ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.19 > p14〜p17

教育実践例
問題解決への工夫『PC自作仮想体験』
−情報教育遠隔講座のひとつとして−
文化女子大学附属杉並中学校・高等学校 津久井 大
m-tsukui@bunsugi.ed.jp
1.はじめに

 本校は校名の通り文化女子大学の附属高校で女子校であり,文化女子大学及び短期大学に約30%が進学し,他大学および他短期大学に約50%,他専門学校に約10%が進学する。現役で約90%の生徒が進学するということが本校の特徴のひとつとなっている。

 医療看護系,情報系などの理科系大学や短期大学等に進学する生徒もいるが,どちらかというと文科系大学へ進学する生徒が多い。

 平成11年8月の校舎改築に伴い本校にパソコン教室が設置された。これを契機に平成12年4月より『選択情報(現行の情報Aに相当する学校設定科目)』という授業を開始した。

 本校における『情報』の授業の特徴は何といっても『情報教育遠隔講座』と称して,本校の『情報』の授業内容を全てWeb化して,公開していることである。

 1年間で行う課題も課題一覧のページを作成し,各課題の説明ページには課題毎に必要なスキルが一覧されている。自分が理解できていないスキルに関してはリンクを辿ることにより自ら学習できるようにもなっている。

 生徒は授業だけではなく,学内に存在するフロアパソコン(フリースぺースのパソコン)を使って放課後等に自学自習もできるし,自宅からも同じ授業内容を主体的に学習することができる。
私が作成した『Webテキスト』がどのようなものかは実際に本校のホームページ(http://www.bunsugi.ed.jp/)から確認して頂きたい。

 以下の図は課題解説ページよりEXCELの実習1におけるスキル一覧の部分を示したものである。


▲EXCELの実習1におけるスキル一覧(課題解説ページより)

2.『問題解決の工夫』に対する本校独自の取り組み
 この事例紹介では,現在,『情報A』の『問題解決の工夫』の部分として行っている『PC自作仮想体験』という本校独自の授業に関して紹介したいと思う。

 試みに,見本として頂いた何社かの教科書を比較してみると『問題解決の工夫』の部分は

a.旅行計画
b.製品の購入計画
c.自己の進路決定の検討
d.栄養あるお弁当の作成
e.花屋のプレゼント

のように大別される。

 『a.旅行計画』は家族旅行であったり,修学旅行の自由行動についての検討などが多い。

 『b.製品の購入計画』は物品の購入計画とした方が自然かも知れないが,ノートパソコンやパソコンの購入,スポーツウェアの購入などがあった。

 c.とd.は,本誌を発行している日本文教出版からの引用であるが,その他はそれぞれの教科書会社各社の教科書からの引用である(c.以下の概説は省略したが,詳しくは各社の教科書を見比べて頂きたい)。

 今年から正規の教科としての『情報』が始まったわけであるが,その準備段階として『問題解決の工夫』の部分を私なりに考えてみた。

 『旅行計画』や『自己の進路決定』も思い付いたが,やはり,最初に考えたのは『製品の購入計画』であった。現職教員等講習会でも『パソコンの購入計画(携帯電話の購入計画でもよい)』を例示されたのでイメージはあったと思われる。

 多少,先行実施してはいるものの,今まで本校では第二世代の情報教育観に基づいて授業を行ってきた。

 しかし,学校設定科目としてではなく,制度に則った教科としての『情報』を教えるにはツールの使い方をメインとするのではなくて,情報の取り扱いや情報モラル,著作権など,今までは実習の中で取り扱ってきたような内容も個別の学習内容とする必要があった。

 また,問題解決の工夫の部分なども新たに追加する必要が出てきた(もちろん,本校のこれまでの授業で著作権や情報モラルなどを軽視してきたといっているわけではない)。

 このようなわけで,今まではWebの作成実習の中で行ってきた『著作権関係』の部分を本校でも新たに別項目として教えることになったし,『メール実習1(情報教員に質問メールを送ってみよう・情報発信編1)→メール実習2(添付ファイルしりとりリレー:神奈川県立大岡高校の小島淳子先生が作られた課題を許可を取って本校でも実施させていただいている)→チェーンメールに関する調べ学習』という一連の授業の中で多くの生徒に『チェーンメールって送ったらいけないんだ!!』ということを気づかせる実習も今年から行っている。

