学び!と美術

学び!と美術

【新連載スタート】本連載の方向と、ささやかな志
2012.09.10
学び!と美術 <Vol.01>
【新連載スタート】本連載の方向と、ささやかな志
奥村 高明(おくむら・たかあき)
奥村高明

著者近影

 「図画工作科・美術科にできることとは何ですか?」
 以前から、よくそんな質問を受けた。今も、そのような話題になることは多い。
 行政的に答えることは容易である。図画工作科・美術科でできることは、学習指導要領が示す目標と内容であり、育てる能力は4観点である。それ以上でもなければ、それ以下でもない。それぞれの学校で教育課程を編成し、実施し、評価して、指導の改善を行う。それが正当だ。
 「いや、そうじゃなくて…」
 質問をした側は、その回答では満足しない。
 ただ、そうなると、先ほどの質問は教育課程とは別の話ということになる。話題は多岐にわたるし、焦点をどこにおくかで話は変わる。果たして自分に答える能力があるのか、そういう立場なのか、自信がなくなってしまう。そこで、そんな時は自分の気持ちを答えるようにしている。
 「私、図画工作科・美術科のために仕事をしているつもりはないです。でも、今、学校から図画工作がなくなったら、子どもが学校でうまく生きられなくなると思っています。だから図画工作科・美術科が必要だと思うし、応援しています」
 もちろん、この言い方が曖昧な言説で、図画工作科・美術科と他教科の二元論だということは承知の上だ。同じことは他教科でもいえるし、本質的に図画工作科・美術科は、教育課程の一つに過ぎない。しかし、こう答えると質問者の多くは安心した顔をしてくれる。そう、質問というものはたいてい「実際に質問したこと」は聞いていない。質問の奥には違うことがある。この質問の場合、図画工作科・美術科のこと以上に自分の存在意義を確かめようとしているのだろう。

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南台湾先住民ガラス工房にて(作業中の脇に筒に立ててあるガラス棒を上から撮影)

 でも、そろそろ「図画工作科・美術科に、今できることとは何か?」について本腰を入れて考える必要がある。なぜなら、もうじき曖昧さに逃げられない時期になるからだ。今、中央教育審議会はもっぱら大学教育について議論している。いわば大学の季節なのだが、おそらく数年後には幼・小・中・高などについて議論する季節になるだろう。
 そこで、本連載では、図画工作科・美術科に関わる人々が「図画工作科・美術科が今できること」について考えるための手がかりを提供したいと考えている。「図画工作科は子どもの何に役立つのか」「美術科は世の中の何に貢献するのか」など。もちろん、このテーマはあまりにも大きく広く深い。様々な角度から論じることができる。それに資することなど、とうてい無理だ。私の能力も、手元にある資料も知れている。
 ただ、一応30年以上図画工作科・美術科に関わってきた。自分自身が勇気づけられたエピソードもある。講演などで繰り返し紹介した思い入れのある事例がある。また、最近の調査には、図画工作科・美術科によって高められる力を明らかにしようとするものもあって、それはそれで有効かもしれない。本連載は、それらを、脈絡なく、思いつくままに羅列するだけの内容になると思うが、何かしらのヒントになれば、読者の方と一緒に考えていければ、と考えている。

 2回以降予定している内容は以下である。

・図画工作はいろんな子どもが生きる時間
・国籍が不可視化される図工の時間
・図画工作科・美術科は子どもを認める時間
・他者とともに自分をつくりだす教科
・美術は、哲学や思想を一瞬で伝える
・作品一枚で社会や文化について深く考えることができる
・ものをつくるときには多層な判断や思考の輻輳がおきる
・日本の図画工作科は世界的にみたら日本だけ