学び!とシネマ

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ソ満国境 15歳の夏
2015.07.31
学び!とシネマ <Vol.112>
ソ満国境 15歳の夏
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 戦後70年。映画の世界でも、節目の年ということで、戦争にまつわる映画が公開される。高井有一の小説「この国の空」を原作にした「この国の空」や、半藤一利のノンフィクションを原作にした「日本のいちばん長い日」だ。ぜひとも、若い人たちにお勧めしたいのが、田原和夫のノンフィクション「ソ満国境 15歳の夏」(築地書館)を映画化した「ソ満国境 15歳の夏」(パンドラ、ジャパン・スローシネマ・ネットワーク配給)だ。
 原作は、田原和夫の終戦前後の実体験に基づく。終戦直前の昭和20年5月、勤労動員としてソ満国境の近くに送り込まれた新京一中の三年生たちがいる。敗戦直後、日本の少年たちはソ満国境近くに置き去りにされ、餓死寸前、中国の人たちに救われたりしながら、過酷な状況を生き延びる。田原和夫はその中のひとりである。映画は、この原作を骨格に、現代の15歳の若者たちを重ね合わせる。

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 2011年、未曾有の震災が日本を襲う。1年後の2012年、いまなお、福島の仮設住宅に住み、中学校に通う3年生の敬介(柴田龍一郎)たちが、中学生として最後の夏休みを迎えようとしている。校庭では、ボランティアの老人の原田(夏八木勳)たちが、放射能の除染作業を続けている。ある日、中学校の放送部に、中国の黒竜江省のあるところから新しい撮影機材が届く。手紙には、「中国に来て、撮影してほしい場所がある」と記されている。敬介たち放送部員は、引率の古賀先生(大谷英子)と、黒竜江省に旅立つ。撮影機材とともに、一冊の本が送られてきた。田原和夫の「ソ満国境 15歳の夏」である。古賀先生は生徒たちに、この本を読ませる。

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 みんなを招待してくれたのは、石岩鎮という小さな町の長老、金成義(田中泯)である。日本語が達者な金長老は、みんなに取材、撮影してほしい場所を教える。そこが、終戦直後に少年たちがさまよった場所、ソ満国境のすぐ近くだった。敬介たちは撮影のための取材を続ける。やがて金長老は、秘めていた過去の出来事を敬介たちに話し始める。そして、敬介たちは、ここに招待された本当の理由を知ることになる。
 一見、複雑な構成に見えるが、過去と現在の出来事が巧みに交差して、分かりやすい展開である。よく練られた脚本で、過去と現在が、鮮やかに結びつく結末は見事である。
 いまなお、解決のメドのたたない福島の現実がある。憲法を勝手に解釈して、戦争への危惧が拡大する動きがある。映画の資料で、原作者の田原和夫は言う。「昨今、戦争を知らない世代の人口が増えています。往々にして過去の事実を確認することなく、紙に書かれたものを読むだけで判断する傾向があるように見受けられます。あくまでも過去の事実をしっかり踏まえた実証的な歴史認識を持っていただきたいものです」。
 資金難や苦労した中国ロケなどを経て、6年の歳月をかけてやっと映画を完成させた監督の松島哲也は言う。「15歳の若者の命を、誰がどうやって守っていくのか? 親子で見て、コミュニケーションのきっかけになってくれればいいのですが」。
 この夏、先生と生徒、親と子、戦争を知る世代と知らない世代など、一人でも多くの人に見てほしい一作。

2015年8月1日(土)より新宿K’s cinemaico_link大阪・シネ・ヌーヴォico_link名古屋シネマスコーレico_linkにてロードショー、以下全国順次公開!

■『ソ満国境 15歳の夏』

監督・脚色:松島哲也
脚本:松島哲也、友松直之
撮影:奥原一男
録音:山田均
照明:田部誠
音楽:上野耕路
美術:庄島穀、小林久之
編集:宮澤誠一、清水和貴
プロデューサー:野田慶人、宮澤誠一、松島哲也
原作:田原和夫著「ソ満国境・15歳の夏」(築地書館)
2015年/カラー/デジタル/94分
配給:パンドラ、ジャパン・スローシネマ・ネットワーク
(c)「ソ満国境 15歳の夏」製作委員会