学び!とPBL

学び!とPBL

学校の中と外で対話の場を作る(中学校でPBL④)
2024.01.22
学び!とPBL <Vol.70>
学校の中と外で対話の場を作る(中学校でPBL④)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の取り組みを通して見ていきましょう。今回は、コロナ禍の2年目から3年目の実践です。

1.学年の立志式をみんなで創る

 11月になり、2年生の生徒たちは来年2月の立志式の企画を始めました。
写真1 実行委員ミーティングと彼らに寄り添い支える担当の三井教諭(写真奥) 例年、森田中の立志式では、福井の幕末の志士、橋本左内の『啓発録』(*1)とその信念を学び、生徒各自が「私の啓発録」を作成し、学年として学年訓を作成してきました。当日はそれらを保護者の前で唱和したり、個人の目標を宣言したりしていました。しかし、コロナ禍で唱和をしたり、合唱したりすることが制限されています。教師は、何とか生徒の未来につながるセレモニーとその準備を経験させたいと思案した結果、生徒たちによって立志式実行委員会が結成され、三井教諭と田村教諭が彼らの活動を支援することになりました。

写真2 立志式実行委員ミーティングの記録の一例

 生徒は「未来」をテーマに、これからの森田中学校をどうデザインしていくか、後輩の1年生たちとラウンドテーブル形式で対話する会を企画しました。「対話の場をどうつくりだすか」という課題で、彼らは当日に向けて、テーマやファシリテーションの探究がはじまりました。参加者の話をつなぎ、場をつくるファシリテーターを生徒が担うことは難しいのではないか、また教師もうまく教えることができるか、いずれも不安でした。担当の三井教諭と田村教諭は、「ファシリテーションについて生徒も教師も一緒に学びましょう。」と発案しました。
写真3 実行委員たちによる模擬ラウンドテーブルとそれをアドバイスする田川氏 そこで、地域の大学生起業家(一般社団法人BEAUの田川裕大さん)(*2)にアドバイスをもらい、教師間でラウンドテーブルをやってみました。生徒たちも仮テーマでラウンドテーブルを行ったところ、「テーマが難しい。テーマ次第だ。」「喋らない人にどう振ったらいいかわからない。」「話がもたない。」「当日は1年生も入ったら、話が噛み合わないのでは。」などの課題が生まれます。その後もテーマを変えながら総合の時間にラウンドテーブルを積み重ねていきました。「テーマ」「巻き込み方」「対話」がキーワードになりました。

2.学年訓「自律する」

写真4 立志式 学年訓「自律する」 学年訓は実行委員がアンケート(学年の生徒全員に実施)をもとに各学級での話し合いや学年全体の話を通して設定していくことにしました。「最終学年に向けて、また進路選択に向けてもっと成長していきたい。」という声をもとに、いろいろな学年訓の案が出されました。最終的に設定された学年訓が「自律する」で、これは「自分の気ままを抑え、自分で立てた規範に従って、自分のことは自分で行い、自分で考え判断し主体的に行動する」という意味が込められていました。さらに、これを軸に、「弱い自分に勝つ」「何事にも積極的に」「礼儀正しく」「優気をもつ(*3)」の四つの訓も設定されました。
 体育館の立志式を終え、次に各教室に移動し、「ラウンドテーブル」となります。1年生4人と2年生3人でグループになり、ファシリテーターがその場を運営していきます。まずは自己紹介やアイスブレーキングをし、各自の「啓発録」をグループ内で発表しました。当日実行委員の生徒たちが設定したテーマは「これからの森田中学校をどんな学校にしていきたいか。」自分たちだったら「こんな学校にしていきたい」、「こうなったらいいな」という思いを共有していきました。
写真5 立志式後のラウンドテーブル「森田未来フォーラム」保護者は横で参観 「うまく進行できなかった。」と悔しい思いをしていた生徒もいましたが、教師も保護者もその姿を見て、彼らの挑戦と成長の姿を見取ることができた貴重な場となりました。
 ファシリテーターを務めた生徒の一人は、「正直、いろいろな人に「どう思う?」と聞くのは難しいことでした。でも、積極的に聞くことで、自分たちの会話が広がるということを実感でき、本当に楽しかったです。」と答えていました。別の生徒は、「1年生はあまり発言をしない子が多かったので、場を和ませるようにするのが難しかったです。意見を言い合うときに、その理由などを聞いたとき、あまり追究できなかったので改善したいです。」と振り返っていました。これらは、学年だよりに編集され、学年の生徒や保護者、教師と共有されました。

