学び!と道徳

学び!と道徳

「特別の教科 道徳」における「評価」について
2017.03.23
学び!と道徳 <Vol.08>
「特別の教科 道徳」における「評価」について
大原 龍一(おおはら・りゅういち)

 さて、本論稿も今回で一つの区切りといたします。続きは、今秋あたりからと考えています。最近Web「my実践事例(道徳)」もアップされました。4月から相当数の事例がさらにアップされる予定です。そちらも、ぜひご覧ください。

 第8回は「評価」について少し述べてみたいと思います。現場(学校)ではかなり切実な課題・問題であるようです。どこへ行っても評価についての質問を必ず受けます。道徳の教科化が言われ始めたころ、道徳の時間に評価はなじまない、だから教科にして評価するのは「けしからん!」という声をよく聞きました。また、大学でも、講義が始まった初回あたりに学生から「道徳の教科化には反対です!」という勇ましい発言にも出くわします。「あ!誰かに習ってきたな!」と直感します。「どうして?」と聞くと、「心の問題を評価(おそらく、A.B.Cなどの評定のことを言っています)することに違和感があります。してはいけないと思います。だから、反対です」と返答が返って来ます。私が「え! これまでも評価しているよ。学習指導案にも【評価の欄】がありますよ」、「授業である以上、評価しないなんてありえないでしょう?」と問い返すと、初めて気がつくようです。講義も終盤になると、ほとんどの学生は評価することの意味、さらには、道徳を教科にすることの意義を理解するようです。反対が賛成にまわります。
 平成30年度から、小学校では「特別の教科 道徳」の完全実施が始まろうとしています。評価に関することを始め、教科になることについて正しく認識されているだろうか不安になることもあります。

1.何のための評価?

 今の、学校現場における「道徳科の評価」の最大の関心事は、指導要録や通知表に何を、どのようにして記述すればよいのか、ということではないでしょうか。そして、そのためにはどうするのがよいのか、ということです。初めてのことで先例もありません。そして、学校現場は忙しいときています。道徳の評価ばかりやっているわけにもいきません。だから、「評価文例集」なるものがもてはやされます。これは今に始まったことではありません。学期末になると、必ず「所見文例」を特集した雑誌が出回り、大いに売れるのが現実なのですから。平成30年度の学期末には、「道徳科評価文例集」がよく売れるのではないかと皮肉な予想を立てています。
 もう一度考えてみましょう。「何のための評価なのでしょう」。その前に、教科にして(指導要録や通知表に)評価をすることになったのはなぜでしょう。そのあたりのことをよく吟味する必要があります。
 (指導要録に)評価欄を設け、記述式にせよ評価することになった背景には、道徳科の授業の完全実施という切実な「思い」が込められています。今まできちんとやってこられた先生方は問題ないのです。残念ながら、そうは言えない先生方も中にはおられるようだから「こうすれば、ちゃんとやってくれるだろう」という強い願いが込められているのです。問題・課題は教師の側にあると言っても言い過ぎではないと思います。
 何のための評価?これも教師の問題です。一言で言えば、「評価と指導の一体化」です。すなわち、「児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにすること」が評価の大前提となっていることに、今一度留意したいものです。
 毎週の道徳科の授業をきちんと行い、さらによりよい授業創りのための授業改善への不断の努力をしましょうよ!ということです。

2.「学習指導要領」では…

 小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳編」における評価についての記述についておさらいしてみましょう。まずはここが基本になりますから。(※以下、引用下線部は大原)

「第5章 道徳科の評価」の構成です。

第1節 道徳科における評価の意義
 1 道徳教育における評価の意義
 2 道徳における評価の意義 
第2節 道徳性の理解と評価
 1 評価の基本的態度
 2 道徳科に関する評価
 3 道徳科の授業に対する評価
  (1)道徳科の学習指導過程に関する評価の基本的な考え
  (2)指導の諸方法を評価する観点
  (3)学習指導過程に関する評価の工夫
  (4)評価の工夫と留意

 まず、第一に「道徳教育における評価の意義」について、教育活動全体を通じて行う道徳教育の評価の重要性を言っています。特に、「他者との比較ではなく児童一人一人のもつよい点や可能性などの多様な側面,進歩の様子などを把握し,学年や学期にわたる児童の成長という視点を大切にすることが重要であるとしている。道徳教育でもこの考え方は踏襲されるべきである。」と述べられています。
 また、小学校学習指導要領解説総則編の第3章、第1節、2道徳教育では、各内容項目が道徳の時間だけのものではなく、全教育活動を通して充実・徹底を図るものですよ、ということを言っています。もちろん各教科等にはそれぞれの押さえるべき特質があるので、それらを押さえた上での話です。その上での評価であることを再度確かめておきたいものです。現在の学習指導要録の「行動の記録」なども、考え方として一部該当すると思います。

