学び!と美術

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図画工作の授業(2)~指導案の書き方
2016.07.11
学び!と美術 <Vol.47>
図画工作の授業(2)~指導案の書き方
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 前回の続きで、今回は指導案の書き方について解説します(※1)。都道府県や研修会等によってスタイルはかなり異なるので(※2)、あくまでも筆者の経験をもとにした一例です。

図画工作科学習指導案

平成○年○月○日 ○曜
第○学年 ○級 ○校時
指導者 ○○○○○○○

1.題材名(及び領域 「表現(1)」等)

 「題材」は、子どもの学習活動、材料や用具、目標や計画などの集合体です。目標や内容が子どもにおいて具現化する一連の「学習活動のまとまり」(※3)であって、教材や作品だけを示すものではありません(※4)。
 よく「なぜ図画工作は単元(※5)でなく題材なんですか」と聞かれます。図画工作科や音楽などでは「比較的小単元中心となるものが多く、単元と言わず題材という場合が多い」と言われています(※6)。筆者は「図画工作では子ども一人一人がかけがえのない『私』=『作品』をつくります。そのためのまとまりが『題材』であって、そこが『単元』との違いです。」と答えています。
 「題材名」は「望ましい創造活動への案内や提案の意味」を持ちます(※7)。以前は「カレンダーに表す」というそっけない表記でしたが、現在は「ならべて、ならべて」のように中心的な活動を示すものや、「もし雲にのったら」のように発想のきっかけを示すようなものがほとんどです。
 先生と子どもがイメージを共有できる題材名がいいと思います(※8)。筆者はよく子どもとつくっていました。わざと題材名を提示せず、授業をした後に「ねえ、週案にのせなきゃいけないんだ、なんて書いたらいいかな?」と言うと、子どもたちが「版の国から」「風をつかまえて」など素敵な題材名を考えてくれたものです。

2.題材の目標

 題材全体の目標です。多くの場合「~を通して~するとともに、~を工夫して表す」のように、主な活動と資質・能力をまとめた形で示しています。「資質能力の育成のために題材がある」という考え方からは「3.指導観」の前に書きますが、「3.指導観」の後に書く場合もあります。
 現場で迷うのは「一文で書くか、観点別にするか」です(※9)。筆者も、以前は観点別に書いていましたが、「4.題材の評価規準」の繰り返しになるので、今は一番大事にしたいことを中心に一文でまとめています。

3.題材観(「題材設定の理由」「題材について」など)

 題材観、児童観、指導観の三つ、あるいは題材観、児童観の二つを示します。三つの場合は、まず「こんな題材で、こんな能力を高めます」と題材の意義や内容を紹介し、次に「発達の特徴やこのクラスの実態はこう」と必要性や配慮事項を述べて、最後に「だからこのように指導します」と指導の要点を示します。それぞれの項目がお互いに関連し、論理的に一貫していることが重要です(※10)。

①題材観:主な内容、学習指導要領上の位置づけ、年間指導計画との関係、学年や題材間の系統、育成される資質能力、地域性や伝統との関連、形や色などの造形的な要素、材料や用具の意味など「題材を実施する意義や価値」を説明します。

②児童観:一般的な学年の発達、クラスの実態、教科に対する傾向や調査結果、当該活動に関する実態、これまでの造形活動の経験、関連題材での様子など、題材観との関係で留意すべき児童の様子を説明します。

③指導観:「だから外で実施する」「ここは時間をかける」「まず粘土に触れることを楽しませる」「グループを導入する」等、①題材観と②児童観を踏まえた上で、どのような手立てを打つか、学習活動の流れや展開上で特に気をつける点は何かなど、指導の重点について説明します。

4.題材の評価規準

 評価は目標と一体です。目標を具体化したのが評価規準と考えてもいいでしょう。評価規準は平成3年に導入された概念(※11)で、子どもがおおむね学習を達成した状況(いわゆるB規準(※12))を観点別に示したものです。以前は指導案に書かれていることは少なかったのですが、最近は必ず示されるようになっています(※13)。
 これをゼロから書くのはけっこう難しいものです。国立教育政策研究所が「造形遊び」「絵や立体、工作」「鑑賞」などの内容のまとまりごと、かつ学年ごとに例示していますので、それをうまく題材に合致させればいいと思います(※14)。
 実際の評価では「そうそう」「こんな感じ」と想定内ならB、「え~すごい」と驚く想定外ならA、「あらあら、ちょっと待って」と指導に入るのだったらCと説明しています。それをもっともらしく難しい言葉でまとめたのが上記の資料でしょう(^o^)。
 なお、評価で大切なのは公平性です。公平性の観点からは、全員の評価資料が必要です。でも、作品以外の評価データを2時間程度の題材で全員集めるのは現実的ではありません。年間を見通して「この題材は特に発想!」のように重点化を図って、時間内にできる妥当な評価方法を考えましょう(※15)。

