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ICT・Education > No.2 > p4〜p7

実践例
インターネットを使ってもらうために
−ゼロからの環境構築−
奈良県立大淀高等学校 杉崎 忠久
1.SETI@homeは人をつなぐ
 SETI@homeというプロジェクト(※注1)がインターネット上で進行中である。インターネットにつながっているコンピュータの余力を地球外文明探査(SETI),いわば宇宙人(ET)捜しに活用しようという,米カリフォルニア大学バークレー校の科学実験である。プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡がとらえた宇宙からの電波データを解析する2年間のこのプロジェクトには,インターネットに接続できるコンピュータがあれば誰でも参加することができる。5万台のパソコンが参加すれば,従来のSETIプロジェクトすべてに匹敵する解析能力が得られるという。すでに220ヵ国から,72万人を越えるユーザが参加し,19,000年以上もの間パソコンを使い続けたのに相当する解析時間を提供している(1999年7月1日現在)。インターネットの特質をうまく生かした実に夢のあるプロジェクトではないか。

  インターネットは「人と人とをつなぐ」ネットワークである。

  阪神大震災(1995年)やナホトカ号日本海重油流出事故(1997年)のNPO活動にみられたように,ボランティア活動にははやくから活用され,成果をあげてきた。インターネットを利用するには確かにコンピュータは必要である。しかしインターネットに接続している人々どうしがつながっているのである。SETI@homeもコンピュータが勝手に動いているのではない。SETIに参加しよう協力しようと考える世界中の人々が結びついたプロジェクトなのである。

SETI@homeの解析中画面
▲SETI@homeの解析中画面

※注1 http://setiathome.ssl.berkeley.edu/
2.人と人とをつなぐネットワーク
 インターネットは「人と人とをつなぐ」。

インターネットは人と人とのネットワーク
▲インターネットは人と人とのネットワーク

  このような認識を私が持ったのは前任校(県立高取高等学校)でさまざまなオンラインプロジェクトに参加させていただいたおかげである。全国の高校生をネットワーク(当時はパソコン通信)で結んだNHK教育テレビの番組「ティーンズねっとわーく」(1996〜96年)に高取高校からは3名の生徒が参加した。1995年1月の阪神大震災で神戸から参加していた高校生からの通信が一時とだえる。全国の参加者が息をのむ中,数日後に無事が確認され,現地から伝えられる状況を生徒会の支援活動に役立ててもらった。

  世界の学校を愛車“Bubba”で訪れながら子供たちを結びつけ,平和を訴えかけた, “Where on the Globe is Roger?” の眼光鋭いRoger Williamsさんが高取高校を訪問した(※注2)(1995年4月) が,その出会いはインターネット経由の電子メールであった(IT・Education第1号22ページ)。

  さらに,100校プロジェクトでは大阪市立聾学校の皆さんとボランティア部の生徒とが電子メールを利用して文通を行ったのをきっかけとしてオフラインでの交流に発展していった。 「情報活用」という授業においても生徒に教えるというのではなく生徒とともに学ぶという姿勢でプロジェクトを実施してきた。

  「人と人とがつながる」。これは新たに設置される情報科を担当されるであろう先生方にもプロジェクトを通して知っていただきたいし,生徒の皆さんにもぜひ経験してほしいのである。そのためにはネットワークを先生も生徒も湯水のごとく使える環境が学校に必要である。高取高校では幸い100校プロジェクトの支援もあって,生徒が自由にインターネットを使えるパソコンを廊下にまで(インターネットキオスクと称し)置いていたし,希望者には電子メールアカウントを持てるという,当時としてはたいへん恵まれた環境だった。

  現在でもまだ多くの高校がそうであろうが,現任校へ2年前に赴任した時には,ネットワーク環境と呼べるものは何も存在していなかった。あるいはせっかくインターネット環境があっても,うまく活用されていない学校も多く見聞する。

  校内にネットワーク利用を普及させる鍵は何だろうか。

大阪市立聾学校とのオフライン交流
▲大阪市立聾学校とのオフライン交流

インターネットキオスク
▲インターネットキオスク

※注2 http://www.gsn.org/roger/report14.html
3.線 —校内LANの構築とインターネット—
 まずは「線」,ネットワーク環境が必要である。

  現任校で少しずつ環境を整えることにした。最初は校内LANでネットワーク環境に慣れていただく必要があろうと考え,職員室へのLAN敷設からはじめた。こればかりは環境があって使ってもらわないとなかなか理解しがたいものだからだ。幸い商業教室(パソコン教室)には前年度末にWindows95ベースのノートパソコンが20台設置されたので,こちらにもLAN環境を敷設しておくことにした。初年度の保守用の予算はすべてLANカードや中古の(!)ハブ,イーサーネットケーブルなど,すべてネットワーク構築に消えた。それでも足りない分はあちこちから余ったケーブルなどを提供していただいた。もちろん工事は自前で行うわけである。ありがたいことに,愛知県の「東海スクールネット研究会」(※注3)が,LAN構築のための講習会を開いている。参加させていただいてとても参考になった。

