ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.19 > p22〜p25

中国における情報教育のカリキュラムについて
中・高一貫教育における情報教育の実践
〜アニメーションによる情報教育の展開〜
東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター 董 玉訒(王片に「奇」)
dongyq@u-gakugei.ac.jp
1.新世紀に向いた中国の基礎教育のカリキュラム改革

 つい最近(3月31日),中国教育部が「普通高校課程方案(実験)」及び国語等十五教科の課程基準(実験)を公布した。※注1注2「普通高校課程方案(実験)」によって課程編成は八つの領域から成っている。つまり,「言語と文学」,「数学」,「人文と社会」,「科学」,「技術」,「芸術」,「体育と健康」と「総合実践活動」である。具体的に「技術」という領域(教科)を見てみれば,「技術」は「情報技術」と「通用技術」という二つ学習分野に分けられる。

 既に2000年に始まった国家基礎教育カリキュラム改革は,2001年9月に義務教育段階の課程方案(実験)及び18学科基準(実験)の研究・制訂が終わって,全国27ヶ省(市)の38ヶ所実験区で実験している。2001年9月から2003年3月にかけて,普通高校の課程方案(実験)及び各教科の課程基準(実験)を研究・制訂していた。2004年9月に普通高校の課程実験は始まる予定であるという。

 21世紀を迎えた中国は,いろいろな社会状況の変化,特に情報化・国際化の影響を受けて,知識情報社会に大きい社会転換期がみえるようになってきている。そこで,国民全体のリテラシー養成を負う国家基礎教育カリキュラムはどう対応すべきかが極めて迫られている。社会の発展によって,情報技術は経済・文化・教育など広い領域で人間の行動に深い影響をもたらしている。従って,今こそ情報教育を真剣に考え直さなければならない時期なのである。

 本論は主に中国における情報教育カリキュラムの歩みを踏まえながら,主にこの新しい「普通高校技術課程基準(実験)」に決められた「情報技術」分野の構成・目標・内容・課題等を検討してみよう。

2.中国の情報教育カリキュラムの改革経緯
 中国の情報教育は1982年に発足したといえるであろう。※注3その年に中国教育部が清華大学などの五つの大学の付属中学校でBASIC言語という選択科目を設置することから実験が始まった。それから2000年までの間に,徐々に全国の小・中・高校に普及していった。授業の内容は最初のBASIC言語だけからコンピュータの原理とプログラム設計などを経て,コンピュータとネットワックの操作や利用などになっていった。

 2000年10月に中国教育部の主催で「全国小・中・高校情報技術教育工作会議」が開催された。2001年から5−10年間で全国の小・中・高校では情報技術教育を普及していることを決議した。その後中国教育部が「小・中・高校情報技術課程指導綱要(試行)」を公布した。※注4つまり,原則としてはこれを現行している。

 「情報技術」課程の任務は,情報技術に対する興味・意識を養い,情報技術の基本知識と技能を理解・把握させ,情報技術の発展とその応用が人間の日常生活や科学・技術にもたらす深い影響を理解させる。学習を通して,情報を収集・伝達・処理・応用できる能力を身に付けさせ,情報技術に関する文化・倫理・社会等を正しく認識・理解させ,責任感をもって,情報技術を利用するようにする。良好的な情報リテラシーを培い,情報技術を生涯学習・協力学習をサポートする手段として,情報社会における学習・仕事・生活に適応するために必要な基礎を築く。

 「情報技術」課程の内容は,現在にコンピュータとネットワーク技術を主にして,基本ブロックと発展ブロックに分けられているが,各地では教育目標と地域の実況に応じて,この2種類のブロックから適切な部分を選ぶことができる。授業時数については,小・中学校は各68時間以上で,高校は70ー140時間である。また,実習の時間は全部授業時間の70%以上であると求められている。

