学び!とシネマ

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マヤ ― 天の心、地の心 ―
2012.10.04
学び!とシネマ <Vol.78>
マヤ ― 天の心、地の心 ―
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c) Eric Black

(c) Eric Black

 もうかなり前、マヤ文明に魅せられた利根山光人という画家の「マヤ」という本を読んだ。重くて大きな本で、読むというより、見た、といった方が正確だろう。記憶が定かではないが、マヤの人たちの歴史や造形の巧みさを、多くの遺跡などの写真とともに紹介した本だったように思う。
 そんなことを思い出しながら、ドキュメンタリー映画「マヤ -天の心、地の心-」(ユナイテッドピープル配給)を見た。
 いま、マヤの人たちが、どのような環境で、どのように暮らし、何を信じ、何を考えているかが、あざやかに伝わってくる。映画の中に、何度も、マヤの人たちの世界観の基となる創世神話「ポポル・ヴフ」の一節が挿入される。冒頭は、「これは物語の始まりである。今なお物音も立てず、とても穏やかである。ひっそりと、静まりかえっている」。 
 海亀が泳ぐ。湖で小舟を漕ぐ人がいる。マヤの予言にはこうある。「マヤ暦の最終日に、川や海の色が変わり、神々が民を纖滅し、新世界を誕生させる」。
 マヤには、ツォツィル族、ツェルタル族、チョル族、マム族などが先住民として、主にメキシコ南部からグアテマラで暮らしている。映画では、多くのマヤの人たちが、自然の持つ偉大な力について語る。そして、スペインをはじめ、いろんな国によって、征服され、略奪された歴史を語る。グアテマラは、1960年から30数年、内戦が続いた。政府軍が、多くのマヤの人たちを殺害した。映画でも、その詳細が語られる。
 今なお、人種差別がある。メイドとして働いても、食事は立って食べる。若い女性が、内戦時、グアテマラからメキシコに逃げた話をする。マヤの指導者や大人たちは殺される。政府軍が道路を封鎖する中、子供たちは、森の中を通って逃げのびる。
 マヤ精神の指導員が、内戦を振り返る。「死体が道路のあちこちに。25万人の死者、行方不明者で、その多くはマヤ人だ」と。
 熱帯雨林が伐採される。干ばつが起こり、森は破壊される。ジャガーなどの動物もいなくなる。親たちは、森の伐採を認めないと殺される、と諭す。ある森などは、3分の2が破壊された。男性は、「長生きはしたくない、マヤで死を意味する、カヌーと亀の夢を見たから」と言う。

(c) Eric Black

(c) Eric Black

 かつて、一帯をスペイン人が侵略した。先住民は、山に逃げる。その山で、外国人が金鉱を発見する。再び追い払われる。マヤの人たちは、「精霊の山だから、むやみに山に触れない」と教えられる。しかし、グアテマラ政府は、山と金鉱を、他国籍企業に売る。金鉱からは、悪い空気が流れてくる。赤ちゃんや子供たちの皮膚に、赤い斑点ができる。金を掘るために、シアン化合物を使用しているかららしい。
 マム族の住む村で、初めての地域集会が開かれる。団結し、戦い続けようと呼びかける。
 教会で、子供たちが歌う。「もうすでに空気は汚染されてしまった…最後の瞬間に奇跡を求めています」と。
 マヤの人にとって、トウモロコシは神聖なもの。ツォツィル族は、政府軍が認めていないので、バンダナで顔を隠して、トウモロコシを刈る。マヤの先祖たちは、何千年も前から、トウモロコシで支えられてきた。メキシコ北部で、遺伝子組み換えのトウモロコシの栽培が承認された。多国籍企業、モンサントの進出だ。北米自由貿易協定が結ばれ、アメリカから安いトウモロコシが入ってくる。
 ますます貧しくなるマヤの人たち。かつて家族が殺され、いまは金鉱からの被害、さらに、トウモロコシ。女性は言う。「侵略者が尽きない。脅され、いつも震えている」と。
 いま世界は、一見、豊かかもしれない。その豊かさは、少数の人たちの犠牲の上に成り立っている。では、近未来は? 今や世界は、マヤ暦通り、神々が民を纖滅する時代になっているのかも知れない。新世界は「ひっそりと、静まりかえっている」はずだ。
 ドイツ映画である。監督、脚本は、フラウケ・ザンディッヒ、エリック・ブラック。

2012年10月6日(土)より、渋谷アップリンクico_link他にて順次公開

■『マヤ ― 天の心、地の心 ―』

≪第24回 アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭 オフィシャルセレクション≫
≪バンクーバー国際映画祭 2012 オフィシャルセレクション≫

監督・脚本:フラウケ・ザンディッヒ、エリック・ブラック
撮影監督:エリック・ブラック
助監督:フロリーナ・メンドーサ
製作:アンブレラ・フィルムズ・プロダクション、ZDF/3SAT共同製作
99分/2011年/ドイツ/スペイン語/カラー/16:9
配給:ユナイテッドピープル