高等学校 美術/工芸
高等学校 美術/工芸

1.題材名
この絵を再現して(させて)ください ―Adobe Fireflyを用いた対話型協創鑑賞活動―
実施学年:1学年(美術1)
時間数:1時間(45分)
2.題材設定の理由
「楽しく、ゲーム感覚で、共通事項ア(木を見る視点)、イ(森を見る視点)を培うことはできないか」。本題材はこのような問いから出発した。個性や主体性、対話や傾聴、共感や受容などは、教育の域を超えて広く求められるものであろう。これらを並存させながら、先の問いを達成するために、本題材では、Adobe社が提供する生成AI「Firefly」の特性をいかして、対話型協創鑑賞活動を行うこととした。
3.準備(材料・用具)
4.学びの目標
- 鑑賞画像に見られる造形の要素の働きを理解する。
- 鑑賞画像に見られる造形的な特徴などを基に、全体のイメージや作風、様式などで捉えることを理解する。
- 鑑賞画像の主題や作者の意図について、グループで対話的かつ多角的に解釈を深める。
- 鑑賞画像の造形的な特徴や表現の意図を分析し、具体的な再現計画を協創的に構築する。
- 鑑賞活動を通して、美しさや作者の思いを主体的に感じ取ろうとする。
- グループでの対話や協創を通して、多様な意見を尊重し、鑑賞活動に意欲的に取り組む。
5.評価規準
知識
A:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを正確に捉え、再現のために意図的に活用している。
B:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを概ね捉え、再現のために活用している。
C:鑑賞画像から、知造形の要素やその働きを捉えたり、再現のために活用したりするために、さらなる指導・支援が必要だと思われる。
鑑賞
A:鑑造形的な特徴や表現の意図について多角的に考察し、再現する上での課題をグループで主体的に探究し、解決策を協創的に見出している。
B:鑑造形的な特徴や表現の意図について考察し、再現する上での課題をグループで探究し、解決策を見出している。
C:鑑造形的な特徴や表現の意図について考察したり、再現する上での課題をグループで探究したり、解決策を見出したりするために、さらなる指導・支援が必要だと思われる。
態度 鑑賞
A:態鑑賞活動に主体的に取り組み、美しさや作者の思いを感じ取ろうとするとともに、グループでの対話を通して多様な意見を尊重し、協創的に深く関わっている。
B:態鑑賞活動に意欲的に取り組み、美しさや作者の思いを感じ取ろうとするとともに、グループでの対話を通して協創的に関わっている。
C:態鑑賞活動に主体的に取り組んだり、美しさや作者の思いを感じ取ったり、グループでの対話を通して競争的に関わっていくために、さらなる指導・支援が必要であると思われる。
6.指導のポイント
本授業の主教材は、教師が事前にFireflyで作成した鑑賞用画像である。そのため、鑑賞用画像は生徒が共通事項ア・イの視点を働かせながら、再現のプロセスを深く考えられるよう、以下のような特徴を持たせるとよいと思われる。
- 色のグラデーション、独特な質感(とりわけ、光の効果)、複雑な構図など、いくつかの造形要素が絡み合っているもの。
- 鑑賞者(生徒)が物語を想像したり、作者の心情やメッセージを考えたりしやすいもの。
- Fireflyのプロンプトだけでは簡単に再現できない、試行錯誤が必要なもの。
- 多様な解釈が生まれる可能性があるもの。
50分授業や55分授業で実践する場合は、展開の時間を長く設け、生徒がグループ間を往来し、他のグループの視点(プロンプト)や生成された画像などを鑑賞しあう段階を設定するのがよいと思われる。
指導においては、導入で生徒の興味・関心を高め、展開の序盤(ソフトウェアの体験)で生徒が思い切り楽しめるようにすることが重要である。
Fireflyは、プロンプトの入力順によって生成される画像が大きく異なる場合があるため、適宜、その旨を生徒に伝えるとよいと思われる。
共通事項ア・イの視点を理解するために、観賞用画像と生成された画像の共通点や相違点などについて考えたり、発見したりすることにつながる指導助言を適宜挟むことが重要である。
本校の生徒は、実に真面目で、意欲的に学習活動に取り組む(私語も全く見られない)。一方で、筆者が兼務する他の学校には、私語がやめられない、自席に留まることが難しい、といった生徒が多数在籍する学級もある。学習指導要領には「生徒の実態に応じて」という文言が見られるが、あまり深く考えず、当該文言を逆手に取るぐらいの気楽さで、「楽しく、ゲーム感覚で、鑑賞の目を少しでも養ってもらえたらいいな」程度の気持ちで実践していただけると有難い限りである。
