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ICT・EducationNo.13 > p10〜p13

教育実践例
普通科高等学校における実践事例
−美術と理科−
栃木県立宇都宮高等学校美術科 有坂 隆二
栃木県立宇都宮高等学校生物科 敦見 和徳
turumi@utsunomiya-h.ed.jp
1.はじめに

 本校は,創立123年を迎える栃木県内でも歴史ある高等学校である。平成10年にLAN環境の整ったコンピュータ教室が整備され,現在,平成15年度の教科「情報」の実施に向け,指導内容等を模索しているところである。今回は,本校での実践例を紹介する機会が与えられたので,報告させていただく。まだまだ,手探りの状況であるので,報告に関してご指導いただければ幸いである。

2.美術における事例
 全国的に見ればかなり以前から,美術の授業でコンピュータは利用されてきた。ごく初歩的なドゥローやペイントからやや高度な画像処理のようなものまで,それなりの多様性を見せてはいたが,その多くが「コンピュータでこんなものができました。」式のもので,美術の教科としての深まりには物足りなさを感じさせた。しかし,最近になって装置の性能は飛躍的に向上し,インターネットの普及もあって,コンピュータはより身近なものになってきた。初心者向けのアプリケーションソフトも実用に耐えるものが増え,機は熟しつつあった。

  そのような状況の中,本校のコンピュータは平成10年に最新のものに更新された。以前から,コンピュータがあればもっと効果があがるのでは,と思っていた題材に取り組むチャンスがやっと巡ってきたのである。機器の導入にあたっては,希望が生かされたとはいいがたいが,教室管理担当者の協力もあって,美術での使用が可能になった。いまのところ,あくまで教科の内容を補完するフィニッシュワークのためのコンピュータ使用に限定している。

  以下,これまで実施した題材について反省を込めて報告したい。
3.実施例
 題材は「空想美術館パンフレットを作る」で行った。いうまでもないことだが,美術においてコンピュータは手段であって目的ではない。基本操作をできるだけ共通化して生徒の負担を少なくし,コンピュータは題材の内容的な深化の補助になるよう心がけている。 一般の美術の題材からすると,見慣れないものが多いと感じる読者もいるかもしれないが,これらは,本校生と相対することで徐々に深まってきたものである。その目標について述べるのは本稿の主眼ではないが,展開例の部分や各所で触れているので参考にしていただきたい。使用基本ソフトは,すべてAdobe photo deluxe ver.1 for ビジネスである。

[1]空想美術館
生徒が自分だけの空想上の美術館を構想し,架空のパンフレットをデザインする。鑑賞とデザインの両面の性質を持たせ,美術館の概念も考察する。コンピュータによる授業は,この題材で初めて実施した。本稿では,本題材を例に詳述する。
なお,上記題材以外に下記の題材でも実施している。
[2]デカルコマニーの喚起力
[3]諷刺画
[4]野外インスタレーション体験
[5]愛用の茶碗
4.展開例

(1)題材名
『空想美術館パンフレットを作る』

(2)題材設定の理由
 本校生にふさわしい題材を模索する中で,これまで大きく二つに分類できる授業を展開してきた。一つは,多用な素材や技法に親しむ「手」の経験を重視したもので,もう一つは,本校生の知的理解力の深化と内面の発露を目指したものである。この題材は,後者に比重を置いたものということができる。

 わが国では,明治期に「美術」という概念が導入され定着したが,イメージと役割は時代に応じて変貌を繰り返してきた。現在の高度情報化社会に象徴されるグローバル化の影響もあり,そのイメージの変容振りは加速し「美術」の意味は希薄化に向かっているようにさえ見える。現実に開催されている展覧会も多様を極めており,他分野への越境は日常化し,広範な社会的プロジェクトそのものが作品として提示されるような事例もある。

 空想美術館の考えを最初に提唱したのは,かつてのフランス文化相にして作家のアンドレ・マルローである。空想美術館は,物質的な箱のない美術館である。空想の赴くままに作品を選び,世界に唯一のコレクションを作ることができる。名称が内容をそのまま表しており,たいへん解りやすいストレートな概念であり,生徒の意識の上に美術の概念を拡張するばかりでなく,自身の生い立ちや嗜好を容易に反映できる,結果として自己探求という思春期特有のテーマも自然に実現できるように思われる。「美術」を出来合いのイメージの再生産としてではなく,自己の中こそにあると気づく契機にしてもらいたいのである。

(3)題材で育てる能力,態度
[1]企画力(自分の最終到達地点を見極め,柔軟で偏見のないオリジナルなアイディアをまとめる力)
[2]資料収集能力(自分の目標に合致した適切な資料を探し出す力)
[3]構成力(コンピュータの機能を使って,目的に合ったふさわしいデザインを考えて構成する力)
[4]コンピュータ機器に対する興味,関心,操作技能

