ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.18 > p18〜p21

情報科テキスト活用事例
生徒にとって役に立つ教科「情報」の授業
平安女学院高等学校 岩間 徹
1.はじめに

 今年度から教科「情報」が新しい教科として取り入れられました。本校でも新1年生から新しい指導要領に基づいたカリキュラムがスタートし,1年生では「情報A」を2単位をおきました。3年生は旧カリキュラムですが,3年生の4クラスに,1年生とほぼ同じ内容の「情報」を2単位おいています。この2つの講座の内容は昨年まで高3対象の選択科目で行われていた「コンピュータ入門」の授業内容を基に組み立てています。ここでは昨年度,高3対象に行った授業を紹介します。

2.授業を行った生徒像とコンピュータ教室
 本校は京都の中心部,御所の西側にあり,創立から128年の歴史のある女子校です。学園は中学,高校,大学と付属の保育園から成り立っています。高校は昨年度は1・2年が7クラス,3年が9クラスからなり,卒業時に内部進学を中心とするアグネスコースと外部受験を中心とする特進コースがあります。私が担当したのは「コンピュータ入門」という3年生の選択講座です。この講座は3年生の任意選択の講座で73名の希望者があり,2クラス分の講座が成立しました。

 以前の「コンピュータ入門」はワープロと表計算のソフトを中心に展開していましたが,昨年度から「情報A」のテキストを参考に内容を大幅に変更して取り組みました。
3.「コンピュータ入門」の授業のねらい
 すでにパソコンが日常生活のいろいろな分野で使われるようになってきているので,ある程度,パソコンを道具として使えるようになるということが1つ目のねらいです。ソフトウエアとしては,ワープロ,表計算,描画ソフト,インターネット検索,メールソフト,プレゼンテーションソフトです。

 2つ目のねらいはコンピュータが様々な情報を扱う場合の特性のいくつかを知ることです。描画ソフトは,実際に絵筆を取って描くことに比べ,マウスを使うため,とても描きにくいのですが,コピーや色の変換を行うことにより,絵筆とは違う構成や色が使えるメリットがあります。また,表計算も,コンピュータを計算機として見た場合,数の認識を深めたり,シミュレーションによる予測ができたりします。

 3つ目のねらいは,情報をやりとりする中での情報モラルの問題です。生徒はすでに95%以上が携帯電話をもっています(学校内では使用禁止ですが)。携帯電話は,携帯型超小型パソコンですから,普通のパソコンでの情報のやりとりをするときと同じように,情報モラルに気をつけなければいけません。授業の中ではそのあたりも視野に入れるようにしていました。
4つ目は,情報の発信に関わることです(本校では生徒が自由に外部へ情報発信することを規制しています))。情報の受け手を校内の生徒に設定して,どのように,情報発信(プレゼンテーション)をしたら効果的に情報が伝わるかということを学ばせることをねらいとしました。情報発信はテーマ設定がとても重要で,テーマにより様々な生徒の能力を引き出し,伸ばすことができます。

 授業が始まってまもなくの4月下旬に,本学の大学の先生より滋賀情報教育研究会からの共同研究のお話があり,2学期からは大谷女子大学の大倉先生が開発したプレゼンテーション評価システムを使って,プレゼンテーションを中心とした授業に取り組むことになりました。

 研究授業は,プレゼンテーションを受けた生徒がなるべく客観的に評価し,その評価をプレゼンテーションを作った生徒に返すことにより,プレゼンテーション能力を効果的にスキルアップすることをねらいに行っています。
4.1学期の授業内容について
(1)ワープロソフト

 一太郎とATOKを使っています。キーボード操作に慣れさせるためにタイピングソフト(フリーソフト)でキーボード操作を少し練習し,書式設定と,簡単な変換操作を教えた後は,川端康成の雪国や平家物語の冒頭を例文として提出させました。その後,次の時間の冒頭に復習のために現国で使う森鴎外の舞姫を提出させました。生徒がワープロソフトを使うのは手紙やレポートが中心であると予想し,内容を伝えるためにはどの様な点に工夫すればよいかということを考えさせています。1学期期末に,実技テストとしてタイピングテストを行った結果ではほぼ全員が200字/10分以上打つことができるようになっていました(速い生徒は1000字/10分程度)。