  プリンタにもネットワークカードを入れた(一般的にはプリンタサーバを入れた方が安価であろう。Windowsだけの数台のネットワークであればプリンタ共有でも実用にはなる)。ネットワークプリンタにすることで,新たにパソコンを増設する場合にもプリンタが不要になり,1台の予算でパソコンを2台導入することも可能になる。手狭な職員室に余分なスペースを取ることも無い。「離れたプリンタまで取りに行くのが面倒だ」という苦情も,じっと耐えていれば3ヵ月もたてば聞かなくなる。

  2年目は職員室と進路指導室の間にイーサネットケーブルを延長した。夏休みに廊下の石膏ボードを1枚ずつはずして,毎日数メートルずつ引いていくのである。はた目には何をやっているのか,それでも他の先生方に手伝っていただいたりして数10メートル張り終えた。職員室のパソコンも機会をとらえて予算をつけていただき,現在は,Windows95/98パソコンが3台,iMacが1台ある。前任校で使っていた私の古いMacintoshも,イントラネットサーバとして余生を送らせることにした。校内でWebページを立ち上げたり,電子メールを使える環境ができたが,使われるはずもない。ただし地域の方を対象に開いた開放講座では,こんなささやかなイントラネットとはいえ,十分役立ってくれる。

  3年目になる今年の5月より,ISDNを1回線入れ,ダイアルアップルータでインターネット接続環境を整えることになった。私の担当分掌である進路指導で活用するという目的であり,接続費用は進路指導予算から出すことで了解をとった。大学・短大・専門学校の進学情報をはじめ利用価値が高い。地元企業においてもWebを立ち上げたり,電子メールの使えない社員がリストラの対象になるような時代である。就職指導にも活用の道が広がりつつある。ルータは進路指導室にあるが校内LANを通じて,職員室からもインターネットが利用できる。広く教育活動に利用してくださいということで,先生方にもオープンにしている。

※注3 http://www.schoolnet.or.jp/schoolnet/
4.人 —コーディネータ—

 線を面にするのが「人」である。 ネットワークは多大なマンパワーを必要とする。「人と人とをつなぐ」のだから当たり前である。せっかくのインターネット環境が十分利用されていない学校は,コーディネータとしての資質や経験を持った人材が極めて限られているのである。

  教科の研究会の視察研修のための情報をさがしている社会科教員にWebの検索エンジンを使ってもらう。英語科教員にはCNNのWebページなどを紹介する。出張しようという教員にはWebでの経路検索や地図検索を紹介する。学校行事で必要になるBGMなどはMidiサイトをあさればたいてい入手できる。語学研修の引率でオーストラリアへ語学引率へ出かけた先生には電子メールで連絡を取りながらデジカメ画像や現地レポートを送ってもらう。若手のALT(語学指導助手)は環境さえ用意してあげれば,勝手に使い倒してくれる。あらゆる機会をつかまえて利用してもらえるようサポートをするのである。

  個人でノートパソコンを所持する教員も増えている。「職員室のプリンタが机の上から使えます,ついでにインターネットにもつなげますよ」と耳打ちすれば,たいていLANカードを購入してしまう。

  次のステージとしては,著作権をはじめとしての情報倫理についてや教育事例についての研修が必要であると考えられるが,職員研修を開いて組織的に行って行くべきであろう。

  このような活動を日常から支援していけるコーディネータ役があってこそ線が面になるのである。

  ちなみに本校での利用状況であるが,10名弱の教員で1日平均3時間あまり,月にすると70時間以上使う。現在の本校の契約(地方なのでプロバイダを選べない)では,月に100時間前後使うなら専用線の方が安い。情報科でプロジェクトを取り入れるのであれば,やはり専用線環境が学校にはぜひ必要であろう。

5.教育システムのリストラは

 バブル崩壊後,年功序列を基本とする日本の企業のシステムが生き残りをかけて大きく変わりつつある。日本の教育もシステムからの根本的な変化を問われるに違いないし,このままでは生き残れないのではないかと危惧している。

  このようないわば草の根のようなやり方が正しいとは思わないし,学校のサーバの管理をすることが教師の本分ではないはずである。

  全国の4万校の学校でネットワークを有効に使っていくためには,適切な環境と共に適切な能力と経験をもったコーディネータとしての人材の養成がぜひ必要である。

  時間もかかることであるが,それは電波の中からETの文明の痕跡をさがすよりははるかにたやすい事に違いない。

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