学び!と共生社会

学び!と共生社会

インクルーシブ教育システムの構築と基礎的環境整備
2021.01.25
学び!と共生社会 <Vol.12>
インクルーシブ教育システムの構築と基礎的環境整備
大内 進(おおうち・すすむ)

 今回も、文部科学省における「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」(素案)について触れさせていただきます。前回、素案には「共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念を構築することを旨とすることが重要である」と示されていることを確認しました。(*1)
 その上で、インクルーシブ教育システムの理念を構築し、特別支援教育を進展させていくために、引き続き、①障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限り共に教育を受けられる条件整備を進めることと、②障害のある子どもの自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備を着実に進めていくという、これからの特別支援教育の方向性が提示されたこともお伝えし、その方向性の一つとして全ての教師に特別支援教育に関する専門性が求められていることに言及しました。
 今回の素案には、財政的、人的な側面など義務教育標準法の改正につながる踏み込んだ記述は認められなかったのですが、昨年12⽉21⽇の閣議で、政府は令和3(2021)年度の当初予算案を決定しました。
 その中に、令和7(2025)年度までに公⽴⼩学校の1学級の定員を、現在の40⼈以下から35⼈以下に引き下げることが盛り込まれていました。今回の予算案は小学校のみで、中学校は含まれていないのが残念ですが、16年ぶりの教職員定数の改善ということになります。(*2)
 このことは、今後のインクルーシブ教育システムの構築にも少なからず波及するところが出てくるように思われます。特別支援教育に直接かかわる部分だけでなく、基礎的環境整備につながるからです。
 本来、インクルーシブ教育システムの構築のためには、本体である小学校や中学校の基礎的環境整備も不可欠です。インクルーシブ教育にシフトしている国々では、指導者がきめ細やかな配慮ができるように学級規模を小さくするなどのさまざまな工夫がなされていました。OECDが示したデータはそのことを物語っています。(*3)

図1 小学校の平均学級規模(2018,OECD)

 例えば、筆者が調査を行ってきたイタリアの場合、もともと小学校の学級定員は25名と少ないのですが、障害のある子どもが在籍する場合は、20人となっていました。さらに低学年では、2学級に1名の教員が増員されていました。障害のある子どもには支援教師が配置されていますので、インクルーシブ教育による担任への負担が偏ることもありません。
 よりきめ細やかな対応が可能になれば、素案で示されている「障害の有無に関わらず誰もがその能力を発揮し、共生社会の一員として共に認め合い、支え合い、誇りを持って生きられる社会の構築を目指す」という「これからの特別支援教育の方向性」が一層明確になり、その取り組みの内容の充実が期待できます。素案にはさらに、次のような記述も認められます。

○それぞれの学びの場における各教科等の学習の充実を進めるとともに、

  • 障害のある子供と障害のない子供が、年間を通じて計画的・継続的に共に学ぶ活動の更なる拡充
  • 障害のある子供の教育的ニーズの変化に応じ、学びの場を変えられるよう、多様な学びの場の間で教育課程が円滑に接続することによる学びの連続性の実現

を図る。

○この方向性を実現するため、

  • 就学支援、指導方法や指導体制、施設環境など障害のある子供の学びの場の整備
  • 特別支援教育に携わる教師の専門性の向上
  • GIGAスクール構想による1人1台端末等の最新のICT技術の活用
  • 関係機関の連携強化による切れ目ない支援体制の整備

を進める。

 現在開催されている通常国会には上限⼈数を定める義務教育標準法の改正案の提出がめざされていますが、成⽴すれば令和3年度に小学2年生から毎年度1学年ずつ引き下げ、令和7年度には全学年で上限⼈数が35⼈となることになります。基礎的環境整備については様々な要因が絡み合い、多方面からの対応が必要となりますが、インクルーシブ教育システムの構築からも国会での審議を見守っていきたいと思います。

*1:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告(素案)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000210233
*2:令和3年度予算編成 大臣折衝
https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2020/20201217.html
*3:OECD.stat:Average class size by type of institutions(グラフは、データを基に筆者が作図。)
https://stats.oecd.org/index.aspx?queryid=79502