(2)描画ソフト

 ウインドウズのアクセサリのペイントを使っています。生徒一人一人に紫陽花,葵,楠など校内にある木の葉を一枚ずつ渡して,最初は,形と色をなるべく実物に近くなるように描きなさいという指示でまず1枚制作させました。色は色の編集のパレットの中で生徒に作らせます。次に「新緑」をテーマに最初の葉を使っても良いし新たに書き直しても良いから自分でイメージする新緑を表しなさいと指示して描かせます。このときに1枚目の葉をコピー,変形する操作を教えると生徒は実に多様な作品を作ります。もちろん,全く抽象的な作品を作る生徒も出てきます。

(3)インターネット検索による情報の収集

 インターネットから必要な情報を調べたり,その情報を活用するときの著作権などへの配慮を教え,「地雷」というテーマでレポートまたはポスターの作成を課題にしました。このときは地雷問題が様々なマスコミに取り上げられていたのでなるべくタイムリーで話題性のあるものとして「地雷」を取り上げました。地雷についてどのように判断するかは生徒に任せています。これらの作品は次の時間までにレポートは印刷,ポスターはスクリーン上に投影できるように準備し,生徒に評価させています。

 ここでは,インターネットから得られた情報が本当に正しいのかを問いかけます。情報を得たページは個人が書いているのか,主催団体や公共団体が書いているのか,更新日はいつなのかなどに注意させます。

 また,この部分では,教科書の情報モラルの内容の具体例などを示して,様々な問いかけをしながら進めていきました。

(4)ワープロソフトと情報発信

 2人一組にし,お互いの紹介のページを作るという課題に取り組ませました。情報の受け手が,クラス内であること,その人の個性を引き出すようなインタビューを考えて,楽しく紹介できること等に注意して作るように指示しました。目的にあった内容構成と,個人情報についての注意,情報の受け手を意識して文章が作れることをねらいとしました。100の質問項目を考え,お互いにすべてのインタビューとその答えで紹介した生徒もいました。

(5)ワープロソフトと描画ソフトを同時に使う

 「葉っぱのフレディ」という絵本の内容を18ページほどに分割し,その1ページ分を生徒一人一人に割り当て,文章と絵を描かせて,クラスで1冊の絵本ができるような課題にしました。これまでのワープロと描画の復習とページの構成を考えさせることがねらいです。

(6)パレスチナの子供たちに手紙を書く

 これは本校の宗教センターの紹介で,YWCAを通じてパレスチナの子供たちに手紙を書き,イスラエル軍の侵攻の中で不自由な生活を強いられて勉強している小学生を励まそうというものでした。日本語,ローマ字,英語で同じ文章を書いて送る取り組みをしました。中東情勢については特に講義をせず,必要なことは自分で調べること,英語が不得意な場合はインターネット上の翻訳サービスを使っても良い,個人情報には注意をするなどの指示をしながら手紙を送りました。残念ながら返事は来ませんでした。

(7)パワーポイントを使って4コマのフレディ を作る。

 4コマで起承転結を意識し,表紙の部分と合わせて5枚のスライドを作らせました。例として葉っぱのフレディを4つに展開した内容を準備し,前に作った絵本の絵を使っても良いことにして,オリジナルの展開を作る課題としました。時間が少なかったためか,オリジナリティはあまり発揮されなかったようです。
5.2学期の授業内容について

(1)表計算

 表計算の例として,クラスの会計係として出納帳を作るという課題を設定しました。丁度学園祭の時期で,課題としては取り組みやすい内容でした。出納帳はセルに式を入れ,単価と個数を入力すれば自動的に合計や残高がでるようにし,レイアウト等は自由に考えさせました。

(2)グラフを作る

 「世界がもし100人の村なら」という本の続編を資料にして,世界の人種や言語,宗教のグラフを作りました。見やすい工夫をし,グラフをもとにレポートを書いて提出させました。

