学び!と美術

学び!と美術

新学習指導要領の要点(1)
2017.03.10
学び!と美術 <Vol.55>
新学習指導要領の要点(1)
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 新学習指導要領の改訂案が発表されました。2月14日から3月15日までパブリックコメントが募集されています。この案をもとに改訂の概観を簡単にスケッチしてみましょう。なお、あくまでも一個人の考えにすぎません。公的な説明とは異なることをご了承ください。

1.目標の改訂

 平成20年改訂では、各教科等の目標は一文で示されていました。重文、複文の構造で、その教科に精通していないと少々分かりにくいものでした。「各教科等のもとに目標がある」という感じもぬぐえませんでした。今回、全ての教科等で、「各教科等の見方や考え方を働かせることを踏まえた文章」と「資質・能力の三つの柱」で整理されています(図1)。これによって「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」などについて教科を超えて捉えることができるようになりました。「学校教育としての目標があって、次に各教科等がある」ことも明確に感じられます。

<図1>

 各教科等の目標の共通化は、教科横断的な実践を促進するかもしれません。これまでは各学校でクロス・カリキュラムをしようと思ったら、まず教科目標の共通性から検討しなければなりませんでした。それぞれの教科目標を達成することが必要十分条件だからです。一方で、「風で動くおもちゃをつくる。風だから理科、おもちゃをつくるから図工」のような安易な実践が見られたのも事実です。しかし、答申では「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」と述べられています(※1)。教科の学びを充実させながら、どのように子どもの成長発達を図るのか、各学校のカリキュラム・マネジメント力が問われるでしょう。

2.内容の改訂

 表現領域について、小学校図画工作は、「発想・構想」と「技能」が示され、それぞれに「造形遊び」「絵、立体、工作」が示されています(図2)。前回は、「造形遊び」と「絵、立体、工作」が示され、それぞれに「発想・構想」「創造的な技能」が示されていました。「内容の箱」から「資質・能力の箱」に整理し直したといえるかもしれません。中学校美術は前回から「資質・能力の箱」で示していましたが、今回さらに整理を進めています。図画工作・美術については前回の改訂から資質能力ベースで作成されていましたので、今回の変更に大きな戸惑いはないと思いますが、より小学校と中学校が一貫した印象をもつ方がいらっしゃるでしょう。

<図2>

 鑑賞領域に関して、小学校では鑑賞の対象や資質・能力がまとめて示され、事項に含まれていた「感じたことや思ったことを話す、聞く、話し合う」などについては、言語活動として「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」に示されています(図3)。中学校では、鑑賞の対象や資質・能力がより具体的に示され、言語活動については第1学年と第2・3学年ごとの「3 内容の取扱い」に示されています。学習指導要領の「事項」と「内容の取扱い」が連動した改訂です。

<図3>

3.内容の取扱いの改訂

 「内容の取扱い」のポイントは知識でしょう。小学校は〔共通事項〕のアで、中学校は〔共通事項〕のアとイで、知識の具体例が示されています。例えば、小学校中学年で「形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じ、色の明るさなど」、中学校で「色彩の色味や明るさ、鮮やかさ」「全体のイメージや作風」などです。ただ、初出ではなく、図画工作や美術の認知的な発達も十分に踏まえて解説書等で繰り返し説明されている内容です。答申には「〔共通事項〕との関連を図り、形や色などの働きについて実感を伴いながら理解し、 表現や鑑賞などに生かすことができるようにする(※2)」と示されています。指導に当たっては、単に事実的な知識の定着を図るのではなく、概念的な知識の獲得や、創造的な知識の活用まで目指すことが大切でしょう(※3)。

 答申では以下のように述べられています。

現行の学習指導要領で明確にした、資質・能力と学習内容との関係を踏まえて、A表現、B鑑賞のそれぞれの領域及び〔共通事項〕の中で育成を目指す「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力等」について、それらと関連する項目や指導事項、内容の取扱いなどに明示する(※4)。

 資質・能力を育んでいくために、単に学習指導要領の一部を改訂するのではなく、子どもたちが「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」を踏まえて、目標、表現や鑑賞、〔共通事項〕、内容の取扱いなどを相互に関連させて改訂されているようです。

 

※1:「カリキュラム・マネジメント」の三つの側面
①各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
②教育内容の質の向上に向けて、子どもたちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
③教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。平成28年12月21日 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」23p
※2:同上書168p
※3:学び!と美術<Vol.49>「図画工作・美術における知識の行方」
※4:同上書170p