小学校 図画工作

小学校 図画工作

「誕生〜身近な段ボールで新しい造形表現に挑戦〜」(第6学年)
2024.05.02
小学校 図画工作 <No.058>
「誕生〜身近な段ボールで新しい造形表現に挑戦〜」(第6学年)
埼玉県さいたま市立常盤小学校 飛知和朋子

1.題材名

誕生〜身近な段ボールで新しい造形表現に挑戦〜

2.学年

第6学年

3.分野

立体に表す

4.時間数

8時間(鑑賞1時間・表現6時間・鑑賞1時間)

5.準備物

児童: 段ボール
教師: 段ボールカッター、水で薄めた木工用ボンド、お椀、刷毛、バインダークリップ、洗濯用たらい、PEテープ、ブルーシートなど

6.題材設定の理由

 さいたま市では芸術家をゲストティーチャーとして迎えて授業を行う「アート・イン・スクール(ゲストティーチャー派遣事業)」を実施している。将来の文化芸術の担い手である児童に対して芸術家や本物の作品に触れる機会を提供することで、感性と想像力を育み、豊かな情操を培い、文化芸術を愛する児童を育成する取り組みである。本校では、埼玉県在住の造形作家、玉田多紀さんをゲストティーチャーとしてお迎えし、段ボールを使って6年生を対象に「立体に表す」題材を設定した。
 ネットショッピングの需要が増加する中、段ボールは生活の中でとても身近な素材の一つとなっている。また、とても丈夫で厚みがあり、立体表現に適している。さらに、水で濡らすと柔らかくなり、張り子のように紙を張り重ねながら形をつくったり、粘土のように丸めて伸ばしたりすることも可能である。段ボールは、高学年にとってより手応えのある素材であると考える。そんな段ボールを自分で集めて思う存分に使い、普段なかなかつくれない大きさの立体に表すことで、より達成感が得られるのではないかと考えた。
 そこで、本題材は、チームで共同して活動する時間にしたいと考えた。友人との交流によって、さまざまな発想や構想、アイデア、表し方などがあることに互いに気付き、表現や鑑賞を高め合い、共に活動をつくりだしている実感がもてるような時間にしていきたい。また、高学年では自分なりの見通しをもつことで表現の質をより高めることができるようになるので、アイデアスケッチをかいたり、画像を検索したりして、グループの中でつくりたいもののイメージが共有できるような時間も設定していきたい。

7.題材の目標

【知識及び技能】

  • 段ボールを扱うことを通して、形や色などの造形的な特徴を理解する。〔共通事項〕
  • 表現方法に応じて段ボールを活用するとともに、段ボールカッターなどについての経験や技能を総合的に生かしたり、表現に適した方法などを組み合わせたりするなどして、表したいことに合わせて表し方を工夫して表す。

【思考力、判断力、表現力等】

  • 形や色などの造形的な特徴をもとに、自分のイメージをもちながら段ボールを扱い、感じたこと、想像したこと、伝えたいことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴、構成の美しさなどの感じを考えながら、どのように主題を表すかについて考える。
  • 自分たちの作品の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴、表し方の変化などについて、感じ取ったり考えたり、自分の見方や感じ方を深める。

【学びに向かう力、人間性等】

  • 主体的に段ボールを使って表したり鑑賞したりする活動に取り組み、つくりだす喜びを味わうとともに、形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとする。

8.題材の評価規準

【知識・技能】
 段ボールを扱うことを通して、形や色などの造形的な特徴を理解している。〔共通事項〕
 表現方法に応じて段ボールを活用するとともに、段ボールカッターなどについての経験や技能を総合的に生かしたり、表現に適した方法などを組み合わせたりするなどして、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。

【思考・判断・表現】
 形や色などの造形的な特徴をもとに、自分のイメージをもちながら段ボールを扱い、感じたこと、想像したこと、伝えたいことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴、構成の美しさなどの感じを考えながら、どのように主題を表すかについて考えている。
 自分たちの作品の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴、表し方の変化などについて、感じ取ったり考えたり、自分の見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
主体的に段ボールを使って表したり鑑賞したりする活動に取り組み、つくりだす喜びを味わうとともに、形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとしている。

9.指導計画(全8時間)

造形作家の作品を鑑賞し、造形的な美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりする。(1時間)
チームに分かれ、表したいものを決める。
表したいものに合わせて、段ボールで土台をつくる。(2時間)
段ボールを水で柔らかくして薄くはがし、それを重ねたり丸めたりして表現方法を工夫する。(4時間)
自分や友だちの作品を鑑賞し合う。(1時間)

10.活動の様子

造形作家と出会い、作品を鑑賞し、造形的な美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりする。(1時間)
 造形作家や作品との出会いは、児童にとって一期一会、特別なものにしていきたい。その特別な出会いを演出するためには、場の設定がとても重要である。図工室の机を廊下に出し、広い空間をつくる。児童の視線が作品に集中できるよう棚には布を掛ける。児童が図工室に入ってきた時の驚く姿を想像しながら、児童の動線、光の入り具合など考え合わせて作品を置く場所を決め、図工室を美術館のようにする。
 作品鑑賞の際は、本来作品に触れることはないが、玉田さんの提案により、作品に実際に触れ、ボンドで固められた段ボールの硬い質感を味わうことができた。初めは一人でじっくり見たり、友だちと会話をしながら見たり、自由に作品を味わう時間を設定した。その後、玉田さんと児童が対話をしながら作品の謎解きをしていく時間を設定した。作者の思いを聞くことで作品の見え方が変わってくるという、最後までワクワクが止まらない素敵な時間となった。

