学び!とPBL
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前号に続いて今回も大熊町が避難先の会津若松市に設置した大熊中学校仮設校舎で取り組まれたアーカイ部の活動について紹介します。この特設部活動では、生徒たち自身が閉所する仮設校舎の記録を残すことを目的に様々なアプローチで取り組みを展開しました。前号で紹介したインスタントカメラで生徒が好きな校内の場所や瞬間を切り取るという試みの他、卒業生や教員との仮設校舎での経験を振り返る座談会や、学校や生徒たちを見守り続けた近隣住民へのインタビューなどにも取り組みました。
校内放送ラジオ「ヴォイス オブ ビッグベア」
生徒たちは、当初はぼんやりとしていた「記録を残す」ことの意味を、活動を一つひとつ積み重ねながら徐々に掴んでいきました。受験も終わり、いよいよ卒業式が見え始めたころに、アーカイ部としての最後の企画に取り組みます。最後の企画のコンセプトは二つありました。一つは、「最後の在校生の等身大の声と想いを残すこと」でした。生徒たちはこれまでも多くの取材を受けて、マスメディアなどを通じてその時々を語ってきました。一方で、マスメディアの特性上、生徒たちが話したいことだけを話すことは当然ながら難しく、この企画では生徒たちの「等身大の日常」を語る機会を創ることを目指しました。そしてもう一つは、「仮設校舎にその声と想いを響かせる」ことでした。
この二つのコンセプトを盛り込んだアプローチとして、私は生徒たちにラジオ番組制作を提案し、ラジオ番組の制作に取り組むことになりました。番組内容の検討から収録、編集には学校現場でのラジオ制作教育の実践が豊富な一般社団法人ヴォイス・オブ・フクシマの久保田彩乃さん(2023年から福島大学教員)にサポートをいただき、ラジオという媒体の面白さを説明しながら、校内放送を活用してどんな放送ができるのかを相談しました。推し活の一環としてラジオに耳馴染みのある生徒がいたこともあり、企画の検討は賑やかにスムーズに進みました。番組名は「ヴォイス オブ ビッグベア」に決まりました。
番組では、学校生活での思い出を振り返りながら、リクエスト曲を流していく構成を採用しました。収録の一週間前から職員室にリクエストボックスを設置し、番組で流してほしい曲とエピソードを募集しました。リクエストは生収録中に生徒が開封し、そのリアクションも番組内で公開をしています。生徒たちが使用した台本では、コーナーが三つ用意されていました。一つ目が「教えてあなたの大熊中!」、二つ目が「メモリズム」、三つ目が「大熊中ヒストリー」となっていました。メモリズムの説明には、「先生からのリクエスト曲をいじくる」と記載されており、実際に番組内でもそうした場面が多く見られました。
「ラジオネーム……絶好調さん……。あ、校長先生か!えっと、サイトウユキさんの、卒業?うん、わからない。ごめんなさい。次いこう。」
リクエスト曲の中には、卒業式を目前に控えた生徒たちへのメッセージや、教員自身の卒業エピソードなどが添えられていました。授業とは異なる先生たちの側面に触れながら、先生たちと過ごした学校生活を振り返る機会となりました。完成したラジオ番組は、収録日当日の中学校生活最後の給食時に流れる校内放送として使用され、仮設校舎全体にそこで過ごした生徒や卒業生、教員たちの思い出が響きました。
仮設校舎での実践は、災害による避難の特殊な事例と捉えられるケースも多いですが、人口減少社会において学校の統廃合に置き換えても有効な実践が多くあると思います。地域のアイデンティティをつなぐ装置としての学校を、物理的には残せずとも何らかの方法で残していくことは、そこに携わった人たちとの協働でより深い意味を持つ可能性もあります。そうしたテーマを探究の学びとして持ち込んでみることは、学校内外の資源を活用するよい「言い訳」や「口実」として活用できるかもしれません。
福島大学では、来る2月13日(金)に、「原子力災害、仮設校舎の15年―避難先から考える理想の教育―」(会場:福島大学)と題した公開シンポジウムを開催します。今回の大熊中の事例に限らず、避難先で先生たちや児童・生徒たちがどのように学びに向かっていたのかを当時在籍していた方々と振り返りながら、教育のこれからについて考えていきたいと思います。ご関心ある方はどなたでも参加可能ですので、ご検討いただければ幸いです。
【参考URL】
- 福島大学公開シンポジウム「原子力災害、仮設校舎の15年―避難先から考える理想の教育―」参加申し込みフォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdrr5fDWTBY6OGfOyLrke7yQW9UMLMvbfsa2GUcw23_Uw1Vbg/viewform


