ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.18 > p14〜p17

教育実践例
普通科情報の授業を受け持つことになって
−本校の現状と課題報告−
京都府立峰山高等学校 木村 幸雄
ykimura@kyoto-be.ne.jp
1.はじめに

 峰山高等学校(本校)は京都府丹後地方に位置し,生徒数930名(男454名:女476名)を有する大規模校です。1各学年,普通科Ⅰ類5クラス,普通科Ⅱ類1クラス,繊維デザイン科1クラス,機械システム科1クラスに各40名ずつが在籍しています。また,弥栄町には,家政科と農園芸科(生徒数99名)の分校があります。

 本校では,今年度,情報A(2単位)の授業を普通科Ⅰ類で週1時間の内容で開始しました。この原稿執筆時までの授業の進行状況と,昨年度3年生の理系クラスで先行実施した内容を報告します。

2.教科の目標と教科書採用
 普通科情報の目標は,情報活用の実践力,情報の科学的な理解,情報社会に参画する態度の育成の3点です。それを踏まえ,本校ではカリキュラムを編成するにあたり重点課題として,

(1)生徒たちの身近な学習課題を取り上げ,情報の収集・加工・処理・発信などの実習を通して情報活用能力を身につける。
(2)生徒が自発的に学習を進めていけるように援助する。
(3)コンピュータやソフトウェアの操作方法を懇切丁寧に教えるのではなく,「この場合にはコンピュータを使うべきか,使わなくても良いのか」「コンピュータを活用すると,どのような便利なことがあるのか」「活用するとしたら,どのソフトウェアやどの機能を使えばよいのか」を考えさせ学習活動をすすめる。
(4)人権を守るという視点から,著作権やプライバシー保護などの情報モラルの育成をはかる。また,データ管理にも十分注意を払い,外部への流出がないようにする。

の4点に整理しました。

 この趣旨に添った教科書を採用するということが重要でした。そこで,他の出版社とはやや一線を画した視点を持っていると思われる日本文教出版の情報Aの教科書と実習ノートを採用しました。また,生徒机にはソフトウェアのマニュアルとして「ITーLiteracy」(Word編,一太郎編,Excel編,PowerPoint編,Photoshop Ele -ments編)を1冊ずつ用意しました。現在までのところ,担当教員へのサポート体制やWebページの充実に満足しています。
3.環境整備について
 本校は,昨年11月に新しいコンピュータに更新され,教室が一新されました。導入にあたっては,机の配置やハード,ソフト等で自分の構想をかなり取り入れてもらえました。コンピュータは当時最高のスペックで,授業支援システムとマルチメディア機器には予算を多くかけましたが,アプリケーションソフトは実際に使う必要最小限のソフトに限定しました。

 また,同時期に校内LANの整備と府立校の光ファイバー導入も重なって行われ,快適なインターネット環境が一度に整うことになりました。さらに,生徒教室ネットワークと職員室ネットワークはセグメントで分けられ,セキュリティー面でも綿密に設計が行われました。この点では,担当分掌(図書情報部),ネットワーク担当の先生,情報アドバイザー(京都府独自の配置),導入業者にかなりの力を発揮いただきました。ただ,教員の個人機をLANに接続する場合においては,ウィルス対策を義務づけてますが,個人の良識に任せているところがあるので,その掌握と教員のモラルやスキルの向上が課題です。
4.昨年度先行実施より
 私は普通科情報の主任を引き受けましたが,もともとの専門教科は理科です。昨年度は普通科情報に関する教科はなかったので,3年生の2学期後半から「生物Ⅱ(3単位)」の課題研究において,「進化」というテーマに沿って,コンピュータ教室を使った実習を行いました。

 合計17回の授業において,コンピュータの使用法から始まり,各自のテーマ決定,プレゼンテーションソフト(PowerPointとホームページビルダー)の使用法,インターネット検索,生物教科としての内容補充を含めて,最後の4回は発表会までたどり着くことができました。