7.題材の指導計画
時 |
学習活動の流れ |
指導上の留意点,評価方法 |
|---|---|---|
導 |
・本時の活動を知る。 |
◆今までとは異なる方法で、鑑賞活動を行うことを伝える(ここでは具体的な流れは示さない)。 |
・グループ(1グループ=3~4名)に分かれる。 |
◆生徒の特性に配慮しながら、グループを構成する(年度初めに、自己分析や不安点、配慮希望などに関するアンケートを実施しておくと、グループを作成する際に役立つ)。 |
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展 |
・「これ1」を鑑賞する(1分程度)。 |
◆「これ1」を大型モニターに映し出し、無言で「これ1」を鑑賞するよう伝える。 |
・Adobe Fireflyに登録する。 |
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・Adobe Fireflyの特性を知る。 |
◆Adobe Fireflyには無料生成可能な回数(クレジット)に制限があるため、3回ほど体験したら止めるよう伝える。 |
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・本時の具体的な活動を知る。 |
◆グループで対話的、共感的、受容的に協力しながら、「これ1」の再現に取り組むよう伝える。 |
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・Adobe Fireflyを用いて、「これ1」を再現する・させる。 |
◆グループを見て回りながら、プロンプトを確認し、そこにみられる特徴をもとに助言を行う。 |
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・生成した画像の中から、よいと思う画像を数点ダウンロードする。 |
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ま |
・Google Forms「プロンプト」に用意された問いに答える。 |
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・全員で完成画像を鑑賞し、気づきや感動を共有する。 |
◆完成画像を大型モニターに表示する(可能であれば、観賞用画像と各グループの完成画像を並列表示する)。 |
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・見た目が最も近しいと思う完成画像を選出する。 |
◆選ばれたグループに、こだわった点や苦戦した点などを質問する。 |
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・各グループが活動を振り返り、学びや感動を言語化する。 |
◆上記と同様の質問を、各グループに行う。 |
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授 |
◎ふりかえりシート【知・鑑・態】 |
8.授業を終えて
本実践は、Adobe社のAI画像生成ソフト「Adobe Firefly」を教材として活用し、楽しく、ゲーム感覚で【共通事項】の視点を培うことを目的とした。
Fireflyは、アカウント登録をすることで一定回数まで無料で利用でき、プロンプトと呼ばれるテキスト入力によって画像が生成される。
本実践では、教師(筆者)がFireflyで生成した鑑賞用画像を生徒に提示し、グループで協力してその画像をFireflyで再現させるという課題を設定した。画像を再現するためには、単に色や形といった造形の要素を認識するだけでなく、それらの要素から連想される作者の心情や意図といった、より深い解釈を言語化し、プロンプトとして入力することが求められる。筆者は、この過程で【共通事項】の2つの視点(「木を見る視点」と「森を見る視点」)が自然と働くと予想した。しかし、プロンプトを分析した結果、生徒の多くは視覚的な情報の言語化に留まっており、主題に関するプロンプトはごく僅かであった。これは、筆者の指導助言が適切でなかったからであると思われる(生徒が表層的な情報から内面的な解釈へと踏み込むための助言が乏しかった)。この点については深く反省するところである。
