学び!とPBL

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もりたSDGsプロジェクト② 子どもたちから学ぶエージェンシー(中学校でPBL⑦)
2024.04.24
学び!とPBL <Vol.73>
もりたSDGsプロジェクト② 子どもたちから学ぶエージェンシー(中学校でPBL⑦)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の取り組みを通して見ていきましょう。今回は、2023年度に木下先生が学年主任を務めた第3学年が取り組んだ実践です。

1.⼈と交流する修学旅⾏を実現したい!

 2023年4⽉、「もりたSDGsプロジェクト」の⽣徒たちは第3学年に進級しました。⽴志のつどいを終え、3年⽣としての気持ちの⾼まりも⾒え、⽣徒会活動や部活動においても主体性のある頼もしい姿が多く⾒られるようになってきました。
 そんな彼らは年度末から5⽉の修学旅⾏に向けて企画、準備を始めていきました。コロナ禍も収まりを⾒せ、修学旅⾏前の5⽉8⽇には「5類感染症」に移⾏することもあり、修学旅⾏は数年ぶりに県外2泊3⽇で⾏うことが確定しました。
 この修学旅⾏に向けて実⾏委員が公募され、実⾏委員と教員で企画や準備を進めていきました。そんな中「観光ではなくて、東京で⼈と交流したい。」という声が出てきました。体験したり、⾒学したりする修学旅⾏のイメージが、教員の中ではいつの間にか標準的になっているのですが、⽣徒たちは「せっかくSDGsとか、インクルーシブとかをテーマにしているのだったら、それをテーマに調査とかできませんか?」「東京にいる⼈たちのSDGsに対する考えを知りたい。」「東京の学⽣さんと交流したい。」などの意⾒がミーティングや普段の会話の中で聴こえてきました。
 そこで、かつて交流のあったかえつ有明中⾼等学校(*1)を、実⾏委員の⽣徒たちの作成した企画書をもって、修学旅行の下見を兼ねて学校を訪問することになりました。経緯や生徒たちの思いを伝えると、快く引き受けてくださり、「お互いの⽣徒たちが、この⽇までにオンラインで打ち合わせしながら企画や運営ができるといいですね。」と提案してくださいました。相⼿は⾼校3年⽣になります。
 福井に戻り、実⾏委員の⽣徒たちに伝えると、提案が実現することをとても喜び、早速、放課後にオンラインで打ち合わせを始めます。「アイスブレーキングをしたほうがいいよね。」「司会はどうする?」「グループ編成は?」「こちら(かえつ⽣)は、SDGsだけじゃなくて、⼀⼈⼀⼈がプロジェクトをしているんだけどいい?」「⼤丈夫です。きっと何かつながっていると思います。」「福井の地⽅と東京の都会での共通点や違いも知ることができたらうれしいです。」と、数回のミーティングを重ね、いよいよ当⽇を迎えます。

 森⽥中⽣は⽴志のつどいで発表した「マイプロジェクト啓発録」をミニポスターとしてテーブルのメンバーに発表しました。かえつ⽣は、実際に地域や企業と関わりながら企画を実現したり、世界とつながってプロジェクトを進めたり、⾃分の卒業後の進路にもつなげていたり、起業していたりして、彼らのプロジェクトの内容とプレゼンに森田中⽣は引き込まれていきました。わくわくしながら⽣徒も教員も交流でき、貴重な時間となりました。

 修学旅⾏後、2学年主任と相談して、2学年の校外学習でのまとめの発表会と合同で、校内ラウンドテーブルを開催しました。⼩グループになって互いの学びを交流し、これからの森⽥中学校でどんなチャレンジをしていきたいかを対話する時間が⽣まれていきました。

2.⾃分たちも地域でこれまでの学びをつなげたい!

 校区の森⽥公⺠館(*2)の館⻑と公⺠館主事から「もりたSDGsプロジェクトの会議を地域の⽅々と⼀緒に企画運営しませんか」と中学⽣に提案がきました。会議はどうしても休⽇になってしまいますが、10数名の⽣徒が参画の意思を表明しました。
 これまでのもりたSDGsプロジェクトの活動は調査したことを発表したり、広報誌などで発信したりする活動が主でした。しかし、コロナ禍も収まり、地域の⽅々との関わりを増やしていこうという気持ちが⾼まりました。公⺠館会議室でのミーティングを通して「集会所やデイサービスに参加する⾼齢者の⽅々にSDGs講座を開催しよう。」「森⽥地区のごみ拾いイベントを開催しよう。」という2つのプランが⽣まれました。
 ごみ拾いイベントは、1年⽣の時に調査した地域の企業が企画する「ピカピカプラン」というゴミ拾いイベントを参考に、みんなが参画できるイベント内容を地域の⽅々と話し合いました。「どうやって広報する?」「クリーンピックという競技形式にしよう!」「ルールはどうする?」「ゴミの分別は?」「みんなで巡回してチェックしていこう!」「軽量と点数計算は?」「回収したあとのゴミはどうする?」など、⼤⼈も子どもも⼀緒になって議論していきました。これと併⾏して、中学⽣による「SDGs講座」も地区の数箇所で開催されました。中学⽣たちがリトルティーチャーとなってSDGsを広報し、地域の⽅々と対話しながら⾃分たちの学びをつなげていきました。