課題研究テーマ一覧

(1) 原始大気の変化と生物の進化
(2) 生命の誕生
(3) 細胞共生説
(4) 進化の証拠
(5) いろいろな進化論
(6) 自然選択説の検証例
(7) セキツイ動物の陸上進出
(8) 霊長類の進化
(9) 人の進化
(10)進化と絶滅
(11)現在の進化説
(12)生物の分類


 この先行実施を通して,何点か今後に生かせる教訓ができました。

 生徒はコンピュータ機器に関してはほとんど抵抗なく入っていけます。携帯電話世代のせいでしょうか。ソフトの操作に関してもかなり柔軟な理解力を持っており,少し説明しただけで扱いは手慣れたものです。

 課題においては漠然とした内容(たとえば環境問題について)ではなく,もっと絞ったテーマを与える必要性を感じました。その点,今回は「進化」の中の…についてというテーマだったので,発表は結果的によく似たものもありましたが,12人それぞれが違う切り口から内容に深く入っていくことができました。情報Aで扱う「問題解決」においても,事前の課題設定を絞ることが大切に思います。

 また,絶えずMOなどでのバックアップが必要です。生徒は,次々と同名のファイルを作ったり上書きしたりするので,前回や前々回のファイルを呼び出すのに大変苦労しました。毎時間の終わりには面倒でもその日作ったすべてのファイルのバックアップをとることが必要に思いました。また,フォルダの整理や階層構造などについてもしっかり教えた方が,後になって苦労しないように思いました。

 教員側も事前に教室の整備や機器の設定を怠らず,トラブル時の対応でもあせらずに,生徒にストレスを与えないことが必要です。その点,情報アドバイザーが授業や準備に入っていただけたことで大変助かりました。

 生徒の作業の掌握には教員コンピュータでの管理(ネットグループアシストを使用)が欠かせません。特に,ロック機能とモニタ機能は必需品です。最近はどのメーカーのシステムでも以前のような煩わしさはなく,授業をバックアップする道具として改善されているように思います。

教室
▲教室

発表会
▲発表会
5.今年度の授業開始

 この原稿執筆時点で第4週目を迎えました。クラスによって若干内容が異なりますが,以下のように進行しています。

第1週
 ・教室説明
 ・年間計画説明
 ・教員自己紹介
 ・アンケート
 ・コンピュータの起動と終了
 ・サーバに個人フォルダ作成

第2週
 ・フォルダの中にフォルダ作成,ファイル移動
 ・情報社会のビデオ聴覚
 ●「コンビニエンスストア」NHK「デジタル進化論」より抜粋

第3週
 ・コンピュータのしくみ
 ・ハードの説明とコンピュ ータ解体
 ・アプリケーションソフトの教員デモ
 ※重要用語や問題集解答はファイルで生徒全員に配布

第4週
 ・ブラウザの使用
 ※OPACの検索
 ・問題解決
 ・図書館データベース

第5週
 ・表計算ソフトの基本操作

 次週からの2週間は表計算ソフトとワープロの基本練習を兼ねて既存の図書館データベースの未完成部分に生徒がデータを記入していくことを課題にしています。本校の図書館データベースは,現在のところエクセルに,受入番号,書名,著者名,出版社,出版年,分類番号,大分類,小分類などを3万5千冊入力してあり,閲覧室のコンピュータで生徒がオートフィルタ機能で検索できるようになっています。データはここ数年間で担当教員でこつこつと入力してきましたが,大部分はいずれかの箇所が空白のまま残っていました。生徒に50行のセルを切り取らせ,その空白部分に入力後にファイルとして提出させます。

 また,「総合的な学習」においても「図書館案内」「調べ学習入門」と題して2時間をかけています。教科情報の実習を通しても,学校の文化遺産としての図書館の蔵書を知ることと,そのデータベース作成に参加できることの意義は大きいと思います。

