高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「自画像(ベレー帽)」 黒田清輝作
2012.12.28
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.043>
「自画像(ベレー帽)」 黒田清輝作
「美・創造へ1」P.17掲載 久米美術館蔵

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油彩/板/36×25.3cm/1897

 黒田清輝31歳の自画像であるこの作品には、いかにもフランス帰りの芸術家らしい風貌が表現されています。黒田は明治を代表する洋画家の一人で、近年も彼の作品がテレビCMに使われるなど、今なお高い人気を誇ります。「近代洋画の父」と呼ばれるほどの成功を収めた黒田ですが、画家としてのスタートは、意外にも多難なものでした。
 黒田は明治17年、17歳でフランスに留学しましたが、当初は元老院(当時の立法機関)議官であった父親の意向により法律の勉強をさせられていました。パリで画家や画学生らと接するうちに美術の道を目指すようになりますが、父親の許しを得られず、しばらくは日本にいる父を説得しながら法律と美術の勉強を並行せざるをえませんでした。
 「天性ノ好ム処ニ基キ断然画学修業ト決心仕候(=自分の気持ちに正直に、どうしても絵の修業をすると決意いたしました)」と父に宣言し、ようやく画家修行に専念した黒田は、パリ近郊の風光明媚なグレー村を拠点に数々の優れた作品を描きました。グレーで出会い、黒田のモデルを務めたマリアとの恋愛を巡っては、のちに親友の久米桂一郎が「(黒田が)妙なことを言って……狂人のようになっていた」と語っているところをみると、深い悩みを経験したようです。
 帰国後、30歳代前半の黒田は、得意とする人物描写の腕前を大いに発揮して「湖畔」「昔語り」「智・感・情」などの大作を次々に発表しました。この自画像に描かれているのは、悩み迷う青年期の面影を残しながら、いよいよ念願の画家として開花しつつある姿と言えるでしょう。

(久米美術館 学芸員 梶田里佳)

■久米美術館ico_link

  • 所在地 東京都品川区上大崎2-25-5 久米ビル8階
  • TEL 03-3491-1510
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日休館)、年末年始、展示替え期間

<展覧会情報>

  • 企画展「久米桂一郎・黒田清輝と東京美術学校の教え子たち」展
  • 2013年1月10日(木)~2月24日(日)

展覧会概要

  • 久米桂一郎と黒田清輝は共にフランス留学から帰国後、東京美術学校(現・東京藝術大学)に新設された西洋画科で指導にあたりました。今回の展示は、久米・黒田と、彼らの指導を受けた作家による絵画・彫刻作品を併せて鑑賞できる恒例の展覧会です。

<次回展覧会予定>

  • 久米美術館 常設展 I
  • 2013年3月12日(火)~4月21日(日)

その他、詳細は久米美術館Webサイトico_linkでご覧ください。