 「情報技術」課程の各段階・各ブロックの内容は表1に示されている。

 2001年末に普通高校の各教科の課程基準(実験)の研究・制訂によって,筆者を含む「普通高校情報技術課程基準(実験)の研究・制訂」の研究グループが正式に組成された。2003年3月までに,研究の成果は「普通高校技術課程基準(実験)」の一部として公表された。※注5

段階 基本ブロック 発展ブロック
小学校 情報技術の初歩,オペレーティングシステムの概略,コンピュータでの描画,コンピュータでの作文 ネットワークの簡単応用,コンピュータでのマルチメディア作品の製作
中学校 情報技術の概要,オペレーティングシステムの概要,文字処理の基本方法,ネットワークの基礎とその応用,コンピュータシステムのハードウェア・ソフトウェア コンピュータでのデータ処理,コンピュータでのマルチメディア作品の製作
高校 情報技術基礎,オペレーティングシステムの概要,文字処理の基本方法,ネットワークの基礎とその応用,プログラム設計の方法,コンピュータシステムのハードウェア・ソフトウェア データベースの初歩,コンピュータでのマルチメディア作品の製作
▲表1 「情報技術」課程の各段階・各ブロックの内容
3.「普通高校技術課程基準(実験)」に決められた「情報技術」
 中国における情報教育カリキュラム改革の最前線として,「普通高校技術課程基準(実験)」に決められた「情報技術」を検討してみよう。

(1)構成

 「普通高校技術課程基準(実験)」によると,「技術」は「情報技術」と「通用技術」という二つ学習分野に分けられ,各分野はいくつかのブロックからなっている。一つのブロックを履修すると,2単位(36時間)を取れる。卒業まで「情報技術」分野の履修は最低4単位を取らなければならない。表2に「情報技術」分野の各ブロックとその履修単位が示されている。

構成(必修・選択)

ブロック

履修単位

必修ブロック

情報技術基礎

選択ブロック

アルゴリズムとプログラム設計,マルチメディア技術の応用,ネットワーク技術の応用,データベース管理の技術,人工知能の初歩

2か2以上

▲表2 「情報技術」分野の各ブロック及び履修単位

(2)目標

 普通高校の「情報技術」の目標は生徒の情報リテラシを高めさせる。情報リテラシの内容は,具体的に次のように指摘されている。※注6

○情報の収集,加工,管理,表現とコミュニケーションの能力である。
○情報や情報活動のプロセス・方法・結果に対する評価能力である。
○意見を発表し,考え方を交流し,協力して学習や生活の中で問題を解決する能力である。
○関する倫理道徳・法律法規を守って,情報社会に合う価値観と責任感を形成することである。