(3)ワープロソフトと描画ソフトを同時に使う

 指数計算とその結果をグラフで見るために,大腸菌の分裂による数の増加や利息計算を行ないました。エクセルによる授業はこの3回で,コンピュータの計算機としての活用例を取り上げたつもりでしたが,計算を苦手とする生徒が多く見られました。

(4)プレゼンテーション

 2学期の中心となる取り組みが,プレゼンテーションでした。プレゼンテーションは発表者の伝えたい内容が聞き手にどのように伝わるかと,聞き手がその情報を受けてどの様に変化したかが大事になります。このうち授業では前者の観点で生徒がプレゼンテーションを評価し,その評価を発表者に返して再び次のプレゼンテーション作成に活かし,プレゼンテーションのスキルを向上させるという展開です。前述した評価システムツールを利用しました。このツールは,発表者の様子をビデオカメラで撮った画像と,パワーポイントのスライドを同期させながら記録します。さらに,例えば発表がよいと思ったら各生徒がエンターキーを押すという指示を出しておくと,どの時点でどの生徒がエンターキーを押したかが記録されます。発表後に,プレゼンテーションをリアルに再現しながら,聞き手の反応を客観的に把握することができるものです。

 取り上げたテーマは,「電車の中のマナー」で具体的に,携帯電話,車両内での食事,化粧,等のテーマから選び,4人一組の班で,ディレクター,パワーポイント作成,発表者などの役割分担を決めて,3時間ほどかけてプレゼンテーションを作ります。それを,3分の制限時間内で発表します。生徒は,発表を聞きながら,納得したり,発表がうまいと思ったりしたところでエンターキーを押します。すべての発表が終わると,各生徒はすべての発表をもう一度自分のパソコン上で見て,画面上とプリントの書き込みの2種類の評価をします。パソコン上の評価は理解度と賛成度を5段階で感想を3段階で評価をさせました。さらに,実際に発表を聞いていないもう一つのクラスの発表もすべてパソコンで見て評価させました。プリントの記述評価は「発表者」,「PPT」,「全体の構成」,「その他」の4項目で,これは班ごとに次の時間までに集計し,各班にこの評価を参考として2回目のプレゼンテーション製作を取り組ませました。テーマは電車のマナーの中から別なテーマになるようにして,比較できるように同じテーマが3班ずつになるように分けました。2回目の発表は,推薦受験の時期と重なり条件が悪かったのですが,平均するするとどの項目でも改善が見られています。生徒の相互評価はプレゼンテーションに限らず,情報の伝達を目的とする授業では,動機付けやスキルアップの点で大きなメリットがあります。

コンピュータ授業のスキルアップ(生徒の自己評価)
▲コンピュータ授業のスキルアップ(生徒の自己評価)

6.終わりに

 多くの人の援助で手探りで1年間授業をしてきました。単なるソフトの使い方の授業はしたくなかったので,常に,どの様なテーマに取り組ませるかということを意識して取り組んできました。結果的に多くの生徒が,情報を伝えるための手段としてパソコンを使えるようになったようです。下のグラフは,1年間でそれぞれの項目のスキルがどれくらい伸びたと思うかを生徒に5段階評価で聞いたアンケート結果です。

 3学期は1クラスだけでしたが,イギリスのアドバンシング物理の物理教材を使い,X線や天体画像の画像処理により,様々な医療現場や天文学上の発見を追体験させることもできました。この教材は今後様々な取り組みに活かすことができそうです。

 情報のテキストは日本文教出版「情報A」を提供して頂いて,利用させて頂きました。インターネットのしくみ,コンピュータのしくみ,情報モラルなどの講義部分で活用をしました。特に情報モラルは,なかなか資料がないので助かりました。また,この教科書はプレゼンテーション学習にかなりのページが割かれて説明されているので2学期では,各自生徒に,参考書的に使わせるようにしています。評価のポイントなどが,プレゼンテーション作成で参考になります。

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