チームに分かれ、表したいものを決める。
表したいものに合わせて、段ボールで土台をつくる。(2時間)

 チーム分けは児童にとっても教師にとっても重要である。教師によって意図的につくられたチームの場合、最後まで自分の意見が言えずに、相手に合わせてしまうケースも見られる。児童一人ひとりの力が発揮されないチーム分けは、チームで活動する意味がない。「自分がしっかり輝けるチームづくりをすること。チームで活動するよさを感じてほしいので、学級の中で仲間はずれがいたり、二人だけで活動したりすることがないようにチームをつくること」という条件を児童に提示し、チームづくりを委ねる。児童に委ねる理由としては、普段遊んでいる友だちだと意見が言いやすかったり、自然体でのびのび活動できたりするよさがあるからである。
 チームが決まったら、表したいもののアイデアを出し合った。見る人に何を伝えたいのか、テーマや思いを話し合いながら、イメージスケッチをしたりパソコンで画像を検索したりしながらチームのメンバーとイメージを共有していった。具体的なイメージが共有できたら実際に段ボールで土台となる形づくりに取りかかった。段ボールの特徴を捉えて形づくり、大きくなればなるほど段ボールの重さも加わってくるので、全体のバランスを考えながら丈夫に立体にしていくことが求められる。何度も試行錯誤しながら取り組み、どんどん作品が大きくなっていき、授業の最後に作品を運ぶ姿には笑顔が見られた。朝や休み時間、放課後にも図工室に作品を見に来る児童の姿もあり、次の時間を心待ちにしている様子が見られた。

段ボールを水で柔らかくして薄くはがし、それを重ねたり丸めたりして表現方法を工夫する。(4時間)
 段ボールを洗濯用たらいにひたして柔らかくすると、3層になっていた段ボールが綺麗にはがれる。水を含んだ段ボールは、児童が知っている段ボールとは違った質感に変化し、表現の幅がさらに広がっていく。柔らかくなった段ボールは張り子のようでもあり、粘土のようでもある。また、児童に、段ボール箱の表面に出ている部分には色の加工がされていて、内側の部分には色の加工がされていないことも伝え、仕上がりの色を考えながら表していくことを提案する。その際、玉田さんの作品は黒板前に置き、色の違いや表現方法など自分が必要とするタイミングで作品を見ることで、鑑賞と表現が行き来できるようにしている。
 水で濡らすことで段ボールの素材の面白さを感じながら、児童はより夢中になり没頭する姿が見られた。自分たちが表したいことに合わせて、はがした段ボール1枚1枚にボンドを塗ってぴったり貼り付けたり、丸めたり、ふさふさした毛並みを表現したりして工夫する姿が見られた。また、乾いた後の色を想像しながら段ボール箱の色を使い分ける姿も見られた。

自分や友だちの作品を鑑賞し合う。(1時間)
 いよいよ、最後の鑑賞の時間。題材の最後に鑑賞の時間を1時間設定することはほとんどないが、アート・イン・スクールでは6時間で完成させた6年生の作品、32点を図工室に展示し、1時間の鑑賞時間を設定した。児童がどのように展示したいのかを確認しながら、図工室の箱いすや棚の上に乗せたり、テグスで吊るしたりして展示した。まずは自由に鑑賞し、その後、全体で作者の発表を聞いたり感想を伝えたりする時間を設定した。作品カードは、作者の伝えたいことを全て記入せず、見る人が謎解きをしながら作品を見ることができるようなタイトルや文章にしている。
 人数が多ければ多いほどチームで出る意見が多くなる。作品カードを作成する時にも意見を出し合いながら、思いを伝えるための短い言葉を真剣に考え、お互いに折り合いをつけて作品カードを完成させていた。6時間の中で、意見が合わずに言い合いになる姿や、リーダーシップを発揮する姿、チームで黙々とつくる姿など、共同する活動を通して普段見られない姿も見ることができた。何度も意見を対立させながらつくり上げたチームも、終始お互いを褒め合うチームも、作品発表の時間の達成感は格別なものとなったはずである。

《児童の作品カードより》

『ここはどこ…?』
あなたは龍が存在すると思いますか?かつての龍を想像し、現実とつなげました。この龍は一体どこからきたのでしょう…?

『20XX年〜現状〜』
海洋ゴミがどんどん多くなり、20XX年には、海の生き物を食べることが全くできない状態に。生き物たちもゴミにからまったり、間違えて飲みこんで死んだりと苦しい生活になった。こんな未来を救うことができるのだろうか…。

《振り返りカードより》

段ボールを水でぬらしてはがしてみると、色が違うところが段ボールのいいところだと思いました。段ボールでこれだけの表現ができるのはすごいと思いました。玉田先生の服やイヤリングなどのように小物もつくれるのはとてもすごいなと思いました。

みんなと協力して誰が何をやるか分担しながらやっているうちに、途中で崩れてしまい安定しなくなりました。でも、下に土台をつくることで安定させることができました。大量の皮(段ボールを水で濡らしてはがしたもの)をつくって貼るのは大変だったけど、楽しくつくることができました。完成したあと気付いたのですが、私たちがつくった作品は乗ることができます!

みんなの作品のクオリティーが高くてびっくりしました。特に、『ここはどこ…?』の作品は、マンホールからりゅうがでているものだそうですが、りゅうが今にも動き出しそうなくらいリアルで鼻すじや歯などの細部までこだわっていてすごいなと思いました。自分たちの作品は皮(段ボールを水で濡らしてはがしたもの)にすごくこだわりました。そして、つくり上げたものを見ると結構リアルで、つくった自分もびっくりしました。