5.実施上の問題点

[1]コンピュータの専門知識のない教員が取り組む場合,情報担当者の協力が欠かせない。この件では,筆者は十分な協力を得ることができた。
[2]十分な台数のスキャナーがないと,教師の負担が膨大になる。
[3]コンピュータに向かうと,ほとんど思考停止状態になる者が少なくない。このいわゆるコンピュータ・ハイを防ぐには,事前の綿密な計画を立てさせる指導が必須である。
[4]ファイルサーバーへの保存での最大の不都合は,各生徒が保存するファイル名や形式を統一しなかったり,完成名をつけた後,手を加えて別のファイルにしたり,とにかく教師が最も見たいファイルに確実に行けない場合があることである
[5]ファイルサーバーへの保存では,生徒のプライバシーが守れない。IDも評価時に不便。外部メディアでの管理が望ましい。外部メディアも,持ち帰って別人のものをコピーしても判らないなど不安はある。
[6]ファイルの消滅やフリーズが頻繁に起こるのは避けられず,その対応に多くの時間がとられる。労作が一瞬にして消えた生徒など,慰めようがない。通常のパソコンの作業同様,こまめに保存するしかないようである。

6.生物の授業での試み

 ここ数年,パソコンを利用した授業展開ができないか,さまざまな面から模索してきた。授業内で生徒自身にパソコンを使用させるというのは,筆者の能力では教材開発が難しく,現実的には無理なので,教具(道具)としての利用について考えてきた。その手始めに,授業での資料提示および実験・実習のプレゼンテーション(以下プレゼン)としての利用を研究してみた。

  最近の生徒は,いわゆるファミコンゲーム世代なので,ビジュアル系のプレゼンにはスムーズに入り込んでくれる。そこで,開発には可能な限り動画と静止画を用いての作成を心がけた。ディジタル画像は,複数枚撮影してもコストが安く,素早く確認でき,取り直しも容易であることがメリットである。

  これまでにもいくつかの実践を試みたが,今回はショウジョウバエの交配実験のプレゼンを紹介する。プレゼンデータの作成にあたり,ソフトはMicrosoft社のPower-Pointを用いた。ショウジョウバエの静止画像は,双眼実体顕微鏡に設置したビデオ装置とビデオキャプチャー装置を接続し,さらにパソコンと接続して画像をパソコンでキャプチャーしてファイリングした。この操作についてやや高等なテクニックのように感じるかもしれないが,接続さえしっかりして,ドライバーが正常に機能すれば,いたって簡単である。実体顕微鏡の映像がパソコンに映し出され,取り込みボタンをクリックするだけでOKなのである。最近はカメラとキャプチャー装置が内蔵されている顕微鏡が廉価で販売されているので,それを利用すれば顕微鏡とパソコンを接続するだけで画像を取り込めてしまう。



  取り込んだ画像は,フォトレタッチソフトなどを利用して若干加工し,ファイルサイズの比較的小さなJPEG形式で中程度の圧縮率で保存する。そして加工画像をPower-Pointのスライド画面に貼り付けていく。PowerPoint上でもコントラストや明暗の処理ができるので,必要があれば調整するとよい。画像は,複数枚撮影しておくと都合のよいものを選択できるので便利である。



  テキスト文は事前に作成した実験書から,コピー&ペーストで貼り付けると,実験書と同じ内容になるので説明するのに都合がよく,手間も省ける。



  生物では実物を見せることが大きな課題である。できる限り実物を提示したいが,肉眼で確認することができない生物を用いる場合には,タイムリーによい状態を示すことが困難な場合がある。そのようなときには,スライド形式で,しかもカラー画像で示すことができると,生徒への理解度を深め,興味関心度も増し定着もするようである。



  実験器具などは,100万画素程度のディジタルカメラを用いて撮影したものを用いる。



  実験手順の説明に関しては,教師の演示などによって行うことが多いが,何度も同じ操作を繰り返して行うことは困難であった。そこで,何とかパソコンを効果的に活用できないかと模索した。これまでも,ビデオ撮影したものを,テレビなどで映して説明することはよく行われてきたが,これも繰り返すという面では以外に面倒であり時間もかかる。

  いろいろ検討した結果,実験手順をいくつかに区切り,編集作業が必要ないように撮りきりの動画映像で撮影することにした。実験操作の撮影には,一般的なビデオカメラ(アナログでもディジタルでもよい)を用い,実習職員に協力してもらって行った。撮影した映像は静止画の時に用いたキャプチャー装置(最近の装置は静止画も動画も両方できるものが多い)を用いて,パソコンに取り込み,MPEG形式のファイルで圧縮して保存する。

  最近はディジタルカメラで,動画を撮影できるものがあるので,それを用いるとより簡単である。保存ファイル形式もMPEG形式のものが多い。筆者は,HITACHIのMP-EG10を用いて行った。

  PowerPointのスライド画面では,動画も簡単に取り込むことができる。しかも,取り込んだ動画は繰り返し何度でも示すことができる。教師にとっても映像を見ながら説明できるので,ポイントをより強調することができる。さらに,生徒の反応を伺いながら説明できるので,より定着度が上がり,生徒の操作もスムーズに進められるようである。





  実験結果も,これまでの操作と同様の方法で,素早く示すことができるので,まとめもしっかりできる。また,実験の統計処理などを用いる場合も,画面のウィンドウを切り替えることで簡単に入力処理することができる。




7.おわりに

 今回2つの事例を紹介させていただいたが,今後も研究を続け,より適切な利用について検討していきたい。そのためこれらの事例に関して多くの先生方から,率直なご意見やご指導をいただけると幸いである。また,もし興味のある先生はご連絡いただき共に検討できることを期待している。

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