学び!と美術

学び!と美術

よくある質問~「技能」の指導はどうする?
2014.10.10
学び!と美術 <Vol.26>
よくある質問~「技能」の指導はどうする?
奥村 高明(おくむら・たかあき)

Q.「切る、貼る、彫る、描く、、etc、『技能』が育ちきっていない子どもへの指導はどうしたらいいのですか?」

A1.「道具」に浸れる時間と場を工夫しましょう

 「技能」の指導を考える上で、大切なのは「道具」です。「切る⇔ハサミ」、「彫る⇔彫刻刀」など、技能は必ず「道具」とセットになっています。なぜ「道具」に括弧をつけたかというと、ノコギリや彫刻刀などの文字通りの「道具」だけでなく、描写や筆算などの認知的な「道具」も含むからです。例えば、私たちが普通に計算や描写するときにも「道具」は用いられています。どちらも鉛筆だけでなく「位をそろえて縦に並べる」「立体を透視的に平面化する」などの文化的な「道具」が必要です(※1)。そして、これらの「道具」を使いこなすためには一定の時間が必要です。特に新しい「道具」では、2時間、4時間と「道具」に浸る時間が求められます。年間指導計画の中で十分な時間と場が設定されているかどうか検討しましょう(※2)。

A2.発達に応じた「道具」を用意しましょう

 次のポイントは発達です。「道具」が子どもの「その時点」の成長や発育の状態にふさわしいかどうか検討する必要があります。例えば、小学校の中学年の子どもが釘を打つ場合を考えてみましょう。まず、金づちの柄が長すぎると上手く振ることができません。次に、金づちの重さは170~190gくらいが適切です。それ以上だと子どもはコントロールしにくくなります。また、金づちが使える高さや広さなどの視点も大事です。釘を打つのに机が高すぎては脇が開いてしまいますし、逆にしゃがんで打つと自分の肘が足に当たりとても危険です。子どもの身長、手の大きさや握力、思考や判断の発達などに応じて「道具」を用意することが大切です(※3)。

A3.「創造的な技能」を伸ばしましょう

写真1

 単純な「技能」の向上で終わるのではなく、「創造的な技能」を高めることが重要です。そのためには、夢中になって一つの「道具」に浸りながら、そこで思いついたことが技法や作品につながるなど、自然な流れで造形活動が発展していくことが大切です(※4)。例えば、写真1は小学3年生の題材で生まれた作品です。「とにかく打ってみよう!」から始まって、この子は釘を300本も打ちました。よく見ると、木目に沿って打ち込んだり、打ち込む深さを変えたり、いろいろな工夫をしています。「クギササリスギッチ」という生き物で、作品にもなっています。釘の打ち方が向上しただけでなく、その子なりに技法が編み出され、新たな表現となって昇華したことが分かります(※5)。他に、画用紙をひたすらいろんな切り方で切って、そこで生まれた形を組み合わせて作品にする(なる)という題材もあります(写真2)。

写真2

 まとめれば、子どもたちの成長には、「作品や仕上がりのための技能」よりも、「技能の経験や獲得のプロセスそのもの」が大切だということです。そのために、教師は、「創造的な技能」という意識を持ち、そこから「どんな活動が必要か」「題材をどう展開するのか」と考えることが求められます。これが逆になると「こんな作品を作らせたい」から「こんな技能が必要」ということになります。それを否定するわけではありませんが、往々にして「先生の指示通りにするだけの技能」「発達を無視した技能」に陥りがちです。それは「ある特定の場所に近づけるための従属的な技能」「作品至上主義に埋没した技能」です。素直な子どもたちは先生に合わせてくれますが、それでは「創造的な技能」は伸びません。次回はそれに関する私の失敗談を書きましょう。

 

※1:「道具」については昔からいろいろ言及されていますが、 有元 典文 岡部 大介 著『デザインド・リアリティ―半径300メートルの文化心理学』2008 北樹出版 が参考になるでしょう。
※2:例えば「自分の感覚や感じ方を頼りに試行錯誤できる時間」「自分でやって、自分で確かめるような場」など。「学び!と美術 <Vol.23>」でも述べましたが、この質問も子どもの個別の問題というより、教育課程で解決すべき問題でしょう。
※3:「学び!と美術 <Vol.19>」も参照してください。
※4:小学校では特に必要な配慮事項ですが、中学校では文化的な資源として、「道具」を題材の中で効率的に用いることがポイントです。
※5:「学び!と美術 <Vol.04>」で紹介した版画の題材もその一種です。