読み物プラス

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がんばっています!東北 子どもたちは未来に生きる
2011.06.10
読み物プラス <学び!トピックス Vol.30>
がんばっています!東北 子どもたちは未来に生きる
3.11 大地震・大津波そして原発事故と子どもたち
福島県郡山市立御舘小学校教諭 佐藤禎仁

こんなこと、あるはずがない。

gamba_tohoku_mark_w3001 3月11日金曜日、短縮日程で子どもたちを下校させ、職員室で一段落していたときだった。
「グラグラ…」
最近この程度の揺れはしょっちゅうきていた。
「ああ、また地震か。」
そのうちいつものように止むだろうと構わずテストの採点作業を続けた。しかしなかなか止まらない。それどころかだんだん揺れが強く、大きくなってきた。
「これはまずい。」
立ち上がって、職員室のガスコンロの元栓を閉じ、乗っていたやかんを下ろし、食器棚を押さえようとしたときだった。揺れはいきなり大きくなった。ものがガタガタと音を立てて動き始めた。30数年前に記憶された宮城県沖地震の恐怖がよみがえった。
「外に出よう。」
先生方と声を掛け合い、急いで外へ飛び出した。掲揚塔のポールがぶるぶる震え、プールの水が右に左にあふれている。校舎も地面も壊れそうな程動いていた。しかも弱まるどころか、私たちの不安と恐怖をあざ笑うかのようにさらに強く、止むことなく揺れ続けた。
「ああ、終わりだ。このまま校舎は崩れていく…。」
諦めかけた頃、揺れはやっと弱まってきた。周りを見ると、屋根瓦が落ち、石塀が倒れ、丘がずり落ちていた。道路にもプールにも亀裂がはしっていた。
「これは、夢だろうか。」
 幸い、停電にはならなかった。テレビをつけ、ニュースに目をやった。夢ではなかった。あちこちの同じような状況が映し出された。しばらくして津波警報が出された。警報の津波の高さがどんどん高くなっていく。やがてテレビの画面に上陸した津波の映像が映し出された。ヘリコプターで撮影していたのだろうか。墨汁のようなどろっとした液体が、田畑や家屋、道路を次々に飲み込んでいく。走っていた車もその液体に飲まれ、消えていった。シミュレーションとしてCGでつくった映像なのかと思った。現実だとしたら、あの家にも走っていた車にも生きている人間がいる。命がこんなに簡単に奪われるはずがない。
「これはつくり話だ。こんなこと、あるはずがない。」
 翌日、東京電力福島第一原子力発電所1号機の建家が水素爆発で吹き飛んだ。そして3号機も…。
「原発は絶対に壊れない。だから安全・安心なんだ。」
ずっと聞かされ続けてきた。しかしその原発が次々と壊れた。壊れるはずのないもの、決して壊れてはならないものが壊れた。今も壊れ続けている。いつまで壊れ続けるのか。この先どうなるのか。未来はあるのか。子どもたちに何を伝えればいいのか…。
「こんなこと、あっていいはずがない。許されるものではない。夢であってほしい。嘘であってほしい。」

あれから三カ月、子どもたちは未来に生きる。

 福島県郡山市の小中学校は4月11日に始業式・入学式を迎えた。地震の被害で校舎や体育館が壊れた。また原発の事故で避難する子どもたちの動向も定まらなかった。通常より5日程遅らせ、その対応にあたった。そのかいあって、笑顔で一カ月ぶりの再会を果たすことができた。でも、どこに向かって、何をがんばればいいのか。先は見えなかった。
 震災前に図工の授業で取り組んでいた作りかけの作品が残っていた。ビー玉のコースターだ。一カ月も間を空けて、子どもたちは意欲を持って取り組めるだろうか。不安はあったが、続きをつくることにした。
「明日もやりますか。」
「もっとやりたい。」
「友だちとつなげていいですか。」
始めてみると、手を使ってものを作ることが、友だちと関わり合いながらものを作ることが、ビー玉を転がして遊びながらものを作ることが楽しくてしかたがないようだった。
 5月になって、ある企業から絵画作品募集の案内がきた。いつもなら見向きもしなかったが、「夢をえがく」というその趣旨に心が動いた。出品者全員に参加賞があるのも嬉しかった。賞品も図書カードや旅行招待などで、子どもたちも心躍らされた。いろんな夢が出てきた。空を飛ぶ夢、宇宙旅行、大きなケーキやパフェをお腹いっぱい食べること、世界中、宇宙中のみんなと仲良くなることなど。そんな中、震災で困っている人たちに家や食べ物や水を届けたいという願いを描いた子がいた。自分たちも大変だというのに…。
 子どもたちはやさしかった。子どもたちは未来を信じていた。先のことはどうなるか分からない。今できることは子どもたちとともに歩んでいくことだ。それが私自身の勇気と希望になることを子どもたちから教えられた。東北は、福島はがんばっている。でもそれは、目には映らないかもしれない。だから見守ってほしい。求めることなく…。