学び!と共生社会

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文部科学省が公表した「障害のある子供の教育支援の手引」について
2021.07.26
学び!と共生社会 <Vol.18>
文部科学省が公表した「障害のある子供の教育支援の手引」について
大内 進(おおうち・すすむ)

 この6月に、文部科学省から「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(*1)が公表されました。今回公表された手引は、2013年から就学手続きに関わる資料として、教育委員会や学校関係者に向けに作成されていた「教育支援資料」を改訂したものです。障害のある子どもの就学相談や就学先の検討等の支援に関する情報は、就学担当者だけでなく関係する全ての人にとって必要です。そこで、今回はこの手引を取り上げてみたいと思います。

 本欄でもすでに紹介したところですが、今年1月には「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の報告が取りまとめられました。それには、制度改革に切り込むような大胆な提言はなかったのですが、障害の有無にかかわらずさまざまな子どもが共に学ぶインクルーシブ教育の考え方を引き続き推進すること、一人一人の教育的ニーズに的確に応えていくために、連続性のある多様な学びの場をいっそう充実させることの必要性などが提言されていました。今回公表された手引は、こうした背景を踏まえ、障害のある子どもの就学先となる学校(小・中学校等、特別支援学校)や学びの場(通常の学級・通級による指導・特別支援学級)の適切な選択に資するよう改訂を行ったものです。それに加え、就学に係るプロセスとそれを構成している取組の趣旨を就学に関わる全ての関係者に理解してほしいということから、名称も「障害のある子供の教育支援の手引」に改定したということです。

 この新たな手引では、子どもの教育的ニーズや就学に関連するプロセスに関する記載内容の充実が図られています。具体的には、第1編において、教育的ニーズや合理的配慮等の障害のある子どもの教育支援に係る基本的な考え方を解説しています。第2編において、実際の就学に係る一連のプロセスに沿って、教育相談・就学先決定のモデルプロセスを詳しく説明しています。そして、第3編において、「教育的ニーズ」の内容を障害種ごとに具体的に示し、就学先となる学校や学びの場を判断に資する事項を記載しています。これまでも障害のある子どもの就学手続きについては、「教育支援資料」により教育委員会や学校関係者に向けて伝達周知されていたはずでしたが、現実には、隅々にまで周知されていたとは言い難いところもあったようです。筆者のところにもそうした相談が舞い込んだことがあります。保護者の意向が汲み取られないままに相談が進んでいるという訴えでした。新しい手引では、その対象が広がり、内容もより具体的に示されており、就学の手続がいっそう周知されることが期待されます。

 他方、丁寧な記述がされているだけに分量も多くなっています。この3編だけで325ページにも及び、気軽に読めるようなボリュームではありません。そのためでしょうか、参考資料として「関係する皆様に優先的に読んでいただきたい項目一覧」が用意されています。「学校管理職」、「学級担任・担当」向けにそれぞれに優先的に読んでほしい項目が一覧に整理されています。小学校・中学校の先生方は、この資料を参考にぜひこの手引きに目を通してほしいと思います。

 また、「別冊」においては、医療的ケア児への対応に関する基本的な考え方等が示されています。この6月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(*2)が成立しています。そこには、「学校の設置者の責務」(第7条関係)として次のような内容が示されています。

「学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校をいう。)の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校に在籍する医療的ケア児に対し、適切な支援を行う責務を有するものとしたこと。」

 このことが、この手引きにも反映されていると言えます。「医療的ケア」というと、重度の障害を思い浮かべがちですが、近年、気管切開、人工呼吸器装着、経管栄養にもかかわらず、歩けて話せる子どもが増えているという実態があります(*3)。医学の進歩により医療的ケア児も多様化しているのです。これからは、医療的ケア児の教育の場として、小学校や中学校も選択肢として広がってくるものと思われます。したがって、この別冊も就学担当者だけでなく、関係する全ての人たち、とくに「学校管理職」に読んでおいてほしいところです。

*1:文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250_00001.htm
*2:文部科学省「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」
https://www.mext.go.jp/content/20210621-mxt_tokubetu01-000007449_01.pdf
*3:前田 浩利「小児在宅医療の現状と問題点の共有」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000114482.pdf