読み物プラス

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美術の先生が被災地でとりくんだこと
2013.06.07
読み物プラス <学び!トピックス Vol.35>
美術の先生が被災地でとりくんだこと
夢はアートセンター
宮城県石巻市立門脇中学校教諭 梶原千恵

アートのある日常を目指して ~アーティストと被災地をつなぐ~

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 私は震災後、仮設住宅などでワークショップをしたり、被災地を訪れるアーティストのコーディネートをしてきました。震災直後は、あまりの被害の大きさに何もできないと無力感を感じていましたが、炊き出しなどのボランティア活動を続ける中で「美術の先生なんだから、美術でできることをして下さい。」とボランティアセンターのスタッフから言われたことをきっかけに活動を始めました。
 最初に行ったのは仮設住宅へ贈る表札作りです。当時の勤務先の高校生とがれきを拾ってきて、カラフルな表札を作りました。殺風景な仮設住宅が少しでも明るくなればという思いでした。その時石巻でボランティア活動をしていたアーティストからの提案で、表札を贈る前に商店街の空き店舗をお借りして表札の展示をしました。そこで「アート」の力に気づかされます。

空き店舗を利用した展示

 展示期間中の表札作りには、近所の子どもから大人まで沢山の人が参加してくれました。「絵筆を握るのは何十年ぶり」という人もいました。はじめは「見ているだけでいい」と言っていた人が毎日通って10枚以上作ってくれました。お昼にはみんなで持ち寄ったおにぎりを食べたり、お茶っこを飲みながらおしゃべりしたり、自然と人の集まる場所になっていきました。一緒に作りながらだと、不思議と家族にも言えなかった自分の思いを話すことができました。

表札の展示風景

 アートやアーティスト自身が人を引き付ける磁力をもっているということ、また人が集まる磁場を作ることができるのだと実感した出来事でした。アートがある場が居心地良く、自分のためにもみんなのためにも、何年先か分からない復興の過程でアートが必要だと強く思いました。しかし自分一人でできることはわずかです。外から来るアーティストと地元のアーティスト、そして地域の人々をつなぐ存在が必要です。私がそうなりたいと思いました。徐々に被災地を訪れる人は減っていますが、アーティストが被災地を訪れやすくなる仕組みづくりをし、地元のアーティストに刺激を与え育て、地域の人々にアートの楽しみを伝えたいと考えました。

表札3

 1年程前から継続して、アーティスト武谷大介さんと「遠足プロジェクト」をしています。支援物資の中古ランドセルにアーティストが作品を作り、展示、作品を背負って街歩きするツアーなどをしています。作品に使用している中古ランドセルは、善意で送られたものの貰い手がなく捨てられず困っていました。支援する側、される側のコミュニケーション不足や、震災の記憶の風化防止を訴えたいという武谷さんの発案でランドセルを譲り受けました。これまで国内10か所を巡回展示し、被災地の現状を伝えることができました。このプロジェクトを通してできたネットワークを活かして、被災地へ新しい人の流れができればいいと思っています。

遠足プロジェクト

遠足プロジェクト

 震災後にアーティストと出会えたことが私の生き方や考え方を大きく変えました。アーティストの皆さんの柔軟なアイディアやそれを実現しようとするエネルギーにはいつも驚かされ、刺激を受けています。今の夢は女川町にアートセンターを作ることです。それに向けて地元と外のアーティストの生涯学習講座を行ったり、アーティストインレジデンスを企画しています。みんなが日常生活を楽しめる町を目指して、アーティストと町をつなげていきたいです。


■遠足プロジェクトHPico_link 
遠足プロジェクトでは、継続的な被災地支援の動きを広めるのと同時に、遠足の巡回という形で一緒に展覧会やワークショップを開催できる『ひととまち』を募集しています。