高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「七宝桐文引手」
2011.11.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.029>
「七宝桐文引手」
「工芸Ⅰ」P.40掲載 細見美術館蔵

象嵌七宝/桃山時代

象嵌七宝/桃山時代

 「七宝」とは、古い仏教の教典にも見られる言葉で、もとはその名の通り七つの宝や宝石を指していたと考えられています。この言葉に由来する七宝は、宝石に並ぶほど美しいもの、あるいは宝石の代わりとして作られたものです。一般的には金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付けたもので、その繊細な細工と鮮やかな色彩は、輝く宝石と同じように愛されてきました。日本には中国から朝鮮を経由して伝わったとされ、正倉院の宝物にも見られます。
 技法としては、器胎(金属の素地)の表面に金属の線を付け、作りたい模様の輪郭を作り、ガラス釉どうしが混ざらないようにした有線七宝、また金属線を取り除いてから焼き付ける無線七宝とに分かれます。有線七宝は模様の境界線がはっきり表れるのに対し、無線七宝は釉薬の混ざり合った部分が微妙な色になり、やわらかい印象を作り出します。また本作品に用いられる象嵌七宝という技法は、器胎そのものをあらかじめ表現したい模様に形作っておき、凹部分にガラス釉を施す技法です。
 日本では、桃山時代から江戸時代にかけて城郭や書院建築の造営が盛んに行われ、七宝は襖などの引手や、柱や長押(なげし)の釘の頭を覆う釘隠(くぎかくし)などとして数多く作られました。建築金具には、草花をモチーフにした模様や形が多く見られ、華やかな空間を演出していました。
 この桐文引手もそうした建築金具の一つです。葉の先を白でぼかした透明感のある青い葉には虫食いや水滴が表され、花の先には濃いピンク色が施されて、明快な色彩と写実的な表現がみどころとなっています。
 普段は気にかけないような、ちょっとしたところにも美を楽しんできた日本の伝統を今に伝える、まさに小さな「宝」といえるでしょう。

(細見美術館 学芸部 福井麻純)

■細見美術館ico_link

  • 所在地 京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
  • TEL 075-752-5555
  • 休館日 月曜日

<展覧会情報>

  • 「京都国立博物館所蔵 典雅なる御装束-宮廷のオートクチュール-」
  • 2011年10月1日(土)~11月27日(日)

展覧会概要

  • 宮中の儀式に用いられる様々な御料は、千年以上もの歴史に培われた有職の伝統に則り、技術と美意識の粋を集めて調製されるものです。それらは国内において最も格式の高い服飾儀礼を象徴するだけでなく、近代においては国際的な儀典の場面でも用いられ、海外の文化をも摂取して独自のスタイルを築きあげてきました。
    本展では、京都国立博物館所蔵の有栖川宮家・秩父宮家の各宮家ご所用の装束をはじめとする公家服飾の数々をとおして、我が国固有の伝統文化をご紹介します。
    ※会期中、展示替えがあります。詳しくはお問い合わせください。

<次回展覧会予定>

  • 「華麗なる京蒔絵 -三井家と象彦漆器-」
  • 2011年12月3日(土)~2012年1月29日(日)

その他、詳細は細見美術館Webサイトico_linkでご覧ください。