学び!とESD

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ユネスコ/日本ESD賞 ―ブラジルアマゾン発!新たな「開発」のあり方と人々の変容の物語―
2020.10.15
学び!とESD <Vol.10>
ユネスコ/日本ESD賞 ―ブラジルアマゾン発!新たな「開発」のあり方と人々の変容の物語―
神田 和可子(永田研究室大学院生)

ユネスコ/日本ESD賞とは

 ユネスコ/日本ESD賞は、2014年愛知県名古屋市で開催されたESDに関するユネスコ世界会議にてグローバル・アクション・プログラム(以下、GAPと略記)(*1)の枠組みの中で設立されました。日本政府によって資金提供されており、2015年から2019年まで毎年3団体が受賞してきました。2019年には、これまでの5年間(2015-2019)のレビュー(*2)が行われ、改定された新たなユネスコ/日本ESD賞がこれから始まります。(*3)
 この賞は革新的または影響力の大きな活動を行っている団体等に対して授与されます。賞の目的は「学習者に創造的で責任ある地球市民になれるようにエンパワーする」ことです。この目的はSDGsの達成および‘ESD for 2030’(*4)の貢献につながります。つまり、賞の受賞は各団体のこれまでの取り組みが評価されるだけでなく、世界各国でESDを実践している同志に向け、互いにそれぞれの活動をエンパワーさせる役割を担っているとも言えるでしょう。

写真1【2019年度ユネスコ/日本ESD賞の授賞式】
写真提供:永田佳之

 選考基準にはTransformation「変容」、Integration「統合」、Innovation「刷新」の3つが挙げられており、社会・経済・環境のバランスを保った上で、価値観・行動において個人および社会に変容をもたらす革新的かつ想像力に富むアプローチが期待されています。
 次にこれまでの受賞団体から一つ、伝統的な知と刷新的なアイデアを統合し、新たな価値を創出している団体を紹介します。

森の守り人のための組織:Fundação Amazonas Sustentável (FAS)

 2019年度のユネスコ/日本ESD賞の受賞団体である「持続可能なアマゾン財団」(Fundação Amazonas Sustentável:以下、FASと略記)(*5)は、環境保全を促進することを目的とし、アマゾン地域に住む先住民コミュニティの生活の質を改善しながら、コミュニティに持続可能な開発のための教育とトレーニングを行っています。民間企業や国際協力機関から資金提供を受け、2008年2月に設立されたブラジルのマナウスに拠点を置くNGOです。

写真2 出典:FASのホームページ

 FASによるプロジェクトは、これまで647の地域、41,808人のアマゾン地域に住むあらゆる世代に対し、各コミュニティの要望に応えるように実施されてきました(2020年10月1日現在)。FASのプロジェクトに参加した人々は、自身とコミュニティの変容について以下のように語っています。

“かつて、私は家族や集落を支えるために木を切り倒し、生計を立てていた。それは大変な仕事であり、犠牲を払い、価値もなく、地球を攻撃することで自らの生き残りをかけていた。プロジェクトは影響を与えた。多くのトレーニングを経て、「暗闇」が光へと変わった” (元材木商で、現在森の保全の大切さを伝えながら観光業を営む男性)
“私はとても恥ずかしがり屋で隅っこにいるような子でした。でもプロジェクトに参加し、一人の人間として自分の言いたいことを表現してよいことに気づきました。(中略)私は若者のリーダーです。私たちは小さいけれど、大きな心を持っています。いまでは輝かしい未来をイメージすることもできます”(女子学生)

 「森林を守って価値あるものにする」ことを目標に掲げ、伝統知と森との調和を重んじたプロジェクトは、自らのコミュニティへの愛着やアイデンティティ形成にとどまりません。プロジェクトに参加した人々は、変化の担い手として持続可能なコミュニティづくりに貢献しています。FASの活動は、搾取や破壊をともなう「開発」ではなく、多くの機会や価値を創出する新たな「開発」のあり方を提示しています。新たな「開発」の中核にあるFASが創造する教育と学びの機会は、森の保全を通してアマゾンに住む人々の可能性を拓き、人々に変容と希望をもたらしています。

*1:「ESDの10年」の後継プログラムとして掲げられました。5つの優先行動分野(政策的支援、機関包括型アプローチ、教育者、ユース、地域コミュニティ)に焦点を当て、2015年から2019年の5年間推進されました。
*2:ユネスコ/日本ESD賞は、GAPにおいても不可欠な役割を担い、これまでユネスコで実施された賞の中でも最も成功したプログラムであると称されています。
*3:ユネスコのホームページ(英語)(https://en.unesco.org/prize-esd)よりこれまでの受賞団体および今後の選考日程等、詳細の情報へアクセスできます。なお、これまでの受賞団体については文部科学省のホームページ(https://www.mext.go.jp/unesco/004/1370106.htm)からもご覧いただけます。
*4:本Webマガジン「学び!とESD」のVol.7-9をご参照ください。
*5:詳細はFASのホームページ(ポルトガル語)(https://fas-amazonas.org/)をご覧ください(Google翻訳機能を使用すると日本語で閲覧できます)。紙幅の都合上、ここでは一部しか紹介できませんでしたが、人々の変容の物語はFASのホームページから記事や動画でご覧いただけます。