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ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.12 > p17〜p20

教育実践例
アメリカで同時多発テロ
−メディアは何を伝えたか?−
立命館慶祥中学校高等学校 向井 健一郎
mukai@spc.ritsumei.ac.jp
1.はじめに
(1)本校の情報教育
  本校の情報教育については,本誌の2001年No.9に詳しく書かれている。高等学校の必修単位としては,1年生で1単位の「情報処理Ⅰ」があるのみで,あとは高校3年生の立命館大学内部進学を目指しているコースで2単位の「情報処理Ⅱ」が設置されている。「情報処理Ⅰ」では,コンピュータの基本操作から始まり,インターネットによる検索・ワープロ・表計算・プレゼンテーション・ホームページ作りと基本的な内容をすべて1年生のうちに習得する。他の情報活用能力については,『地球市民』などの教科によって学習を進めていく形をとっている。

(2)「情報処理Ⅱ」の授業
  「情報処理Ⅱ」では,高校3年生の授業でもあるので,メディアリテラシーを中心に学習を進めている。表1にあるように,まず「新聞」をテーマにして「新聞はどのようなメディアで,どのような特徴があるか?」を学習していく。そして,実際に「札幌市内のニュース」を題材にした新聞(A3判,1ページ)の作成を行う。次に「株式投資ゲーム」を行いながら,不確定な情報の分析方法や表計算の応用としてのプログラム(実際にはVBAを使用)などを学んでいく。そして,8月の夏休み明けから「テレビ」をテーマにして「テレビというメディアの特徴やその問題点を探るためにテレビ番組を作る」という課題に取り組んでいた。

学習テーマ 授業内容
4月 新聞 ・新聞の分析
・新聞の作り方
5月 ・新聞の制作(取材の方法、記事の書き方、新聞の構成、編集作業)
6月 株式ゲーム ・株式とは(野村のバーチャル株式投資9
・株式市場の分析方法
7月 ・表計算による分析、簡単なプログラム(VBA)
8月 テレビ番組 ・テレビの特徴、ビデオ映像の撮影方法
9月 ・テレビ番組の制作
・ノンリニア編集について
10月 ・テレビ番組の取材
・編集作業
11月 ホームページで研究 ・ホームページでの研究発表
・効果的な発表の方法
12月 ・ホームページの完成、発信

▲表1 「情報処理Ⅱ」の年間授業計画

(3)米の同時多発テロ発生
 そんな時に,アメリカで「同時多発テロ」が起こった。日本時間で2001年9月11日午後8時40分ごろ,アメリカのニューヨーク州マンハッタンにある世界貿易センタービルにアメリカン航空のジェット旅客機が衝突した。

  日本のテレビ局でも,予定されている番組を中断して,アメリカCNNやABCなどの同時中継を放送して事件の悲惨さを伝えていた。そして,その時2機目の航空機が世界貿易センターのもう一つのビルに衝突した。この衝突の瞬間の様子は,アメリカだけでなく日本を含めた全世界に生中継で伝えられていった。
2.特別授業
 今回の事件は,世界にとって衝撃的な出来事であったが,メディアを学習していく上では「またとない教材」でもあった。そこで急きょ「アメリカで同時多発テロ〜メディアは何を伝えたか?〜」という題で特別授業を行うことにした(9月12日の授業)。

  生徒には「今回の事件をテーマにして,新聞・テレビ・インターネットなどのメディアがどのように事件を伝えているかを調べてみよう。

  また,そのことを通して各メディアの特徴や問題点について考察してみよう。」と,今回の特別授業について説明をして,テレビニュース(12日朝7時に録画したもの)を20分間見せた。

  新聞は5紙(朝日新聞・読売新聞・北海道新聞・日本経済新聞・Japan Times)を用意して,それぞれ交代で各紙を見比べるようにして,あとはインターネットの色々なサイトで今回の事件をどのように扱っているかを調べさせた。その後,表2のようなワークシートに調べた内容や気づいた点などを記入させた。

メディア どのように伝えたか 問題点は何か
新聞    
テレビ    
インターネット    

▲表2 特別授業のワークシート
3.生徒のレポート
 生徒がワークシートに記入したことの中から主なものをピックアップすると次のようになる。

(1)新聞について
・一面に大きな見出しと大きな写真を用いて「重大な事件が発生したこと」をまず伝えている。
・事件が起こった日時,場所,状況などが,細かく地図などを示しながら説明されている。
・日系企業がどこにあるか,確認されている安否情報などがまとめられて整理した形で表示されている。
・ニューヨーク市民の声やブッシュ大統領の声明,有識者の論評など色々な情報から事件を考えることができる。
・この事件を大まかにつかみたい人,詳しい情報を知りたい人,自分に関連する情報だけを知りたい人,それぞれの人が得たい情報を探せるように整理されている。
・印刷されて配達される時間を考慮すると,新聞に載っている情報は5,6時間以上前のものである。特にJapan Timesは記事が間に合わなかったため載っていない。
・音や動く映像がないためテレビやインターネットに比べて実際の迫力や緊迫感は伝わりにくい。
・情報が間違っていたとしても,発行された後では情報の更新はできない。
・「誰が犯人か?」という点では,新聞によってはやや偏った報道になっている。 ・読むのに時間がかかる。
・確定された事実が中心なので,もう少し推測でもいいから事件全体の背景などを詳しく解説してほしかった。
・読み返すことができるので,テレビで見過ごしたり聞き逃した情報を確かめることができる。

