ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.19 > p18〜p21

中学校の情報教育実践例
全職員で取り組む情報教育
〜日常的にネットワークを利用した実践〜
山梨県大月市立富浜中学校 小宮山 泰夫
kom@otsuki-tomihama-j.ed.jp
1.はじめに

 2002年度より現行学習指導要領が実施されました。総合的な学習の時間が実施され,各教科においてもコンピュータや情報通信ネットワークを活用していくことが必要となりました。特に中学校においては,技術・家庭科の中に「情報とコンピュータ」という必修領域が新たに設けられました。

 本校でも2000年度から総合的な学習の時間を週2単位時間実施するなど,研究を進めてきました。その中から,教育の情報化の目的である「生徒の情報活用能力の育成」と「ITを活用したわかる授業」を実現するために必要な教育課程を再構築してきました。本稿では,中学校入学から卒業までの情報教育を通した生徒の成長について報告します。

 また,小中学校の情報に関する研究会で「あまりパソコンのハード面に詳しくなくてもITを活用した授業ができないでしょうか」,「りっぱな実践報告だが,うちの学校には特別な機材やソフトウェアがない。インターネットがつながるパソコン,デジカメ,プリンタだけでも十分行える実践はないだろうか」等の意見がよく出ます。そこで,ここでは本校の実践例をより具体的に伝えたいと考えています。

2.中学校入学時の生徒のスキル
・ローマ字を知らない新入生がいる
・4割の家にパソコンがある
・メールはまだ使っていない

 1年生の担任と「CLの時間」の授業の打ち合わせをしている中で出てきた言葉です。4月新入生はホームルームや生徒会等のオリエンテーションで学校生活のイロハを学びます。そして,本校の新入生は「CLの時間」に校内ネットワークとコンピュータの基本的な使い方を学びます。この「CLの時間」はクラス担任と学年担当によるティームティーチングで行われています。それは,教育活動全体で効率的に情報教育が実践されるためには全ての教員がコンピュータやインターネットを活用して指導できることが必要不可欠となっているからです。実際,職員全員で取り組むことで,「情報教育はあの先生に任せればいい」という姿勢はなくなります。

担任によるCLの時間
▲担任によるCLの時間

 「CLの時間」の内容ですが,以下の項目を順次実施しています。

(1)校内LANとコンピュータ
(2)文字データ
(3)その他のデータ
(4)情報検索
(5)文章表現
(6)情報モラル

 具体的にはコンピュータへのログオン,ネットワークコンピュータの利用,日本語入力,インターネット利用とショートカット作成,画像データ処理,ワープロソフトによる印刷,著作権,ネットワークモラルなどを「中学生になって」「春の遠足の思い出」といった学校行事の作文やデジタルカメラ画像を使った文書作成を通して学びます。特に,情報モラルについては,友達のネットワーク上のデータを削除するなど具体的なトラブルについてCLの時間以外の道徳や学級指導の時間に考えさせることもあります(別表参照)。


3.全職員でささえる情報教育
 基本的な使い方を理解してから,生徒は総合的な学習の時間をはじめ,各教科での調べ学習,生徒会委員会活動などで,コンピュータを活用した学習・活動を行います。

(1)社会科での調べ学習

 地理では「海外の国々の特徴を知ろう」を6時間実施し,ヨーロッパ各国,アメリカ合衆国,中国などの国の農業,工業,生活様式,自然について図書館やインターネットでの調べ学習を行っています。また,公民分野では「昭和から現代の生活変化を知ろう」を6時間実施しています。いずれの学習も,調べた結果はレポートにまとめ,グループ発表しています。

総合的な学習でのグループ学習
▲総合的な学習でのグループ学習

(2)「Excelで関数グラフ」と図形ソフト「カブリ」の学習

 関数のグラフの学習では,Excelの散布図を使い非連続な変数に対するグラフを学びます。また,選択数学では「カブリ」で図形の定理を表現したり,様々な図形を表現したりしてその性質を発見する学習を行っています。上の図は,線対称な図形を描画するソフトの機能を用いた万華鏡をシミュレートしたものです。生徒の発想は,止まるところを知りません。

生徒のアイデアで作成された万華鏡
▲生徒のアイデアで作成された万華鏡

(3)映像表現の活用例

 美術科でも,コンピュータ表現を活用した授業実践がなされています。鑑賞教材では,時として非常に大きいものを実物大で提示したいこともあります(例えばピカソのゲルニカ等)。そのような時は,Jpeg画像をパソコン室のプロジェクタで壁いっぱいに投影します。また,MSペイントを使い,ドロー系の基本的な描画方法を学び,シンボルマークの配色を学びます。

 また,簡単なGIFアニメーションを用いたアニメーション作りが,2年選択美術で行われています。

MSペイントによるポスター
▲MSペイントによるポスター

GIFアニメーション
▲GIFアニメーション

(4)技術・家庭科での実践

 本校では,前述の「CLの時間」を1年の技術科の一部時間を弾力的に運営して実施しています。それ以外でも,技術科の授業として「B 情報とコンピュータ」を実施しています。主に総合的な学習などでの発表会などで使うプレゼンテーションソフトの活用について,自由発表課題に取り組みます。その際,デジタルカメラ,スキャナー,サウンド取り込み等のマルチメディアの取り扱いについて学びます。

 この学習では,コンピュータの基礎的・基本的な構成や操作などの実践的・体験的な学習活動を通して,情報手段の果たしている役割を理解し,情報を収集,判断,処理し,発信できるようになることを目指しています。特に,情報の取り扱い全般について,自ら課題を持って解決することと,生活に生かすことをねらいとしています。

(5)総合的な学習成果発表会

 本校の総合的な学習の時間は,課題追究学習の「扇の時間」と学年別領域学習の「富浜の時間」の2本立てで実施しています。課題追究学習は各自のテーマに基づき,情報収集し,判断,処理し,発信,伝達することで生徒が創造的な活動に取り組む時間です。

 例えば,人に寄生する生き物に興味を持ち調べた結果をプロジェクタで投影しながらプレゼンテーションする生徒もいれば,小麦粉の使い方について調べ,模造紙に写真や調べたメモを提示し,説明する生徒もいます。これらの活動に共通して言えることは,情報発信の手段にかかわらず,情報教育のねらいである学び方と問題解決能力の育成がなされていることです。

 他にも,インターネットを使った国語科の方言調べや,体育科でのスポーツの歴史調べとその成果発表会等が行われています。

生徒によるプレゼン
▲生徒によるプレゼン
4.インフラ整備と今後の展開
 本校の実践を早足で振り返ってみましたが,情報手段の活用はなされているが,見通しを持った情報収集やその適切な価値判断がなされているか,また,他の意見や自己の発見を客観的に判断して情報提供できているかという点について,今後の実践で検証していきたいと思います。また,この9月から,市内の小中学校は外部へは光の専用線接続になります。生徒にもより便利な環境が与えられることになりますが,ネットワーク社会の影の部分や,個人の責任に帰する多くの問題点について,学習の機会をどのような形で生徒に提示するかが,今後の課題になると思われます。
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