシネマ

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恐竜が教えてくれたこと
2020.03.18
学び!とシネマ <Vol.168>
恐竜が教えてくれたこと
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH

 11歳の少年サム(ソンニ・ファンウッテレン)は気付く。「この世の生き物はすべて、いつか死ぬ」と。そして思う。「地球で最後の恐竜は、自分が最期の恐竜だと知っていたのかな」と。さらにサムは考える。「人はいつか死ぬ。小さいぼくはひとりになる。孤独に耐えるようにならなければ」と。
 映画「恐竜が教えてくれたこと」(彩プロ配給)は、少年の視線を通して、おおげさに言えば、人生の意味を問いかけている。原作がある。ロンドン生まれで、オランダ育ちの児童文学作家アンナ・ウォルツの書いた「ぼくとテスの秘密の七日間」(フレーベル館・野坂悦子 訳)だ。映画は原作とほぼ同じ運びである。
 舞台は、オランダにある小さな島のテルスヘリング島。サムは、パパ(チェッポ・ヘッリツマ)とママ(スサン・ボーハールド)、3歳上の兄ヨーレ(ユーリアン・ラッス)といっしょに、一週間のバカンスを楽しんでいる。
©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH 浜辺で遊んでいるとき、ヨーレがサムの掘った穴に落ちて、骨折する。ママは偏頭痛になって寝込んでしまう。悪いことばかりではない。サムは、サルサの練習をしている少女テス(ヨセフィーン・アレンセン)と出会う。サムより少し年上のテスは表情豊か。ついサムは、サルサの練習に加わる。
 テスはサムに言う。「パパは火山の噴火で亡くなった」と。サムは、また、いろいろと考える。人が死ぬってどういうことなのか、と。そしてまた、家族でいちばんの年下だから、孤独に耐える訓練をしなければ、とも。パパとヨーレは、別の島で治療中で、ママはずっと寝ている。サムは、孤独に耐える訓練を続けていく。
 そんなサムに、テスは言う。死んだと思っていたパパが生きていて、ネットで調べて、ママには内緒で、この島に招待した、と。やがてサムは、テスの計画に巻き込まれていく。
 孤独に耐える訓練中、サムにある事件が起き、サムは、「思い出」の大切さを知る。サムは思う。テスとテスのパパは、12年分の思い出を無くしていたのだ、と。
©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH サムとテスを見ていると、微笑ましい限り。子どもからおとなへのとば口にある少年少女のやり取りが、美しい島で展開する。ほんの一週間のあいだに、サムとテスは、みごとな変身を遂げる。
 児童文学ではあるが、これはおとなのための小説、映画だろう。おとなも、かつては子どもだった。子どももおとなも、これからの人生は、いつだって、自分で決めるしかない。そんな勇気を授けてくれる。
 登場人物は、おとなも子どもも、一風変わっていて個性的。サムもテスも、これからおとなの仲間入りをすることになる。いつまでも、最後の恐竜が何を知っているかに、思いを馳せる人間でいてほしいいものだ。
 このようなすてきな映画を撮ったのは、オランダのステフェン・ワウテルロウトで、これが長編の初監督になる。原作、脚本ともに秀でていて、読み応え、見応えがある。

2020年3月20日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

『恐竜が教えてくれたこと』公式Webサイト

監督:ステフェン・ワウテルロウト
脚本:ラウラ・ファンダイク
原作:アンナ・ウォルツ「ぼくとテスの秘密の七日間」(野坂悦子訳、フレーベル館)
出演:ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセン ほか
2019年/オランダ/オランダ語・ドイツ語/カラー/84分
英題:My Extraordinary Summer with Tess
配給:彩プロ
後援:オランダ王国大使館