3.赴任3年目 みんなが集まるスケートボードパークをつくりたい

 森田推し隊プロジェクトで、森田地区の公園について調査してきた生徒たちは「スケートボードパークを森田地区につくりたい」と考えるようになりました。アイデアをもとに、市のスポーツ課や公園課などに取材しながら企画書を作成していきます。地域内でスケートボードをするところはあまりなく、「スケートボードは不良がする」というイメージをなくしたいという思いをもっていました。保護者も応援し、調査活動にも協力してくれました。地区内の公園にパークをつくるのはなかなか難しいことがわかってきましたが、諦めることができませんでした。
 そんな時、県が企画する「福井発!ビジネスプランコンテスト2020」(*4)に出場してはどうかという案が生まれました。生徒と教師で企画書を作成し、出品したところ、何と予選を通過し、2月の最終選考会に出場することになったではありませんか。

写真6 高原さんの事務所にて、プレゼンテーションのレクチャーを受ける生徒写真7 熱心にメモを取り、プレゼンテーションのスライドを改良していく生徒たち

 5分間のプレゼンについて先の大学生起業家・田川さんにアドバイスを受けたところ、生徒たちは自分たちの作成してきたプレゼンをもう一度つくり直したいと言い出します。せっかくつくったプレゼンを大胆に削り、その後2ヶ月にわたって熱心にプレゼンの指導を受けました。さらに、もう1人彼らの探究を支援指導してくださったのは、特定非営利活動法人アントレセンターの高原裕一さん(*5)でした。高原さんはご自身の事務所において、休日の朝、数回にわたり、彼らと対話しながら相手に思いを伝えるプレゼンテーションとは何かを熱心に教え伝えてくださいました。彼らもまたそのアドバイスを熱心にメモ帳に記録をとりながら質問し、自分たちのプレゼンテーションに納得がいくまで練り上げていました。「スケボー少年=不良」ではないことを、まさに彼ら自身がその努力の姿で証明していきました。
 発表前、彼らは次のように語っています。
 「みんなに、スケートボードというスポーツの良さを知ってもらうために、3人で努力してきました。学年代表、学校代表として、全力で「森田推し隊」の活動のことや今まで努力してきたことをこのコンテストにぶつけて、「愛と感動のプレゼンテーション」ができるようにがんばってきたいと思います。」「本番では、自分たちが考えたことをしっかり説明して、スケートパークをつくれるように、全力でプレゼンテーションをしていきたいと思います。」
 そして、いよいよコンテスト本番がやってきました。

 プレゼンテーションの様子は、YouTubeで公開されています。ご覧ください。
 https://youtu.be/mRWzrUdkQTM?t=787

 大学生や高校生、一般に交じって、2ヶ月間かけて練り上げてきたプランを5分間で来場者にプレゼンテーションし、最後に3つの目標を述べました。「スケートボードの印象を良くして、みんなに楽しんでほしい」「世界有数のスケートパークをつくる」「福井をより活気のある街にする」。結果、奨励賞とスポンサー賞を受賞しました。

写真8 当日のコンテストの様子写真9 生徒たちが作成したコンテスト用ポスターといただいた奨励賞(増田喜賞)

 当日は保護者だけでなく、同級生、校長や担任、学年の担任も応援に駆けつけました。生徒たちには、自らの新しいチャレンジによって、今までになかった視点や人との関わりが生まれたことが、また、教師たちには彼らの成長や見出せていなかった才能を発見できたことが、大きな価値として残りました。

*1:橋本左内「啓発録」 福井県教育総合研究所 教育博物館資料
https://www.fukui-educate.jp/museum/information/archives/113
*2:一般社団法人BEAU
高校生を対象に、プロジェクト型探究学習やリベラルアーツ教育などを通して地域社会に密接に関わりながら主体的に学んでいく学習環境を提供する教育機関
https://www.beauproject.net/
*3:「優気」は、優しい気持ちと勇気をもって行動するという実行委員たちが作成した造語。
*4:福井発!ビジネスプランコンテスト
地域経済の活性化につながる新事業発掘をめざすビジネスプランコンテスト
https://www.facebook.com/fukuibpc
*5:特定非営利活動法人アントレセンター
起業家を志す者に対して、起業のための研修会や勉強会などの教育事業、研究開発などに取り組むNPO法人
https://www.yalossa.jp/entre/