 結局,『問題解決の工夫』の部分は本校では『PC自作仮想体験』というものを行うことにした。
ここで敢えて,このような課題を考えたかというと次のような理由による。

a.無理のない取材活動ができる

 とりあえず自分で価格等の調査をしてメモしてくるだけでよい(基本的にはインタービューなどはしなくてよい)。

 パンフレットを頂くということも常識の範囲内であれば問題はないと考えられる。

 チャンスがあれば店員さんとお話しができる(もちろん,相手はお仕事をされているわけだから,言葉遣いについて注意したり,相手の様子をよく考えて強引に聞いたりしてはいけない,ある程度知識を付けてからいかないと親身になって相談に乗ってもらえないかも知れないなどのアドバイスは与えておいた)。

b.学校の宿題でもなければ多くの生徒は電気街へは行かない

 今回の活動では実際に自作することを想定していないけれど,少しでも興味を持って自分で作ってみようという生徒が出ることも期待している。

 実際の取材活動としてゴールデンウィーク中に『電気街を歩いてみよう』という宿題を出した。

 本校は東京都杉並区にある学校なので,『基本的には秋葉原を訪れてみよう。しかし,ちょっと遠すぎて難しいという生徒は,新宿や池袋,立川や町田などみんなの行けそうな電気店でもよし』とした。

 事前にパソコン内のパーツについての解説をして,電気街を歩いて必要な部品に関してできるだけ多くの製品の製品型番とメーカー名,実売価格などをメモしてくること,パンフレットを貰って来ることと,そして電気街を歩きながら感じたことなどもメモしておくように指示を出した。

c.情報の整理・分析のために 表計算ソフトを利用できる

 予め,表計算ソフトの概要を説明した後,SUM関数,AVERAGE関数,RANK関数などの使い方及び計算式の入力方法に慣れさせるための課題を行い,その後,初めてこの実習課題を行わせる。

 IF関数を用いて予定金額と実売価格の差額を判定し,実売価格の方が高すぎる場合には『*** 高過ぎ!!・再検討 ***』,実売価格が予定金額よりも1万円を超えて低く過ぎる場合には『*** 低過ぎ!!・再検討 ***』,実売価格が予定金額に等しいか,差額が1万円以内の場合には『*** Good!! ***』と表示するようにした。

 使用した関数の種類はそれほど多くないが,これだけで表計算ソフトを利用するとどれだけ便利かは実感できる。

d.自分の取材活動(電気街の散策)が足りずに,必要な情報が不足していることに気づいた場合にはインターネットを活用して新たに情報を入手するという活動ができる

 もちろん,生徒達はWebの閲覧は全員できるが,この実習においては,ここで初めてインターネットを利用することになる。

 『初めにインターネットありき』ではなく,自分の足で現場まで行き,自分の目で製品や製品の価格を確認し,自分の耳で周りのお客さんがどのような製品を検討しているのかを聞き,自分の体全体で感じてきて必要な情報を自分自身で集めてくるというところから活動を始めている。

 基本的には情報機器の使用はこれから先の問題ということを生徒自身に身をもって体験して欲しくてこのような順番にしている。

e.作成した『部品購入計画表』をワープロ文書中に貼り付けて,この実習を行う過程での自分の取り組み・感想などを書かせることにより『情報の統合』の部分の学習もできる

f.『情報機器の仕組みと発達の歴史』の部分と関連づけて学習させることができる

 この実習で実際にパソコンのケースを開けて,ケース内の部品を一つ一つ見せながら解説をする。これにより,パソコンの中にはどのような装置があり,どのような働きをしているのかということがおぼろげながらも理解できる。

g.今後,パソコンの自作を実際にしないまでも,パソコンを購入するときに必要となる知識をある程度は身につけることができる

 以上のようなことから,『問題解決の工夫』の部分に対して,女子生徒には少々難しいと思われるような課題を設定した。

 ここでは生徒の身近な問題に関して『問題解決の工夫』ができるような課題を設定することになっているが,敢えて何も分からないという課題を設定することにより生徒達が『自分で調べざるを得ない』という状況を作り,自分たちだけで調べて問題を解決するまでの過程を理解する努力をさせた。