(3)内容※注7

 「情報技術」分野の必修ブロック「情報技術基礎」の内容は,表3に示されている。「情報技術」分野の各選択ブロックの内容は,表4に示されている(項目まで)。

項目 内容の基準
情報の収集 ○情報の基本的な特徴を述べ,情報技術の応用の実例を列挙し,情報技術の歴史と発展の動向を理解する。
○情報の出所の多様性と実際の意味を知り,問題によって情報の要求と情報の出所を確定でき,そして,適当な方法で情報を収集する。
○ネットワークの情報検索のいくつかの主な策略と技巧を掌握し,合法的にネットワークの情報が取れる。
○情報価値の判断方法を掌握し,情報を鑑別・評価できる。
情報の加工と表現 ○任務の要求によって,巧みに文字や図表などの処理のソフトウェアを利用して,情報を加工し,意図を表現できる。適切なソフトウェアを選んで,マルチメディアの情報を処理して,主題を表し,創意を表現する。
○規範を守って,ネットワークなどの媒介で情報を発表し,思想を表現する。
○初歩的にコンピュータの情報処理のいくつの基本的な方法を掌握し,工作過程と基本的な特徴を認識する。
○一部の知能情報処理のソフトウェアの使用を通して,基本的な工作のプロセスを体験し,実際の応用価値を理解する。
情報資源の管理 ○実際の操作や現場の考察を通して,目下の一般的な情報資源管理の目的と方法を理解し,各方法の特徴を述べ,その合理性を分析する。
○一般的なデータベースの応用の系統の使用を通して,データベースで大量のデータを保存・管理することを実感し,高効率の検索した優勢を実現する。
○簡単なデータベースに対する解剖・分析を通して,データベースでの情報管理の基本思想と方法を理解する。
情報技術と社会 ○情報技術の社会・科学・技術の発展及び個人生活や学びに対する影響を探究する。
○現代の情報交流のルートを利用して,幅広くに協力を展開し,学習や生活の中の問題を解決する。
○情報に関する法律・法規を自覚的に守る意識を増強し,責任心を持って,情報の実践に参加する。
○インタ−ネットを使っているうちに,ネットワークの使用規範と関するモラルの基本的な内包を認識する。不良な情報を識別し,防ぎ止めることができる。情報交流の中でセキュリティの意識を確立する。
○情報セキュリティの意識を確立して,ウイルスの用心,情報の保護の基本方法を習得できる。コンピュータの犯罪の危害性を理解し,安全的な情報活動の習慣を身につける。
○情報技術がもたらす可能性のある心身の健康に不良な要素を理解し,健康的に情報技術を使う習慣を身につける。
▲表3 「情報技術」分野の必修ブロック「情報技術基礎」の内容

ブロック

項目

アルゴリズムとプログラム設計

コンピュータの問題解決の基本プロセス,プログラム設計の言語の初歩,アルゴリズムと問題解決の例挙

マルチメディア技術の応用

マルチメディア技術と社会生活,マルチメディア情報の採集と加工,マルチメディア情報の表現とコミュニケーション

ネットワーク技術の応用

インターネットの応用,ネットワーク技術の基礎,Webサイトの設計と評価

データベース管理の技術

データ管理の基礎知識,データベースの作成・利用と保守,データベース応用のシステム

人工知能の初歩

知識とその表現,推理とエキスパート・システム,人工知能の言語と問題解決

▲表4 「情報技術」分野の各選択ブロックの項目

(4)課題

 今後,中国における情報教育カリキュラムはたくさん課題を抱えているが,ここでは3点だけを挙げてみよう。

1) 設施と機械の整備
 「情報技術」の学習分野には,コンピュータの設置やLANの整備やインターネットの接続及びソフトの整備などが必ず要る。そのため,経費の予算や設置の基準など様々な問題を解決しなければならない。学校の買い取りは一つの方法であるが,各学校が購入する以外に,共有化やレンタル・リースなどが考えられている。

2) 教員の養成と研修
 中国には約1.5万校の普通高校がある。現場の状況(人数・学歴・専攻等)からみると,「情報技術」の教員の質でも量でもかなり厳しいのが現実であろう。「情報技術」の教員研修の講習会が考えられているが,これからのことを長く考慮すれば,大学(大学院)では「情報技術科教育(情報科教育)」というコース(専攻)が作らなければならないと思われる。また,遠隔学習という形で教員が在職のまま研修できるシステムの開発も期待されている。

3) 情報教育の体系性
 2001年9月に公布した義務教育段階の課程方案(実験)によると,高校の「情報技術」は義務教育段階の「総合実践活動」の「情報技術教育」分野に対応しているようにみえている。但し,小・中・高校の情報教育の体系性をどう構成すべきかが,まだ課題として残っている。
参考・引用文献

注1 http://www.moe.edu.cn/base/jckecheng/14.htm
注2 中華人民共和国教育部制訂, 『普通高校課程方案(実験)』,人民教育出版社,2003
注3 董 玉訒,『情報技術課程導論』, 東北師範大学出版社,2001,p83
注4 http://www.moe.edu.cn/zhuanti/jyxxh/xxjiaoyu/02.htm
注5 中華人民共和国教育部制訂, 『普通高校技術課程基準(実験)』, 人民教育出版社,2003
注6 同上,p12
注7 同上,pp14-37
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