(2)テレビについて
・航空機がビルに衝突する瞬間や崩壊するビルの砂煙,その中を逃げ惑う人々などショッキングな映像と音により,事件の重大性や悲惨さをリアルに伝えている。
・現時点での状況を日本にいながらにして,生中継で見ることができる。
・ブッシュ大統領の演説なども生中継で伝えられるが,同時通訳によっては間違った訳になっているものもあるのではないかと思う。
・日系企業の社員の情報や現地日本人からの情報なども伝えられているが,どれほど信憑性があるのか分からない。
・現地レポーターやテレビ局のアナウンサーも混乱しているため,情報の整理ができずに次から次へと情報が流され,かえって見ている側が混乱してしまうところがある。
・評論家や専門家が,事件を多種多様な角度から解説してくれるので,事件の背景が色々と理解することができた。
・日本人の安否情報が繰り返し流されていた。数分前に流れていた情報が,すぐ訂正されたり,また元に戻ったり,どれを信じてよいか分かりにくかった。 ・同じ映像を何回も放送したり,アナウンサーも同じコメントを繰り返し言うなど,結局テレビから流される情報の量は少ないと思う。
・情報が錯綜する中で,専門家だからといって憶測で発言するのはよくないと思う。混乱している人々をさらに混乱させるだけだと思う。
・テレビの情報は一方的であり,視聴者がほしいと思う情報をすぐに得ることはできない。たとえばテレビをつける少し前に放送していた内容は,次に放送されるまで得られない。

(3)インターネットについて
・YAHOO! JAPANや朝日新聞などのページで「特集」が設けられていて,情報が整理されている。
・自分が知りたい関連情報をすぐに探して得ることができる。
・テレビや一般紙では見られなかった,NY在住のアーティストの安否情報など特殊な情報も色々と載っていた。
・様々なホームページにいけるようになっているので,航空会社やホワイトハウスなどのページからは,現在の状況や今後の対応などが分かる。全体として見れば,情報の量は非常に多い。
・映像(静止画や動画)による情報はテレビよりは遅い。
・完全なリアルタイムではないが,いつでも新しい情報を見ることができる。
・誤った情報が公開され,掲示板などでは「戦争万歳」などという無責任な書き込みまである。
・専門家や有識者がネット上で意見を公開しているという例は少なく,今起こっている事件について背景などとともに今後を考えることは難しい。
・誰もがインターネットで調べようとすると,アクセスが殺到してつながりにくくなり,得たい情報がなかなか手に入らないこともある。

授業の様子
▲授業の様子

(4)今回の授業のまとめ
 今回,生徒が提出したワークシートを見てみると,すでにある程度のメディアリテラシーについて学習しているので,各メディアの特徴や問題点についてはおおむね理解しているようだった。

  要するに,各メディアにはそれぞれ得意とする分野もあれば欠点もあるので,一つのメディアからの情報に頼らず,複数の情報源から情報を手に入れることが重要である。さらに,得られた情報はそのまま鵜呑みにするのではなく,まずは「批判的にその情報を見つめること」が大切である。この2点についてまとめて授業を終了した。

生徒のレポート
▲生徒のレポート
4.今後の情報教育

 今回の授業では,たまたま起こった「米同時多発テロ」を題材にして,色々な情報メディアの特性や問題点について集中的に学習することができたが,今までもこれと似たような授業を行ってきている。しかし,今回のこの事件があってから,なおさら高校生にこのような授業が必要なのだと感じることができた。

  情報教育というと「いかに早く情報を手に入れるか」「いかに多くの情報を手にするか」「どれくらい情報を加工できるか」の技術的な習得が中心に考えられているように思うが,まず「情報とは何か」また「情報を伝えるメディアにはどんな特徴があるのか」ということにも重きをおくべきだと私は考えている。特に,多様な情報が氾濫している現代に生きていく中学 生や高校生には,現在ある「情報」をそのまま受け入れてしまっては危険な場合もあることをしっかりと学習させるべきだと思っている。

  現在,検討していてもうすぐ完成する本校の新しいカリキュラムでも「情報リテラシー」(情報の入手や加工などの技術的なこと)と「メディアリテラシー」は情報教育の両輪であると考えていて,中学校の「情報」の授業から「メディアリテラシー教育」を導入する方向で考えている。

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