学び!と美術

学び!と美術

造形活動が育てる学力
2013.01.10
学び!と美術 <Vol.05>
造形活動が育てる学力
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 「図工を充実させることで全国学習状況調査のB問題の成績が上がる」。最近、その原因は図工の授業時間の中で実現していること、図工の学習活動そのものにあるのではないかと考えています。今回は、図工の学習活動を、まず会話に例え、その上で全国学習状況調査について検討してみます。

 終わってみれば、何事かが達成されている会話。でも3分後に何が話されているのか予想できる人はいません。それは会話が、常に直前の「資源」~言葉や内容、周りの空間や環境など~をもとにしているからです。この「資源」は発言と相互的な関係にあり、その場の会話の中で見出される性質があります。また、会話が「まずい」方向に行かないように、参加者は、相手の仕草や表情などを適切に判断しながら、細かな調整を繰り返しています。その結果が、会話なのです(※1)。

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読書感想画「どんぐりと山猫」の下絵段階

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完成段階~色や口元の表現が工夫されており、より意地悪そうに山猫を描いたことが分かる

 同じようなことが、図工の授業でも起きています。つくっている最中は、どうなるのか誰も予想できません。表現の過程では、主題やメッセージ、形や色、材料、周囲の空間、友達や先生、授業の文脈などの「資源」が用いられます。それは、進行中の造形活動と相互的な関係にあり、新しく見付けられたり、足し引きされたりしています。そして、子どもたちは、自らの行為によって変わる作品の状況を把握しながら、次の一手を判断しています。その結果、出来上がったのが作品です。
 会話と図工に共通するのは、変わり得る状況を適切に判断しながら、「資源」を見出し、それらを関係付けながら、概ね論理的に進めていることです(※2)。子どもにゆだねる部分の多い図工が、会話と同じような状態を生みだしていると言い換えてもよいでしょう(※3)。
 次に、全国学力調査について考えてみます。全国学習状況調査のB問題には特徴があります(※4)。多くの場合、特定の場面やストーリーなどが設定され、そこに知識や技能などの「資源」が散りばめられています。問題を解こうとする子どもたちは、まず、問題の設定を理解しなければなりません。次に、「資源」を見付けだし、それらをどのように結び付けて解答するかを考えることになります。問題という仮の状況の中で、資源を発見し、それを関係付けながら、最も妥当な解答を導き出す。それは図工の学習活動に実によく似たプロセスです。
 おそらく研究指定校では、これに成功する子どもたちが増えたのでしょう。そうだとすれば、図工の研究指定校でB問題の成績が上がる理由は、図工の授業を充実させたことであり、それが直接的に子どもたちの学力に影響したとは考えられないでしょうか。

 そのような可能性が図工・美術にあるとすれば、その特質を十分に生かした授業を実践することが大切でしょう。「子どもの手を借りた先生の絵」を描かせるのは論外です。とは言ってみたものの、当の筆者自身が、今も昔も反省や失敗ばかり。次回はそんな話も交えながら、図工・美術の授業について語ってみたいと思います。


※1:会話の内容が事前に決まっていたら、それは会話ではない。やらせ、あるいはシナリオだ。
※2:ただし、頭だけでなく、手や体も一緒になって使っているところが表現では大事だ。
※3:ここでは指示通りに子どもを動かし、先生の構図、先生の色、先生の絵を全員に描かせる授業は想定していない。
※4:個人が保有する知識の量や技能を問うのはA問題である。