一方で、本実践では、AI画像生成ソフトが、その活用方法によっては、鑑賞の視点を活性化させる有効なツールとなる可能性が確認された。例えば、生徒は、プロンプトが瞬時に画像生成されるという過程で、自身の視点(要求)と生成された画像(結果)との間に生じた相違や違和によい意味で執着していた。また、それ故に、再現(相違や違和の修正)のために、さらに作品を深く鑑賞し、感じたことや見つけたことを言語化するといったサイクルが生じていた。さらには、グループでプロンプトを考案するという過程が、他者の多様な視点に触れ、自身の見方を相対化する良い機会にもなっていた。
今後は、本実践で得られたプロンプトの傾向や生徒の対話の様子を詳細に分析し、生徒一人ひとりの見方・考え方がさらに深まるような指導助言のあり方について考察を重ねていきたい。
下記は、生徒が入力したプロンプトとその生成画像である。なお、プロンプトは生徒が入力した文章を原文のまま掲載している。
プロンプト「赤子を抱き抱える母親だけがいてその母親は黒いヒジャブを着てます。その奥には湖を隔ててインドの宮殿がありさらにその奥から夕陽が差し込んでいます。赤子は白人で母親は少し黒い肌です。画像は少しリアルです。お互いに目を瞑っていて母親は抱き抱えている赤子に視線を落としています。」
プロンプト「左奥に少し大きくインドの建物のタージマハルがあり、その裏から逆光が差し込んでいて手前にいる赤ちゃんを抱えたお母さんが、赤ちゃんのほうを見て微笑んでいて、お母さんは黒いヒジャブを着ていて、赤ちゃんは白い布にくるまれて寝ている。また、タージマハルと親子の間に湖があり、男性はいない。」
プロンプト「白いローブに身を包む赤ちゃんを抱くイスラム教徒の黒のローブを身にまとう女性 水辺のアラジンの宮殿の後ろに夕日 赤ちゃんは女性の腕の中で寝ている 空に鳥のシルエット」
プロンプト「真ん中大きくに黒人女性が肌が白くて白い帽子を被った白人の赤ちゃんを抱いていて、黒人の女性は赤ちゃんを見ている。赤ちゃんは寝ている。服はヒジャブ。 実写化 川を挟んで左に小さくアラビア宮殿があり、夕焼けがかかっている。その奥にアラビア宮殿より低い山があり、少し小さいカラスが夕焼けに向かって飛んでいる 太陽はアラビア宮殿であまり見えていない」
プロンプト「お母さんと子供がいてヒジャブをきていて、お母さんが右側にいて黒を着ていて子供が左側で白を着ていてお母さんが子供を抱っこしている。左側にインド風の城がある。夕日をバックにカラスが飛んでいる。湖が下の方にある。お母さんと子供が画像の近くにいる。少しマットな感じ。」
プロンプト「宮殿と夕日と湖をバック背景に黒いヒジャブを着た女性が微笑みながら白いヒジャブを着た寝ている赤ちゃんを見ているその女性は目を瞑っていて赤ちゃんを胸近くで抱えている夕日は眩し宮殿側から出ていてその上に小さな黒い鳥がいる夕日と宮殿は左側にある。親子との別れを感じられるように湖必要」
プロンプト「右に母親黒いヒジャブ左に白いヒジャブの赤ちゃんを抱っこしている左上に黒い鳥夕日近くにインド風な城大きな湖」
「左側にあるアラビア宮殿から夕焼けが沈んでいて夕焼けの近くで黒い小さい鳥が飛んでいるそして建物と人の間に湖があって黒いヒジャブを着た黒人の女の人が色白の白いヒジャブを着た生まれたばかりの赤ちゃんを抱いている黒人と白い肌赤ちゃんは下を向いて目をつぶっている」
プロンプト「中央に黒色のヒジャブを着ている女の人と白色のヒジャブを着ている赤ちゃん、女の人が右、赤ちゃんが左どちらもお互いを見合って、目を瞑ってる。後ろの背景の左側にタージ・マハルという宮殿があり、それに少し隠れた夕陽が全体を照らしているような感じ 空には上の方に小さくカラスが飛んでいる」
プロンプト「背景の左上にインドの建物のタージマハルがあって後ろから夕陽が見えて手前の右側に白い布に包まれた寝ている赤ちゃんを抱えて赤ちゃんのほうを微笑みながら見ている黒いヒジャブを着た女性」
プロンプト「インドのお城のタージ・マハルとと夕焼けをを背景として、正面にはインド系の黒色のヒジャブを着た女性が赤ちゃんを愛おしそうに抱っこしている様子を描いてください。赤ちゃんの服の色は白色でお願いします。背景は左側にインドのお城を背景にお願いします。絵のタッチはリアル風にお願いします。女性と赤ちゃんは向き合っている様子でお願いします。」




















