学び!と共生社会

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学校図書館と「読書バリアフリー」
2023.08.28
学び!と共生社会 <Vol.43>
学校図書館と「読書バリアフリー」
大内 進(おおうち・すすむ)

 「障害者の権利に関する条約」を受けて制定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」においては、公的機関に障害者への合理的配慮の提供を義務付けています。公的機関には図書館も含まれています。
 この法の理念の重要性を鑑みて、公益社団法人日本図書館協会(以下、日本図書館協会)は、2015年12月に「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」(*1)を発表し、その推進に取り組む決意を示しました。それを受けて、差別や合理的配慮の事例を示すとともに、図書館での具体的な取り組み方法を明らかにすることを目的に、2016年3月18日に「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」を示しています。このガイドラインによると、学校図書館もその対象に含まれています(*2)
 そこで、今回は、学校図書館と「読書バリアフリー」への対応について確認しておきたいと思います。

学校図書館の位置付けと機能

 学校図書館と「読書バリアフリー」対応について考察するに先立って、学校図書館の位置付けと機能について確認しておきます。学校図書館は、学校図書館法に規定されているのですが、文部科学省のホームページには次のように記載されています(*3)

学校図書館の法的位置付け
○ 学校図書館法の規定[第3条]により、学校図書館は、すべての学校(小・中・高等学校、中等教育学校、特別支援学校)に置かなければならないものとされている。
○ 学校図書館の目的については、「図書、視覚聴覚教育の資料その他学校教育に必要な資料((略))を収集し、整理し、及び保存し、これを児童又は生徒及び教員の利用に供することによって、学校の教育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成すること」[第2条]とされ、学校は、次のような方法によって、学校図書館を児童生徒及び教員の用に供するものとされている[第4条第1項]。

【法律に規定された学校図書館の供用方法例】

  • 図書資料を収集し、児童生徒及び教員の利用に供すること。
  • 図書館資料の分類配列を適切にし、及びその目録を整備すること。
  • 読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を行うこと。
  • 図書館資料の利用その他学校図書館の利用に関し、児童生徒に対し指導を行うこと。
  • 他の学校の学校図書館、図書館、博物館、公民館等と緊密に連絡し、及び協力すること。

○ 学習指導要領(総則)においても、指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項として、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童(生徒)の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」とされている。
○ さらに、学校図書館法では、学校図書館の運営についての附帯事項として「学校図書館は、その目的を達成するのに支障のない限度において、一般公衆に利用させることができる」とされている[第4条第2項]。

学習指導要領での扱い

 学校図書館の活用については、学習指導要領でも言及されているのですが、その記載について原文を確認しておきたいと思います。『小学校学習指導要領』の第1章総則、第3の1の(7)に、次のような記載が認められます(*4)

(7)学校図書館,地域の公共施設の利活用
 学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに,児童の自主的,自発的な学習活動や読書活動を充実すること。また,地域の図書館や博物館,美術館,劇場,音楽堂等の施設の活用を積極的に図り,資料を活用した情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実すること。

 この記述から、学校教育では学校図書館の利活用が適切になされ、学校図書館の充実を図っていくことの重要性が理解できるのではないでしょうか。

学校図書館と「読書バリアフリー」への対応

 先に日本図書館協会が、「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」(*2)を示しているということを紹介しました。
 このガイドラインでは、その対象について次のように記載しています。
 「図書館法でいう公立図書館・私立図書館の他、図書館同種の施設等、市民が利用するあらゆる図書館を対象とする。さらに、学校図書館や大学図書館、その他の学校にある図書館・室等も対象とする」。
 学校図書館と公共図書館は根拠となる法律が異なっていますが、この「ガイドライン」では、学校図書館もその対象となっていることがわかります。したがって、学校図書館は、「障害者等の読書環境の整備」の推進の面でも整備が求められているということになります。

「障害者等の読書環境の整備の推進」と「読書バリアフリー法」

 それでは、「障害者等の読書環境の整備」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか。2019年6月28日に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」(*5)が施行されました。
 「読書バリアフリー法」は、視覚障害、発達障害、肢体不自由などの障害によって読書が困難な人々の、読書環境を整備することを目指して制定されたもので、「障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現」を目的とし、国や自治体に、視覚障害者等の読書環境を整備する責務を定めています。
 その第9条には、視覚障害者等が利用しやすい媒体(点字図書・拡大図書・電子書籍等)の充実と、円滑な利用のための支援が行われるよう、国や自治体が必要な施策を講ずることが記されています(*6)

出典:文部科学省ホームページ
https://www.mext.go.jp/

 ここに記されている内容が、公立図書館等とともに学校図書館においても求められているということになります。このようにみてくると、学校図書館も「読書バリアフリー」環境の整備に無関係ではないことが一層明確になるのではないでしょうか。インクルーシブ教育システムの構築という観点からも、学校図書館がこうした内容の整備、充実を図っていくことは意義あることだと思われます。啓発用のリーフレットも作成されていますので、詳細についてはこちらを参照してください(*7)
 なお、「読書バリアフリー法」の制定に先立って、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(「通称:教科書バリアフリー法」)が制定されています(*8)。この法律の施行により、教科用特定図書等(いわゆる拡大教科書)が発行されるようになりました。本稿では詳しく触れませんが、「教科書バリアフリー法」が、「読書バリアフリー法」の成立にも大いに寄与したことをお伝えしておきたいと思います。