 第二に、「道徳科における評価の意義」です。これまでの踏襲になりますが、「数値などによって不用意に評価してはならないこと」が大前提であります。詳しく述べる必要はありません。それに続き、「それぞれの指導のねらいとの関わりにおいて児童の学習状況や成長の様子を様々な方法で捉えて,それを児童に確かめさせたり,それによって自らの指導を評価したりするとともに,指導方法などの改善に努めることが大切である。」と述べられています。つまり、子どもの成長の様子をとらえましょう、そして、授業の改善につなげましょう、ということです。現行の解説編では、その方法として、観察や会話による方法、作文やノートなどの記述による方法、質問紙などによる方法、面接による方法、その他の方法(事例の検討や各種テスト利用)が例示されています。

3.「道徳性の理解と評価」について

 第2節の内容です。少し詳しく見てみましょう。

(1)評価の基本的態度
 まず、「道徳性」について、「人間としてよりよく生きようとする傾向性であり道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践意欲及び態度内面的資質である」と規定しています。これも従来と変わりません。そして、内面的資質であるからこそ道徳性が養われたか否かは、容易に判断できるものではないということです。道徳性は、人格の全体に関わるものであるからでしょうか。しかし、その後に、「道徳性を養うことを学習活動として行う道徳科の指導では,その学習状況を適切に把握し評価することが求められる」と続きます。すなわち、養われたか否かは容易に判断できるものではないが、学習状況を適切に把握し評価しなければならないのです。そのためには、授業改善が大切であると続きます。これは、当然のことです。
 問題は、「学習状況」の中身ではないでしょうか。どうしても、道徳性の諸様相と見てしまいます。現行小学校学習指導要領解説「道徳編」(平成20年6月)の第8章、第2節、2(1)評価の観点でも以下の記述が見られます。「道徳性は本来,児童の人格全体にかかわるものであり,いくつかの要素に分けられるものではない。しかし,その理解や評価に当たっては,指導の目標,ねらいや内容をその窓口とするが,それとともに,道徳的心情,道徳的判断力,道徳的実践意欲と態度及び道徳的習慣などの観点から分析することが多い。」
 このことは、かなり難しい! おそらく新採教員を含め現場レベルでこの見取りを真剣にやろうとすることは相当の労力と研究を必要とします。一部には、道徳性の発達段階説に即して子どもの成長の様子を見ようとし、また、それを評価に取り入れようとする向きもありますが、あくまでも指導のための評価であり、評価・評定のための評価ではありません。したがって、「児童の成長を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることによって,児童が自らの成長を実感し,更に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるような評価を目指すことが求められる」というところに落ち着いているのではないでしょうか。

(2)「道徳科に関する評価」について
 ここにおいて、このように指導要録等に評価しましょう、という視点が明示されています。

・数値による評価ではなく,記述式であること。
・他の児童との比較による相対評価ではなく,児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止め,励ます個人内評価として行うこと。
・他の児童生徒と比較して優劣を決めるような評価はなじまないことに留意する必要があること。
・個々の内容項目ごとではなく,大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと。
発達障害等の児童についての配慮すべき観点等を学校や教員間で共有すること

 このことを踏まえ、まとめると、「(道徳科の時間における)児童の学習状況の把握」と「道徳性に係る成長の様子」を記述しましょうということだと私なりに考えています。したがって、これらのことが個々の子どもの状況によっても違ってきますし、あくまでも「個人内評価」であるので「それぞれみんな違う」ものであります。「評価文例集」等によって仕訳した分類を基にそれを子どもに当てはめて記述する教員が出ないことを祈るばかりです。
 次に、子どもの学習状況の把握の仕方です。前回の小学校学習指導要領解説「道徳編」(平成11年5月)から評価の方法について抜粋させていただきます。

(ア)授業中の児童の発言内容の変化を分析する。
(イ)授業の終末に配布するワークシートに「この時間に、新たに学んだこと、思ったこと(感じたこと)、考えたこと、これからしようと思っていること」などを記入し、児童自身が自らの内面で起こった変化のプロセスを振り返れるようにする。
(ウ)授業の事前と事後に質問紙法による自己評価方式のアンケートを行い変容を確かめる。
(エ)授業前後の児童の学校生活の様子を観察し比較する。
(オ)授業後の日記や道徳ノートで、授業の反応や学習が発展しているかなどを確かめる。

 最後に、子どもの学びの「何を」評価すればよいのでしょうか。赤堀博行氏(文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官)も講演等資料で記されています。解答は、これも「解説」に載っています。周知のことですが、あえて掲載します。

①道徳的諸価値の理解
 ・価値理解  道徳的価値のよさ、素晴らしさ
 ・人間理解  道徳的価値の実現の難しさ
 ・他者理解  道徳的価値の多様さ
②自己を見つめる
③多面的、多角的に考える
④自己の生き方についての考えを深める

 このあたりのさらなる具体化は、学習指導要領解説「特別の教科 道徳編」を参照しながら各学校で規準が作られることを願っています。

 なお、(3)学習指導過程に関する評価の工夫、(4)評価の工夫と留意点については、今回は触れることができませんでした。またの機会に記してみようと思っています。