学び!と美術

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人物や風景の絵の指導、どうすれば?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第5回】~
2026.01.13
学び!と美術 <Vol.161>
人物や風景の絵の指導、どうすれば?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第5回】~
兵庫県神戸市立東垂水小学校 再任用教諭 畑本真澄

発想が浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。

絵のかき方の指導が難しいです。人物のかき方や風景の遠近感など、どのように子どもに教えればよいのか分かりません。絵をかくことに苦手意識がある子どもも、上手なかき方を知ることで自信につながると思うのですが…。

まず、先生が「上手な絵をかかせたい」「かかせなければ」と心のどこかで思っていませんか。また、子どもが心から「目に見えるとおりに表したい」と望んでいるというより、「そういう表し方がいい」と思い込んでいるのかもしれません。

子どもは周りの大人の反応にすごく敏感です。幼少期から「写実的な絵=いい絵、うまい絵」という価値観に多く触れてきたとすれば、自然と刷り込まれてしまったということも考えられます。

そして、その価値観にとらわれたまま大人になり、また同じように子どもの絵を評価してしまう…ということが、繰り返されているのではないでしょうか。

年齢によって描画も変わる

まず大前提として、年齢が上がるにつれて描画も発達していく、ということを知っておきましょう。

1年生の担任の先生から、こんな相談を受けたことがあります。

「人をかくとき、腕を細い線でかいてしまうんです。棒人間みたいな。線を二本をかいて、その間を塗るってことができないみたいで…」

大人は、腕や体の厚み、立体感、空間の奥行きなどを認識できます。でも、それは子どもの頃からそうだったわけではありません。ましてや絵で分かるようにかくとなるとさらに難しいはずです。

1・2年生は、形の「輪郭」を認識し、それが描画にも表れ始める過渡期に当たります。

(教科書1・2上p.20-21「みてみて あのね」/令和2年度版)

こちらは1年生の絵の題材のページです。クレヨンの色でそのまま形を表している子もいれば、左下の玉入れの作品のように輪郭をとってから中に色をつけている子もいます。

例えば輪郭について「まだ意識にない」「まだそういう描画をする発達の段階ではない」という子もいることを知っておき、その子の表し方を認めていきましょう。

対象や空間の認識能力や描画の発達にはもちろん個人差があります。「この年齢になったら、このかき方ができていないとダメ」ということではありません。

子どもは、いくつもの題材の中で友だちと交流したり、新しい表し方を試したりして、自分の思いに合った表し方をだんだん見付けられるようになっていきます。いろいろな表し方があることを知った上で、どんな表し方をしたいかを自分で選んでいけるように支援することが大切です。

★【注】描画の発達段階について
子どもの描画の発達についてはさまざまな研究があり、もちろん個人差があります。時代とともに子どもたちを取り巻く環境も変化するので、一概に「この年齢だったらこのくらいかける」ということはいえません。しかし、実際の子どもたちの絵を研究した資料や書籍がありますので、それを知ることで「なんでかけないんだろう」「どう指導すればかけるようになるんだろう」というお困りや不安が少し楽になるかもしれません。
本ページの最後に参考書籍を紹介しています。Web上で見られるものもありますので、ぜひ参考にしてみてください。

【支援の例】学校の風景をかく絵の指導

「じゃあ、絵の授業で必要な指導ってなんだろう?」と思われた先生もいらっしゃるかもしれません。

6年生のこちらの作品を見てみましょう。みなさんはこの絵を見て、どんなふうに感じましたか?

(教科書5・6下p.26-27「わたしの大切な風景」/令和6年度版)

作者の児童は、この場所をかいた理由を次のように語っています。

毎朝、友だちが登校してくるのを、3階のあの場所からのぞいて待っている時の景色が心に残っていたのでかきました。なるべく遠近感がでるように、近くの右側の手すりの色をこくして、遠くの色をうすくしました(以下略)。

作者の児童にとって、思い入れのあるこの場所を表すために、階段の奥に下っていく感じや友だちとの距離を表すことがどうしても必要なことだったのだと分かります。まず何よりも最初に「その子の思い」があることが大切です。

では、この絵の作者のように、「階段が下っていく感じ、遠近感をかきたい」という子どもがいたとしましょう。複雑な階段の形や、遠い感じ・近い感じを表すのは、高学年でもとても難しいことです。どのような支援が考えられるでしょうか?

あくまで支援の一例ですが、私だったら一緒に階段のところに行き、その時の話を聞きながら実際に手すりに触ってみるよう促してみます。曲がっている感じ、だんだん下がっていく感じなどの形の特徴を、触ってみることで捉えられるように支援します。

★支援の例:一緒に触りながら形を確かめる

「(一緒に手すりを触りながら)ここまでまっすぐで、ここでガタンって落ちてるね」
「今はここの線をかいてるんだよね?この続きはどうなっているかな?」
「平らなところと、ちょっと出っ張ってるところがあるんだね」
「(子どもがかいた形を見ながら)あ、なんか下っている感じになってきたね」
「手すりの太さをだんだん細く表したんだね」

このように、子どもがかきたい対象とじっくり向き合い、自分の実感とともに形を見付けていけるように支援しましょう。子ども自身が「こんな感じがいいかも」と気付ければ、あとは自分で線や形を見付けてかいていけると思います。

■message 「あなたにしかできない表し方」ができるのが絵

私はいつも子どもたちに、「絵ってあなたにしかできない表し方ができるよ。とってもすてきだね」と伝えています。見たままそっくりなら、写真でもできますよね。

図工で育てたい「技能」は「大人にとって上手な絵、目で見たとおりの絵がかける力」のことではありません。“創造的な”「技能」なのです。その子が感じたことや見付けたことを、その子なりの線や形や色を選んで工夫して表していく力です。

子どもの絵を見るときは、子どもが感じ取ったことや表したかったことなどの「思い」に共感し、心を重ねるようにして見てみましょう。そうすれば、先生も子どもも楽しくてもっとやってみたくなる図工の時間になっていくのではないでしょうか。

★【参考】子どもの描画の発達に関する書籍
◎「子どもの絵の発達と道筋 子どもの絵の作品と説明」(東山明、清田哲男/著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/e-other/e-other013/
幼児期から小学生くらいの時期の描画の発達について解説しています。HP上で全ページ読むことができます。

◎「子どもの絵の世界 絵から読み取る発達の道筋とその指導」(東山明、清田哲男/編著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/books/search/?free_key=子どもの絵の世界
幼児期から18歳ごろまでの描画の発達について解説しています。

畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。