公⺠館でのもりたSDGsプロジェクト会議集会所での地域の⽅に対するSDGs講座

 9⽉、数ヶ⽉に渡り準備してきた「もりたクリーンピック2023」が開催されました。実⾏委員は朝早くから集まり、会場を準備し、参加者を迎え⼊れました。スタートの合図がなされ、いよいよ各チームが分別ごとに分けられた袋をもって森⽥のまちに繰りだしていきました。制限時間が設定され、ゴミの種類ごとに計測場所も分けられ、実⾏委員が計測し点数化していきました。どのチームも、楽しみながらまちを美しくした実践を共にできたことを喜び合いました。

3.中学3年⽣冬の校外学習はどう?

 9⽉、中学3年⽣にとって「学校祭が終わったら受験モード」というのが⼀般的です。そんな中、福井ラウンドテーブルに参加してきた⾦津中学校、丸岡⾼校と「学びをつなげる」ことについて、実践交流しながら⼀緒に考える会を企画してみようという案が⽣まれました。きっかけは⽣徒ポスター発表での⽣徒同⼠の交流からでした。教員同⼠もそこでつながり、連絡を取り合うようになりました。
 そして12⽉15⽇、あわら市のあわら市中央公⺠館において、「夢と探究を語るラウンドテーブル」を開催しました。3校の⽣徒がこれまで取り組んできた「探究を通した学び」を互いに実践報告し合いました。
 最初に、3校の生徒の代表が各校の実践についてプレゼンテーションを⾏いました。森⽥中学校はSDGsプロジェクト実⾏委員の⽣徒がこれまでの「もりたSDGsプロジェクトの3年間の取組」を発表しました。⾦津中学校は「あわら考古学」「個⼈探究での取組」を、丸岡⾼校は「みらい共創」や「地域協働探究」など⾼校での探究を紹介しました。
 これをもとに、丸岡⾼校の⼭内校⻑、森⽥中学校の髙間校⻑からご講評やご助⾔をいただき、グループごとのラウンドテーブルへと移っていきました。テーブルは全43、ファシリテーターは丸岡⾼校2年⽣がしてくださいました。森⽥中3年⽣は「My story」という森⽥中学校での⾃分の実践や探究の学び、将来の夢をポスターにまとめ、グループのメンバーに紹介しました。
 「森⽥中学校、⾦津中学校、丸岡⾼校がこうやってつながることで、また新しいことが⽣まれると感じた。」
 「中学⽣でもしっかりと探究に取り組んでいて、⾼校での探究もさらにいいものにしたいと刺激を受けた。」
 「⾦津中学校は⼀⼈⼀⼈がしっかりとテーマを設定して、探究に取り組んでいてすごかった。」
 「森⽥中学校は探究と⾃分のこれからの⽣き⽅についてもつなげて考えていたのがすばらしかった。」
 「森⽥中学校は地域だけでなく、ASEANやOECDなど世界とつながろうとしているのに驚いた。」など互いに感動したこと、学んだことを交流し合っていました。

 最後に福井⼤学教職⼤学院の⻄川先⽣から「中学校から⾃分でテーマを設定して、探究し、学んだことを語れることに感動しました。このような経験は将来につながる⼤切な⼒になる。また⾼校⽣活や社会でも、探究での学びを活かしてください。」とメッセージをいただきました。

 福井県内の⾼校はどの学校も「探究」をキーワードにこの数年で⾰新が進み、魅⼒ある学校⽂化やカリキュラムを構築してきています。どの学校に進学しても、そこで⽣徒⼀⼈⼀⼈が⾃分の才能を⾼め表現しようとする主体性(エージェンシー)を発揮し、仲間(⽣徒だけでなく教員、地域の⽅々、保護者、ステークホルダーなど)とつながりながら学校づくり、地域づくり、未来づくりを共に取り組み(コ・エージェンー)、⽣きていく喜びを実感していってほしいと願います。

*1:かえつ有明中・⾼等学校
https://www.ariake.kaetsu.ac.jp/
*2:森⽥ 公⺠館 SDGs通信
https://morita.cf0.jp/files/SDGs通信②%20(最終完成版).pdf

森田中学校の取り組みは、森田中学校の「学校ブログ」で紹介されています。
https://morita-jhs.edumap.jp/school-blog