5.題材計画(「指導計画」「展開」など)

 下の表のように題材の流れを大まかに書きます。以前は第一次、第二次と授業回数にそって箇条書きする程度でしたが、最近は以下のような表で、指導上の留意点や評価まで詳しく示しているものが多いようです。横軸は地域や研究会、学校などによってかなり異なりますが、大事なのは縦軸です。子どもの意識の流れ、活動の姿、発揮される能力、指導方法などが骨格として示されていることが重要です。この骨格に形や色などの造形的な要素、評価、地域性や伝統などが絡んでいくイメージです。

6.本時計画(「本時の授業計画」「本時の展開」など)

 本時計画は、題材計画の中から1時間分を詳細に示したものです。以下のような項目が示されます。
 ・本時の目標
 ・本時の評価規準
 ・材料用具の準備(教師と児童に分けるとよい)
 ・本時の指導計画

①導入
 導入は本時の目標を明確に共有する時間です。「望ましい創造活動への案内」や「豊かな発想のてがかりとなる提案」を行うなどして、子どもが「めあて」を意識できて、意欲が高まるようにします(※16)。
 よく先生が一方的に内容を説明した後に、事前に作成しておいた「めあて」を貼るという場面に出会いますが、少々困惑します。「めあて」は授業の進度や内容で変化しますし、子どもが大切だと感じていることを子どもの言葉で表すのが「めあて」です。例えば「どんなめあてにする?」と問いかけ、先生の方針を踏まえながら子どもの意見をまとめるという方法があります。子どもが学習内容を理解していれば1分で終わるでしょう(※17)。
 なお、導入に時間を費やすのはよくありません。図画工作では子ども自身が活動する時間こそが大事です。子どもの思いと視点、安全性などがおさえられれば、速やかに次の段階に進みましょう(※18)。無駄な部分はできるだけ削減し、長くても10分以内に収めたいものです(※19)。

②展開
 展開は、図画工作の中心です。子どもが試行錯誤や行戻り、思考や判断、主体性や協働性などを発揮する大切な時間です。先生は、これを励ましたり、見守ったり、あるいは、指示したり、いろいろな指導を行います。指導案作成では、実際の授業場面を思い浮かべながら、子どもの姿とそれに対応した手立てを書いていくことになります。
 「どこまで指導すればいいのですか?」「教師の言う通りになりそうで、、、」という質問をよく聞きますが、そう心配しなくていいと思います。筆者はよく子どもとおしゃべりする先生でした。児童の作品を手にして「ふ~ん」「なるほどね」などと認めたり(※20)、「それはこういうことだよ」「こんな方法もあるよ」など知識や技能を提示したり、「こうしてみる?」と指示したり、遠慮なく話しかけていました。子どもが自分の思いで主体的に活動していれば、先生はあくまで子どもの活動の「資源」の一つにすぎません。「最終的に判断してとりいれるのは子ども」なのです(※21)。
 よく製作途中に相互鑑賞を行う場面にも出会います。「は~い、やめて、やめて、、、ちょっと友達の作品を見て回りましょう」。子どもは付き合ってくれますが、活動の意欲や思考は途切れます。指導案通りに行うのではなく、「子どもの活動が停滞している」「もう一つジャンプできる」など状況を的確に判断して、「ここでこそ効果があるとき」に実施したいものです。
 なお、実際の授業は指導案の通りにはいきません。指導案というのはたいてい研究授業や県大会等のときに作成されます。子どもたちにとって特別な材料や場が用意されたり、周りを取り囲む参加者が大勢いたりします。どうしても普段と勝手が違い、先生の思うようには進まないのです(※22)。でも、子どもは先生ほど緊張せず、特別な雰囲気なども活用して普段以上の力を発揮してくれます。それを信頼すればよいと思います。
 ただ、授業が一気に活性化する「活動の爆発」は起きにくいと思います。「活動の爆発」というのは筆者独特の言い方で、子どもの発想や技能などがお互いに連鎖し、クラス全体が爆発したような感覚を味わう時間帯のことです。経験的に、題材の3分の2程度の時間に起きます。45分題材だったら30分あたり、90分題材だったら60分あたりです。これがうまく研究授業にあてはまるのはまれでしょう(※23)。

