学び!とPBL

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スイッチバックを繰り返す生徒たち
2021.09.21
学び!とPBL <Vol.42>
スイッチバックを繰り返す生徒たち
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.影響を与える側に

図1 クラスタースクールに新しい仲間が 福島市内には県立と私立合わせて14の高校があり、コアメンバーはその中の10校に分散して進学しています。それぞれが各校で友達に働きかけると、あっという間に50人ほどの実行委員メンバーがそろいました。新メンバーの中にはとても意識の高い生徒もおり、オリジナルメンバーの中には自分たちの非力さを痛感し、強い焦りが見られました。そのせいもあって、6月から9月の間に多くの生徒たちが入れ替わりました。
 8月には定例のクラスタースクールを実施しました。いわき市の生徒たちも「地域で高校生フェスティバルを開催したい」といって参加してきました。影響を受け続けてきた福島市の高校生たちが、外に影響を与え始めたと実感できる出来事でした。

2.本当にフェスティバルが実現するのか

図2 高校生フェスティバルの広報ビデオの撮影 生徒リーダーと大人、学生は常にLINEなどで連絡を取り、生徒の動きと大人の動き、学生の動きをすり合わせました。しかし、イベントに参加する生徒が固まらず、そのために企画書の完成も遅れ、市民や商店街にPRできない状態が長く続きました。夏休み前に決定しておく予定であった出演者は夏休みが明けても決まらず、分担した実行委員に連絡を取っても試験や部活動などの理由で対応できないなど、リーダーたちの苦悩の日々が続きます。
図3 刷り上がったビラを配る 9月になって広報体制が固まりつつありましたが、それでも確約が取れた出演者が「ゼロ」でした。本当にフェスティバルがフェスティバルになるのか、このまま開催できなければリーダーたちと動かないメンバーたちの人間関係に亀裂が入り、チームが解体し、プロジェクトが崩壊してしまうのではないかと、これまでにない危機感を覚えたのは、予定されたフェスティバルのちょうど1ヶ月前でした。
 「この半年、自分たちで何とかしようと、生徒たちはこんなに成長しました。かっこいいフェスティバルにならないかも知れませんが、絶対フェスティバルになります。生徒たちを信じましょう!」といってくれたのは、この3年間、福島市チームと歩んできた事務局のコーディネーターでした。不安を残しつつも、コーディネーターと一緒にがんばる学生たち、そして成長した高校生を信じるしかありませんでした。

3.自分たちだけで全部やる!

図4 大学のアクティブラーニングラボで会議 それからの1ヶ月は、リーダーを中心とした懸命の努力が続きました。メンバーで共有する文書を保存するGoogleDriveには、毎日のように部門別の企画書がたまるようになりました。結果的に目標の半分の数にもなりませんでしたが、ステージ発表やブース参加の団体も固まり、何度も何度も当日の出演順を書き換えました。当日使うポスターの印刷依頼も飛び込んで来るようになりました。
 夏に決めたイルミネーションづくりを実行するために、10月の土日は毎週大学に高校生が集まりました。ああでもない、こうでもないと試行錯誤を重ね、とうとう3週目に完成させることができました。その予想以上の美しさに心が躍り、一気に夢がふくらみました。
図5 本番まで数日、追い込みも佳境 3月に訪問した札幌新陽高校から先生と生徒もフェスティバルに参加し、ブースを展示してもらえることになりました。偶然開催日に福島に来る筑波大学附属高校とお茶の水女子大学附属高校の生徒たちとトークショーを開催することも決まりました。生徒たちは各校と連絡を取り合い、トークテーマ「高校生がまちづくりに参加するメリット・デメリット」も決まりました。コーディネーターは当初、大人にお願いしていましたが、開催前日、実行委員長から「コーディネーターは高校生じゃダメですか?ここまで来たら、高校生でやりたいんです!」という力強い申し出があり、土壇場ですべて高校生が運営することとなりました。
 フェスティバルを週末に控えた平日も高校生たちは市の施設に集まり、フェスティバルの準備を夜遅くまで続けました。フェスティバル前日には、大学生と高校生が一つ一つの動きを確認し、役割分担をやり直していました。大人と打ち合わせをする実行委員の言葉にすごみを感じるほどでした。誰もがフェスティバルの成功を確信できた1週間だったと思います。

4.スイッチバックを繰り返す生徒たち

 生徒たちにとって、試行錯誤できる時間と空間の存在が極めて重要です。
図6 明日は本番、大学生の力を借りて最終チェック 生徒たちの学びは決して直線的に進むのではなく、「スイッチバック」しながら進んでいることがわかります。様々な困難を前にして停滞していると必ず誰かが暴走を始めます。実現可能性の希薄なことを提案したり、一面的な視点だけで解決策を考えたりして、大抵はうまくいかず反省して引っ込めるのですが、その暴走によって停滞していた空気が動き始め、新たな気づきと可能性を見つける、ということが多々あります。
 その意味では、暴走を許さない、とか、生徒にすべてを任せる、では生徒の成長に結びつかないということになります。「暴走と反省」の繰り返しが生徒の成長の軌跡なのかも知れません。