6.最後に

 第1回目の授業でアンケートをとりました。他の学校や学科によっては多少異なると思いますが,多くの生徒の家にはコンピュータがあり,コンピュータの使用経験は100%に近いと思います。そのような状況下で教科としての情報が始まりました。カリキュラムは4月の予定より修正する必要がが出てきています。評価についても今後の大きな研究課題で,当初予定していなかった定期テストの結果も加味していきたいと考えています。

 授業以前の問題点もあります。検診や短縮授業や行事でクラス間に進度のアンバランスが生じること,ティームティーチングの場合で担当教諭が休んだときに代行教員の確保が困難で休みにくいことです。学校5日制の中で授業変更はきわめて難しくなっています。

 毎回の準備は大変ですが,生徒は楽しそうに教室にやってきます。その中には,きっと教師以上にコンピュータ操作にたけている生徒もいることでしょう。当初に立てたこの教科の目標を見失うことなく,情報の授業を通して,コンピュータ嫌いを作らないようにも心がけながら,生徒とともに歩んでいきたいと思います。

 今回の報告は特に進んだ実践というわけではありませんが,お読みになって感想や助言等がいただければ幸いです。

質 問 事 項 (1年生5クラス) ある ない
コンピュータを使用した経験があるか 200 0
自宅にコンピュータがあるか 161(81%) 39
ワープロで文章を作成した経験があるか 176(88%) 34
コンピュータプログラムを作成した経験があるか 36(18%) 164
携帯電話でメールのやりとりをしたことがあるか 169(85%) 31
家族のWebページがあるか 14(7%) 186
▲情報アンケート −第1回目の授業にて−(平成14年4月)

1年時(週1単位)情報A2単位の年間計画表
平成15年4月

1年時(週1単位)

学期 指導項目 具体的な内容および到達度目標
1 4 1.情報の理解
  オリエンテーション
・コンピュータ教室の説明
・コンピュータの基本操作
  フォルダの概念 ・フォルダを作成し,ファイルの作成・移動・保存等を行う。
5   問題解決 ・図書館の情報を例に問題解決方法について学習をすすめる。
  情報の伝達 ・情報伝達手段とプレゼンテーションについて理解する。
・Webページの観覧
・ネットワークの仕組み
6 2.情報の活用
  情報の発信と共有
・電子メールの発信
  情報の信頼性と責任 ・携帯電話のマナー
・チェーンメールが届いたとき
・プライバシーとセキュリティ−
7   1学期のまとめ ・レポート提出
2 9   情報の検索と収集 ・図書館のデーターをもとに情報検索をすすめる。
・自分の欲しい情報を収集する。
10   情報の整理 ・自分のフォルダ内の階層構造を整理する。
3.情報機器の活用  
  情報のデジタル化 ・アナログとデジタルの違いについて
・デジタルカメラとデジタルビデオの使用方法と記録方式を理解する。
・数値,画像,音声,映像のデジタル化
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12   2学期のまとめ ・プレゼンテーションソフトに,集めた情報を貼り付けレポートとして提出する。
3 1 4.総合実習 ・Webページの設計について学習する。
・班分け
・Webページを作成する。
(例)自分たちの住んでいる地域の紹介
   学校の紹介
   HRの紹介
   クラブの紹介
・発表会
 
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2年時(週1単位 来年度の予定)
学期 指導項目 具体的な内容および到達度目標
1   5.情報の処理
  Webページの統合
・1年時のWebの統合を行う。
  6.情報社会
  情報の未来
  著作権
  情報の発信

・NHK教育番組,デジタル進化論などを参考に見せる。

・Webページを発信する。

2

3
  7.情報の記録
8.総合実習
・1年時の内容を発展させた形で,ビデオ製作を行う。
・未定(例えば,理科分野では環境問題,生物の進化など,課題研究的なもの
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