③まとめ
 以前に比べれば、まとめの時間に「半ば一方的にそのよさなどについて評し、ある意味では、他の多くの児童の活動のよさや努力を切り捨てる(※24)」ことは少なくなりました。でも、「児童一人一人が自分の表現製作を温め、その余韻を味わう(※25)」ことはどうでしょうか。自分の作品の題名を考えたり、簡単な作文を加えたり、飾る場所を考えて撮影したりするなど、いろいろな方法で子どもの思いを温めたいものです。それを先生も一緒に味わってほしいと思います。

7.その他

 案外、大事なのが板書や環境設定です。板書は子どもの発想の手掛かりになっている場合があります(※26)。また、「場の構成」「材料や用具の場所」「机の配置」などは子どもの表現活動を左右する決定的な要因です。用具の置き場所一つで、想定した活動と全く異なる活動になってしまったことを数多く見てきました。指導案に教室全体の見取り図や板書計画を挿入し子どもの動きを想定することは大切でしょう。

 図画工作では、子どもの思いがけない発想や、驚くような工夫によく出会えます。それは先生にとってもうれしいことで、ついニコニコしてしまいます。子どもと一緒に喜びを味わえるのが図画工作の時間です。読者の方もたくさん指導案を書いてたくさん授業をして、たくさん喜びを味わってください。

 

※1:若い方はずいぶん指導案を書くのが早いと聞きました。国研や文科省のデータ、様々な教育機関の事例集などがネット等を通して容易に参考できますし、何よりコンピュータやWordなどの普及の効果でしょう。
※2:以下のように立体的な指導案や写真を使った指導案もあります。
板良敷敏編「小学校図画工作基礎基本と学習指導の実際」中田稔の学習指導案 東洋館2002icon_pdf_small
第53回造形表現・図画工作・美術教育研究全国大会
 第41回宮崎県造形教育研究大会紀要「造形の発見」2002icon_pdf_small

※3:文部科学省 小学校図画工作指導資料「指導計画の作成と学習指導」1991 日本文教出版82p
※4:「風景画」「筆立て」「版画カレンダー」などは「題材名」とはいえません。
※5:単元の考え方はこちらが参考になります。文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(小学校編)」第3章p86
※6:文部省「図画工作指導資料」開隆堂 1980
※7:前掲書3 p83
※8:「すっかり、ぴかドン」「ミラー、ミラー」など何を行うのかよく分からないのもあります。それはその先生の歴史と児童の実態の一回性で通じるものだと思います。むやみにまねようとせず、その教室らしい題材名がよいと思います。
※9:来年の改訂からは3観点になるでしょう。
※10:二つの場合は、題材観に指導観を含んで書きます。まれに児童観を書いた後に題材観がくる場合もあります。
※11:「各教科の目標に照らしてその実現の状況を評価する観点別学習状況を各教科の学習の評価の基本にすることとしました」文部省「小学校教育課程一般指導資料」1993
※12:評価規準については「そうそう」「こんな感じ」と想定内ならB、「え~すごい」と驚いた想定外ならA、「あらあら、ちょっと待って」と指導に入るのだったらCと話しています。それを難しい言葉にしたのが註13の資料だと考えてください(笑)。
※13:評価を指導案に明記する歴史は案外古く、たとえば昭和51年の文部省指導資料等(複式学級図画工作指導資料「共同製作の指導」日本文教出版)で指導案の項目として例示されています。
※14:コツは「~を~しながら~工夫している」などの部分をそのままにして「~」を入れ替えることです。国立教育政策研究所教育課程センター編「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料(小学校・中学校・高等学校)」教育出版 2012icon_pdf_small
※15:前掲書14に詳細な例が示されています。
※16:前掲書3 p82
※17:数時間かかる題材では、全体を示し、各段階で「めあて」を決めて取り組む方法もあります。
※18:よく「これまでの学習」をおさらいする場面に出会うのですが、ほとんど参観者や先生に見せるために行われています。自分の作品を前にして「今まで何をやってきたか」を一番知っているのは子どもなのに、、、と思います。
※19:見ている方は5分が限界です。
※20:児童の作品を手にするというのは一番のほめ言葉です。
※21:先生の助言を頼りに活動を進めるようでは、そもそも主体的な活動になっていないということでしょう。
※22:研究授業でうまくいった経験は一、二度しかありません。普段でも年に一、二回でしょうか。
※23:指導案自体が「参加者の大人に向けた資料」で、「私はこの授業をこういう風にデザインしました」「研究会で何度も吟味し、研究会のテーマをこう反映させました」という宣言書のようなものです。
※24:前掲書3 p86
※25:前掲書3 p86
※26:行き詰ったときなどにチラッと板書を見る子どもの姿はよく見かけます。言語活動の充実につながりますし、授業のまとめにも有効です。