学び!とシネマ
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世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦

(c)Next Goal Wins Limited.
映画「ネクスト・ゴール!」(アスミック・エース配給)のサブタイトルは、「世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦」である。アメリカの準州であるアメリカ領サモアのサッカー・チームは、2001年のFIFAワールドカップ予選で、オーストラリアに0対31で記録的な大敗を喫する。ドキュメンタリー映画ながら、これが劇映画のような構成、運びで、弱小のサッカー・チームの人間模様が巧みに描かれる。アメリカ領サモアは、人口5万4千人ほどの小さな島。美しい風景と心おだやかな人たちの文化や風習もさりげなく挿入される。
アメリカ領サモアのサッカーチームは、最低、最弱だけれど、選手たちは心意気に溢れ、懸命にサッカーに打ち込む。その姿は、むしろ微笑ましく清々しい。なにしろチームは、ここ10年の公式戦では30戦全敗、失点は200ゴールを超える。当然、ランキングは最下位だ。
2009年には、サモア沖地震による津波被害で壊滅的な被害を受ける。それでもサッカーの大好きな選手たちは、すぐにグラウンドを整備、練習を開始する。登場する人物がことごとく個性的で、そのキャラクターがくっきりと描かれる。世界最低のゴールキーパーと言われているニッキー・サラプは、大敗を喫したオーストラリアとビデオゲームで戦い続けている。そのトラウマは深い。一度、引退してアメリカ本土に移住するが、自らのトラウマに打ち勝とうと島に戻ってくる。
ディフェンダーのジャイヤ・サエルアは、サモアで認められている第三の性、ファファファインである。ふだんは女性として生活し、練習前には髪を整え、メイクをする。レギュラーにはなれないが、チーム仲間との絆を大事にしている。ジャイアの語る言葉は感動的ですらある。
チームのなかでも優秀なフォワードのラミン・オットは、家族を養うために軍隊に入り、本土に移住。サッカーは駐屯地で続けていて、すべての休暇を犠牲にして島に戻ってくる。
連戦連敗、チームをなんとかしてほしいとの要求をアメリカ・サッカー協会に送る。監督職に応募してきたのが、サッカー経験の豊かなオランダ人のトーマス・ロンゲン。頑固一徹のトーマスは、一流の指導法を身につけていながら、なかなかチームにとけ込まないでいる。昔気質で、「自分は協会で雇われた」と言い張っていたが、やがて過去の辛い出来事を選手たちに話し、自らのサッカーへの思いを選手たちに伝える。徐々にではあるが、選手たちの意識が変わり始める。トーマス自身も、選手たちから多大の刺激を受けるようになっていく。
練習が続く。泥まみれになりながらのスライディング。まだまだ技術が追いつかない。2014年、FIFAワールドカップ、ブラジル大会の予選が近づいてくる。
はっきり言って、技術的にはかなり劣るチームである。教会で祈って勝てるものではない。サッカーは、なによりもチーム・プレイである。高度の技術はもちろんのこと、人と人との信頼関係が横たわる。スポーツ、競技である以上、参加することに意義があるといったきれいごとではない。勝たなければ意味はないと思うけれど、ひたむきに練習に打ち込む選手たちを見ていると「勝つ」ことだけが人生ではないように思えてくる。では、何が人生なのか?の問いに対するヒントが、映画「ネクスト・ゴール!」から汲み取れるはずだ。サッカーで負け続けても、人生で勝利することはありうるのだから。
監督は、学生時代のサッカー仲間であるマイク・プレットとスティーブ・ジェイミソン。長編ドキュメンタリーとしては初めての映画になる。
2014年5月17日(土)より全国順次公開&オンデマンド同時配信
■『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』公式Webサイト
監督:マイク・ブレット&スティーブ・ジェイミソン
出演:アメリカ領サモア サッカー代表チーム、トーマス・ロンゲン監督
2014年/イギリス/英語、サモア語/カラー/98分
配給:アスミック・エース
(c)Next Goal Wins Limited.