学び!とPBL

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クロス・カリキュラムの授業(授業とPBL④)
2023.03.20
学び!とPBL <Vol.60>
クロス・カリキュラムの授業(授業とPBL④)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の4回目です。今回と次回の2回にわたって、「総合的な探究の時間」の探究学習から派生した教科横断の学びを紹介します。今回は「教科×教科」のクロス・カリキュラムの実践を紹介していきます。

1.教科横断的な学び

 ふたば未来学園高校では、開校した2015年当初から探究活動を軸としたコンピテンシーベースの教育を展開してきました。年数を重ね徐々にアクティブ・ラーニングの認知度こそ高まってはいたものの、いざ探究学習となると「えっ!本当にできるの?」、「総合的な学習の時間と同じような変遷を辿るのでは?(2つ目のLHRとなってしまい期待した効果が得られないのではないか?担当者だけの過度な負担となってしまわないか?)」といった声が外部はもちろん、同僚の中にもありました。しかし、すでに偏差値の向上だけを目的とする教育には戻れないことは明らかです。それは、教員が実際に探究学習を通して、生徒の成長を目の当たりにしたとき、本来求められている思考力・判断力等の育成につながる教育が「何」であるかを実感したからです。
図1 総合的な探究の時間の授業風景 探究学習の過程では2つの課題が生じました。一つは「コンピテンシーベースの教育に寄りすぎていて、これまで丁寧に行われてきた知識を獲得するための学びが疎かになっているのではないか?」という指摘です。もう一つは、生徒が協働学習を尊重するあまり、ディスカッションの方法ばかりに気を取られ、「学習内容を関連付けて、汎用的な知識に高められていないのではないか?」ということです。
 こうしたコンピテンシーベースの教育を従来の学校教育に取り入れるためには、教員同士の同僚・協働性(*1)がとても重要であると考えました。つまり、子どもを軸とした教員同士の“対話“です。

2.数学で身近な社会問題を分析する

 地歴・公民科のS先生と鈴木先生には、「現代的なテーマを教科学習で扱えないか」という共通の問題意識があり、2018年度に高校2年生を対象に、全3時間のクロス・カリキュラムの授業を実践することになりました。普段探究学習には主体的に取り組むのに、教科学習にはなかなか意欲的になれない生徒、探究学習に授業の学びを生かせない生徒がいたからです。それらの原因は、教科学習の学びと身の回りの社会とが結びついていないからではないかという仮説がありました。そこで、授業のテーマを「数学で身近な社会問題を分析する」とし、最後の3時間目の授業では、グループごとに分析に基づいて身近な地域の課題解決の提案を行わせることにしました。
図2 総合的な探究の時間の授業風景 単なるイベントで終わってしまわないように、授業に入る前に到達目標と評価基準を明確化し、授業にルーブリック評価を取り入れることにしました。「地域の課題を捉えようと探究学習を通して学んでいるか」、「他地域や海外のことも考えることのできる汎用性を持ち合わせているか」、「数学的な見方・考え方を取り入れて事物を考察できているか」といった到達目標と5段階の評価基準を設定しました。
 授業の1時間目ではS先生が、北海道のY市の人口は、1960年の107,972人をピークに減少を続け、2010年には10,922人と急激な人口減少・少子高齢化が進んでいることなどの講義をしました。その際、S先生はA3用紙に予め記された特徴的な数字をどんどん紹介し、黒板に掲示していく紙芝居形式で授業を展開しました。こうした効果的な教授法を体験的に学べることもクロス・カリキュラムならではだと思います。
図3 総合的な探究の時間の授業風景 2時間目には、双葉郡の人口の変遷から、人口減少に対する解決策を模索し、続く3時間目の授業で発表してもらいました。印象的だったのは、教科で培った知識が、私たちの想定を超えて有機的につながっていたことです。人口の変化を分析する際には、数学Ⅰ・「データの分析」で学んだ知識が活用されると想定しました。しかしあるチームは、ディスカッションで人口の変化に演繹性を見いだし、数学B・「数列」(等比数列)で表せるのではないかという仮説を立て、計算してみると、実際の人口と近似した値を求められることがわかりました。これまで現実の事象は複雑な変数で統制されていて、高校で学ぶ数学だけでは明らかにできないという思い込みがあったのですが、生徒だけでなく、教員も実際に活用できることを実感しました。
 一方、いくつかの課題も残りました。その一つは、クロス・カリキュラムは教員にとっても想定外の学びにつながるチャレンジであったために、実践した教員は学べても、それを言語化して他の教員と共有できなかったことです。そこで翌年度からは、教員でグループを組み、体験的に実践していったことで、更に様々な効果を蓄積することができました。

3.コロナ禍でのクロス・カリキュラム

 2019年度は今回取り上げた「地歴・公民科×数学」だけでなく、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等これまでの私たちの社会生活を起因とした様々な問題に迫ろうと、学校全体で取り組みました。しかし、2020年2月のコロナ禍以降、教員同士が対面で話し合うことが難しくなったり、互いの教室を参観することが憚られたりしたため、学校全体の取り組みは弱まってしまいました。
 一方で、2021年度にはコロナ禍で生まれたオンラインでのつながりを生かし、他校の先生と教科横断の学びを実践するきっかけとなりました。同じ学校に勤める教員同士だと発想が似てしまいがちですが、こうした経験を通してより多様な先生と対話することで、これまでにはない示唆を得ることができました。こうして得られた知見を再度校内での授業実践に活かせば、より高度な授業実践も可能になるのではないでしょうか。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)

*1:教員相互の信頼関係と義務感を重視する「同僚性」と、2000年代以降の説明責任とその成果を重視する「協働性」といった2面を合わせて、同僚・協働性とする。