学び!とシネマ

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国際市場で逢いましょう
2015.05.15
学び!とシネマ <Vol.110>
国際市場で逢いましょう
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

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 お隣の国、韓国の映画「国際市場で逢いましょう」(CJ Entertainment Japan配給)を見た。ここ60数年の韓国の現代史が鮮やかに浮かび上がる優れた映画だった。
 内閣府の「外交に関する世論調査」というものがある。このなかに、日本の人たちが韓国という国に対する好感度、いわば、親しみの程度を示した調査がある。さまざまな韓流ブームを反映してか、2009年には約63%の日本人が韓国に親しみを感じている。これが、2012年には約39%にダウンしている。韓国の政府関係者の発言などが、いろんな形で報道された結果だと思われるが、かなり好感度が落ちている。では、韓国の人たちの日本への好感度はどうか。この2月の韓国のギャラップ調査では、わずか14%。親しみを感じない人は74%もいて、これは過去最低の数字だという。もっとも、1,000人ちょっとの人への調査だが、ずいぶん日本は嫌われているようだ。韓国だけでなく、中国の調査などではもっと日本が嫌われているようだし、逆に、日本人の韓国や中国への好感度も、年々、さらに落ちているかもしれない。ところが、実際には、韓国や中国からの旅行客が、日本のあちこちに押し寄せて多くの買い物をしているようだから、このような調査の数字はあまりアテにはならないかもしれない。

(c)2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

 で、韓国の映画だが、ここ10数年優れた作品が多く公開されている。韓国の現代史にスポットを当てた映画に限定しても、「ユゴ 大統領有故」、「大統領の理髪師」などなど、傑作が多い。「国際市場で逢いましょう」は、現代の韓国、釜山の国際市場から始まる。釜山港を見下ろす高台に、老いたドクス(ファン・ジョンミン)と、妻のヨンジャ(キム・ユンジン)がいる。ドクスは港に停泊する大きな船を見て、船長になりたかった夢を妻に語る。そして、自らの過酷だった人生を振り返る。
 1950年、朝鮮戦争のさなか、興南撤収作戦のあおりで、まだ幼い少年のドクスは、父親(チョン・ジニョン)と幼い妹と離ればなれになる。ドクスは、母親(チョン・ヨンナム)と弟、もうひとりの妹と四人で、なんとか釜山の国際市場で露店を開いている叔母のコップン(ラ・ミラン)の家にたどり着く。朝鮮半島は北と南に分断され、故郷の興南(北朝鮮)に戻れないままになる。ドクスは父親から別れる寸前に聞いた言葉を忘れていない。「これからはお前が家長だ、家族を守れ」と。ドクスは靴磨きや肉体労働をしながら、貧困のなか家族を守り、生き抜いていく。ドイツでは炭坑夫として、ベトナム戦争では技術者として、ドクスはひたすら家族のために働き続ける。
 苦労続きのドクスの人生の背景に、韓国の現代史が見事に重なる。アメリカ軍による興南撤収作戦、ドイツでの炭坑や看護の仕事、ベトナム戦争など、韓国の人たちやドクスが経験した現実を、きちんと再現している。
 「国際市場で逢いましょう」は、韓国国内で大ヒットした。監督は、2009年に「TSUNAMI―ツナミ―」を撮ったユン・ジュギュン。主人公のドクスを演じたのはファン・ジョンミンで、20代から70代までのドクスの人生を力演する。ベトナム戦争で窮地に陥ったドクスを救う兵士ナム・ジン役は、東方神起のユンホで、これが映画デビューになる。決して、深刻、暗い映画ではない。韓国映画独特の笑いが全編に満ちている。涙と笑いがほどよい案配で、なによりも家族を思うドクスの心情に、胸がふるえる。
 戦後70年になる。歴史に翻弄されたのは、ドクスの家族だけではないだろう。それぞれ一般の人たちは、政治絡みのくだらない戦争の犠牲になっている。韓国は日本にもっとも近い外国である。国同士、お互い低い好感度では話にならない。それぞれの歴史を学ぶのは勿論だが、せめて映画を通して、お互いの国のことをもっともっと知り合うようになればいいのだが。

2015年5月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ico_linkシネマート新宿ico_linkほか全国順次ロードショー!

『国際市場で逢いましょう』公式Webサイトico_link

監督:ユン・ジェギュン
出演:ファン・ジョンミン、キム・ユンジン、オ・ダルス、チョン・ジニョン、チャン・ヨンナム、ラ・ミラン、キム・スルギ、ユンホ
2014年/韓国/127分
配給:CJ Entertainment Japan