ショップで貰ったパンフレットやチラシを頼りに…
▲ショップで貰ったパンフレットやチラシを頼りに…
3.生徒の感想から
 提出された課題レポートに書かれた感想から数名分を抜粋した。

<<生徒A>>
 この授業でPCの使い方が少しわかりました。パソコンの値段を調べるのは大変だったけど,ちゃんとできたので良かったです!!
 パソコンが計算してくれるやり方さえ知っていれば簡単に計算ができるのでとても便利でうまく出来ればたのしいと思いました。

<<生徒B>>
 今回の課題は,今までできなかった表計算ができるようになったり,色がつけられるようになったりして,とても勉強になったと思います。
 秋葉原は,ほんとに電気屋やパソコン専門店が多くて,すごい街でした。普段行く機会がないので,いい経験になりました。これからもっとパソコンを使いこなせるようになりたいと思いました。

<<生徒C>>
 表を作るのが大変だった。いちいち文字を打たなきゃいけなかったから…。でも合計を求めるのとか消費税とかを求めるのはすぐにできるので便利でした!!
 判定をやるのはすごい!!高かったら高過ぎってでるし,安かったら安過ぎってでるんだもん☆
 あとパソコンにはたくさんの部品が使われていて,値段の高いのもあれば安いのもあって,自分で作るには安くも高くもできることを知った!!
 パソコンは必要だけど,自分で作るのは大変そう…。

<<生徒D>>
 初めてこの課題を聞いたときには,なんと面倒くさいことをするのだろうと思いました。
 しかし今,やっとこの課題を終えようというところまでたどり着き,われながら満足感と達成感とで胸がいっぱいです(≧∇≦)
 表に関数に,この最後の感想に…一学期に習ったことのすべてが詰まっているような気がします。
 私は,秋葉原には行かず,新宿に行きました。同じ新宿でも,普段は行かないようなところだったので,電気屋さんの数の多さに驚きました。そしてその中でも「パソコン専門店」が多いことが意外でした。実際に中に入ってみると,部品の種類・品数の豊富さにさらに驚きました。(途中省略)
 いざパソコンに向かい,作業を開始すると,これがさらに大変な作業でした。価格などを打ち込み,表を作り,足して掛け…(筆者注:関数を用いた計算以外のハードとソフトの合計の計算や消費税の計算など)。
 普段パソコンに触りなれていない私にとって,まさに地獄のような時間でした。しかし何とか自分の力でこの課題を終えることができました。本当にうれしいです。

サーバー室に眠っていた不要品を授業中に展示(写真の左側は 筐体)
▲サーバー室に眠っていた不要品を授業中に展示(写真の左側は 筐体)
4.この授業実践を行ってみて
 まず初めに,パソコンのパーツの進歩は速いので,それに応じて解説ページの更新をするのが大変だということがわかった。

 次に,この課題のねらいは間違っていなかったことを実感した。

 対象である本校生徒は当然,女子生徒なので,若干難しいという考えもあったが,実際に課題に取り組み始めると,みんな一生懸命に取り組んだ。

 正しい部品の組合わせまでは理解できていない生徒も多かったという点では,正確な意味では『問題解決の工夫』における『問題は未解決』ともいえるだろうが,それぞれの知識レベルで予定金額に実売価格をできるだけ合わせて製品を選択するという課題は見事にこなした(解決させた)と考える。

 『コンピュータの仕組み(五大装置など)』について教科書に書いてある程度のことは,この実習課題と関連づけて解説することができたし,今後学習する『情報機器の発達の歴史』の部分の導入にも繋げることができたと思う。

 また,秋葉原の電気街へ行った生徒の中には違法ソフトの販売をしている外国人からチラシをもらった生徒もいること思われる(生徒に『電気街を散策せよ』と宿題を出した手前,私もゴールデンウィーク中に秋葉原を訪れ,同様にこのチラシも貰っている)。

 この経験も次の『著作権及び情報モラル』の話に繋げる布石として予め考えていたことである。

 このような理由で『電気街を散策する』という課題(宿題)一つとってみても,今後発展的な活動ができることを考えると,いくつかの問題点はあるものの比較的よい課題なのではないかと思う。
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