学び!と共生社会

学び!と共生社会

「個に応じた指導の充実」とインクルーシブ教育
2020.06.25
学び!と共生社会 <Vol.05>
「個に応じた指導の充実」とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 今回は、「個に応じた指導の充実」ということについて考えてみたいと思います。
 「特別支援教育」では、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点から、一人一人の教育的ニーズの把握が重視されています。個に応じた指導の充実は大前提ということになります。
 他方、かつては、画一的という言葉が聞かれた義務教育においても、平成15年以降、学習指導要領において「個に応じた指導の充実」が謳われるようになってきています。
 義務教育に関連しての「個に応じた指導」への言及は、平成8年の中教審答申にその必要性が示されたのが発端でした。この背景には、当時、学年が上がるにつれて、授業の理解度や満足度が低下する傾向が認められたことにあります。その後、弾力的な学習集団の編成など実施内容や学習形態などが検討され、平成15年に小改訂された学習指導要領において、小学校での習熟の程度に応じた指導が明記され、その充実が図られることになりました。そして、平成20年の学習指導要領では「教育課程の実施上の配慮事項」としてその充実を図ることが本文中に明記されるに至ったという経緯があります。
 文部科学省の「公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査」(*1)によると、平成30年度では小学校の90.5%、中学校の92.5%が「個に応じた指導」を計画しており、その実施が定着してきていることがわかります。またその形態をみると「少人数指導」(小学校56.8% 、中学校61.1%)や「複数の教員が協力して行う指導(TT)」(小学校78.3%、中学校78.1%)などが中心になっているようです。
 このように、これまでは「特別支援教育」、「小学校及び中学校の教育」それぞれにおいて、「個に応じた指導の充実」への取り組みがなされてきたわけですが、新しい小学校学習指導要領及び中学校学指導要領では、総則(第1章 第4 1(4))に以下のような記述がなされています。

「児童(生徒)が,基礎的・基本的な知識及び技能の習得も含め,学習内容を確実に身に付けることができるよう,児童(生徒)や学校の実態に応じ,個別学習やグループ別学習,繰り返し学習,学習内容の習熟の程度に応じた学習,児童(生徒)の興味・関心等に応じた課題学習,補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れることや,教師間の協力による指導体制を確保することなど,指導方法や指導体制の工夫改善により,個に応じた指導の充実を図ること。その際,第3の1の(3)に示す情報手段や教材・教具の活用を図ること。」

 さらに画期的なのは、総則での記述に加えて、一歩踏み込んで全ての教科等においても、それぞれに学びの過程で考えられる「困難さ」ごとに「指導上の工夫の意図」と「手立て」の例が示されるようになったことです。各教科の特性に応じて、一人一人の「困難さの状態」に焦点を当てているといえます。こうした対応は、特別支援学校学習指導要領等における自立活動の考え方に通じるところがあるといえますし、「特別支援教育」と「小学校及び中学校の教育」をつなぐインクルーシブ教育システムの構築という観点からもその歩みが進んだといえます。
 なお、各教科等の学習指導要領には、個々の児童の困難さに応じた指導内容や指導方法を工夫する際に、「それぞれの教科等の目標や内容の趣旨、学習活動のねらいを踏まえ、学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに、児童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある」ということも記されています。このことは、今般の学習指導要領で示された「学びの連続性」という観点からも留意しなければいけない点だといえます。
 新たな学習指導要領の下での各学校の取組の成果に期待したいと思います。