「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」による調査

 文部科学省のウェブサイトに「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」というページがあります(*9)
 文部科学省総合教育政策局地域学習推進課が「図書館における障害者利用の促進」事業に基づいて設置したコンソーシアムであり、東京大学先端科学技術研究センター近藤武夫研究室が事務局として運営しているものです(*10)
 この「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」では、令和4年度に学校図書館における体制や図書・データの共有について実態を把握するために、特別支援学級を設置している小中学校及び特別支援学校を対象としたアンケート調査を実施しました。その結果がサイト上に公開されています(*11)。回収率が低いため、実態を反映した結果になっていないところがあるかもしれませんが、学校図書館への専門性のある職員の配置、図書購入費の確保、「読書バリアフリー」に関する蔵書や資料の共有の課題など大変興味深い結果が示されています。この実態調査の結果の概要を以下に示します。

主な調査結果

学校図書館の配置人数の平均
通常学校では司書教諭0.8名、学校司書0.8名、ボランティア3.7名。
特別支援学校では司書教諭1.1名、学校司書0.6名、ボランティア1.4名。
図書館担当として任命されている司書教諭
通常学校では、ゼロは約3割、学校司書ゼロも約3割、ボランティアゼロは約7割。
特別支援学校では、図書館担当として任命されている司書教諭ゼロは約4割、学校司書ゼロは約7割、ボランティアゼロは約9割。
学校司書の配置について、通常学校より特別支援学校の方が、統計的に有意に少ない人数でした。
非常勤の学校司書
通常学校では週あたり平均2日、勤務時間は平均10時間。
特別支援学校では週あたり平均0.4日、勤務時間は平均1.9時間と少ないことが示されました。
ただし、数値の偏りがとても大きく、中央値で確認した場合は、
通常学校では週あたり1日勤務、勤務時間は5時間。
特別支援学校では週あたり0日、勤務時間は0時間。
学校図書館専用の部屋の有無
「専用の部屋がない」通常学校で4.5%、
特別支援学校では31.4%。
学校図書館の図書購入費の平均額
通常学校では約40万円、
特別支援学校では約18万円。
通常学校より特別支援学校の方が、統計的に有意に少ない。
バリアフリー図書・資料
約7割~9割の通常学校、
約6割~9割の特別支援学校に蔵書がない。
特別支援学校においては、点字図書や拡大図書等は2割程度、さわる絵本も4割程度蔵書。特別支援学校には、障害種ごとの困難さに対応した蔵書がある学校もあるようですが、偏りも大きく、蔵書がある学校とない学校の差が大きい可能性が示唆されました。
デジタルデータ(テキストデータやEPUB等)
通常学校、特別支援学校ともに、蔵書はほぼない。
バリアフリー図書・資料の製作・取り寄せ・提供経験
9割以上の学校で経験なし。
学校図書館でもバリアフリー図書・資料の製作やその共有、またデータの公衆送信ができることについて
「知っている」という回答は約1割、
「知っているが具体的にはわかっていない」という回答は約3割。

示された課題

この調査では、結果から次のような課題点を示しています。

  • 学校図書館には専門性のある司書教諭や学校司書の配置が少ない。特に、特別支援学校では学校司書ゼロも多く、図書購入費の予算も通常学校の半分以下。
  • バリアフリー図書の蔵書状況もとても少ない。
  • 専門性のある司書教諭や学校司書の配置やバリアフリー図書・資料の効果的な共有方法の構築が求められる。
  • 著作権法第37条で認められている、学校図書館による資料の製作・取り寄せ・提供に関する正しい知識の啓発も必要。

まとめ

 学校図書館は、公立図書館と法的根拠は異なりますが、同じ図書館として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」や「読書バリアフリー法」の対象となっています。
 「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」の調査によると、それらへの対応状況は大変厳しいものでした。しかし、この状況には無理からぬ点もあるかと思います。そもそも、学校図書館自体の整備が学校図書館法に照らして十分とはいえない状況にあるからです。文部科学省の令和2年度「学校図書館の現状に関する調査」によると、次のような状況が示されています(*12)

(1) 「学校司書」を配置している学校の割合は、小・中・高等学校でそれぞれ68.8%、64.1%、63.0%であり、小・中学校は前回より増加したが、高等学校は減少。
(2) 学校図書館図書標準を達成している学校の割合は小・中学校でそれぞれ71.2%、61.1%であり増加しているものの、その割合はいまだ十分ではない状況。

 こうした状況にあって、学校図書館には、「子どもの読書活動のより一層の推進に向けた対応」、「教科等の学習における活用促進に向けた対応」(*13)に加えて、多様な要請への対応も求められているのです。
 こうした課題への対応については、現状では、「各学校・地域の実情に応じつつ積極的に対応していくことが、期待される」というところにとどまっているのですが、学校図書館の置かれている状況をしっかり認識し、新たな課題として浮かび上がってきた「読書バリアフリー」等への対応についても引き続き注視していく必要があるように思います。「インクルーシブ教育システムの構築」という観点からも大切なことだといえます。

*1:日本図書館協会「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/201603seminar/sengen.pdf
*2:日本図書館協会「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline.html
上記の内容を筆者が要約。
*3:学校図書館
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/meeting/08092920/1282744.htm
*4:『小学校学習指導要領』
https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_01.pdf
*5:視覚障害者等の読書環境の整備(読書バリアフリー)について
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm
*6:視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=501AC0100000049
*7:誰もが読書をできる社会を目指して~読書のカタチを選べる「読書バリアフリー法」~(啓発用リーフレット)
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_01304.html
*8:「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(通称:教科書バリアフリー法)について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/1378183.htm
*9:読書バリアフリーに向けた取組について 学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアムについて
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_01809.html
*10:進めよう、豊かな読書活動 学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム
https://accessreading.org/conso/
*11:令和4年度アンケート結果速報
https://accessreading.org/conso/report/
*12:令和2年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1410430_00001.htm
*13:これからの学校図書館に求められる課題
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/meeting/08092920/1282750.htm