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ICT・Education > No.2 > p13〜p17

教育実践例
電子メールを基本とした国際交流
富山商船高等専門学校助教授 成瀬 喜則
1.はじめに
 筆者は高等専門学校(高専)に勤務している。高専では,学年で言うと高校1年から大学2年までの学生を対象に,一般教育と専門教育を教授する5年一環教育が行われている。

  工業系の学科が多いため,コンピュータやネットワークが整備された非常に良い環境にあると言ってもいいであろう。学内にある情報処理センターには,50台のコンピュータを設置したコンピュータ演習室が2つあり,さらに,各学科でも20台から50台のコンピュータを設置した演習室を備えている。これらコンピュータの全ては学内LANに接続されており,インターネットにもつながっている。高等教育機関と位置づけられていることもあって,ごく早い時期からインターネット接続が可能になっている。現在,金沢大学へ512Kbpsの専用回線で接続している。

  情報処理センターは教員数名と技官で管理・運営されており,授業時間外での学生の利用は自由にしてあるため,昼食時間帯や放課後もコンピュータを利用する学生でいっぱいである。

  ただし,このような環境がないとネットワークを利用した教育実践ができないということではない。筆者は,8年前からネットワークを利用した教育実践に取り組んできた。その頃はもちろんインターネットはない。電話回線を使った電子メール機能だけである。この電子メールの機能だけを使って,国際理解教育や情報教育の実践を進めてきた,と言った方がいい。
2.基本ツールは電子メール
 ここ数年で,ネットワーク環境は激変した。LANを構築したコンピュータ教室が作られ,インターネットが利用できる学校もかなりの数にのぼっているだろう。今はダイヤルアップで接続している学校でも,近い将来専用回線でインターネットに接続するところも急増してくるのではないだろうか。しかし,このように環境が変わっても,異文化理解教育を進める上での変化はそう大きく変わらない気がする。

  筆者がネットワークを利用した教育実践を開始した当時は,もちろんインターネットはなく,KDD(国際電信電話株式会社)のパケット交換網を利用した国際パソコン通信だけが,情報ツールを使った唯一の交流手段であった。前任校(富山県立福野高等学校)では,通信料を気にしながら,テキスト形式で作ったメールのやりとりをしていたのだ。それでも生徒たちは結構おもしろがってやっていたし,活発な活動を進めていたように記憶している。

  夏休みのある時に,オーストラリアの学校が主催した大会に電子メールで参加し,優良賞をもらったこともあった。これは,あらかじめ用意された数学の問題(1セッション10問)を時間を決めて一斉に解答し,正解率を電子メールで報告する,というものである。短い休憩を入れて,全部で5セッション行われた。オーストラリアでは体育館にいくつもの学校の生徒が集まり,盛り上がりを見せ,その様子を電子メールで報告を受けながら参加した私達も大変ハッスルをした。

  このように,ネットワークにつながっているパソコンが一台であっても,やり方次第では十分盛り上がりのある実践ができるのではないだろうか。

  今はホームページもあり,MPEG方式で作った映像のやりとりも簡単にできるようになってきている。しかし,その当時と比較して,今の交流方法は大きく変わっているかというと答えは否である。やはり,今も学生間交流で利用する基本のツールは電子メールである。

  ネットワークの環境がそれほど整っていない学校でも,工夫次第で,先生も学生と一緒になってわくわくするような取り組みができるはずである。
3.プロジェクトの概要
 ここで,筆者が携わっているプロジェクトについて説明しよう。このプログラムがスタートしたのは,1991年である。きっかけは,英国北アイルランド政府機関からの依頼によるものであった。この年に,英国全土でジャパン・フェスティバルが開催された。日本の文化を英国で紹介しよう,というもので,大相撲ロンドン場所の開催というビッグイベントから,英国在住の日本人による生け花教室の開催のようなイベントまで,300にもおよぶプログラムが企画・実施されたのである。

  そのプログラムの1つとして,北アイルランドの高校生と日本の高校生が電子メールを利用して交流する企画が北アイルランド側から提案され,協力依頼が舞い込んできたのである(ちなみに,昨年は日本で英国を紹介するUK'98が開催されている)。

  交流期限を決め,あらかじめ与えられたテーマで,主に電子メールを使って学生間交流を進めようというものである。

  テーマは,次の 3つである。

第1期(9月〜10月初旬)
:Self-Introduction
第2期(10月中旬〜11月初旬)
:My School
第3期(11月中旬〜12月)
:My Town

  もちろん,電子メールだけではなく,写真やテープ,音楽テープ等の交換も自主的に進められる。

  特に最近では,このほかに,ホームページを使ってアンケート結果をお互いに報告し,それについて意見交流をする,という企画も進めている。本校で一緒に活動しているN先生は,今年の1月,学生に「私の決意(My Resolution)」を書かせ,それをホームページで相手校に発信した。
4.効果的な交流をするために
 パートナー校と交流をする,ということは結構エネルギーが必要だ。まして,プロジェクトを組んで,複数の学校が共同で活動をするということはそうやさしいことではないと思う。それぞれの先生のプロジェクトに対する参加意識や目的意識が違うこと,外国と交流する時の文化や教育カリキュラムが違うことが大きな理由である。

  しかし,これらの課題を乗り越えた上で実践がうまくいくと,とても大きな収穫を得ることができることも大きな魅力である。そこで,これまでの実践経験を基にして,ポイントをいくつか紹介しよう。

(1)しっかりとしたプラン作成

  前述したように,ここで紹介しているプロジェクトは,交流期限と交流内容があらかじめ決められており,参加校はこれに基づいて交流をするのが前提となっている。

  ある程度の計画性を持って交流していかないと,続いていかない場合が多い。そのためにもしっかりとしたプランを立てていきたいものである。

(2)コーディネータの必要

  複数の学校が協力して活動する場合には,まとめ役(コーディネータ)が必要である。北アイルランド側のコーディネータは,バレークエア高校の教頭先生であるファレルさんである。 彼の行動力はものすごく,北アイルランド中を縦横無尽に駆け回り,このプロジェクトの参加校との打ち合わせを続けている。

  筆者は,その彼とほとんど毎日電子メールで打ち合わせを続けている。「今度,こんな企画をやってみたいのだけれど」, 「○月○日にテレビ会議をやりましょう」,「来週から試験だから,しばらく交流はストップしましょう」等々,企画の打ち合わせから行事の連絡まで,どんなに小さいことでも面倒がらず電子メールのやりとりをしている。

  最近は,回線の一部にインターネットを使うインターネット電話のサービスも出てきたため,非常に安価に電話ができるようになった。これを利用して直接話をすることもしばしばである。学生同士が質の高い交流をするためには,その環境を整えてあげることが大切である。そのために,このコーディネータの存在が必要となってくる。

コーディネータのファレルさん(中央)
▲コーディネータのファレルさん(中央)

(3)教師間のコミュニケーションをしっかりと

  教育プロジェクトに参加する教師の教科はさまざまで,各自がいろいろな目的を持って参加する。私達のプロジェクトにも,英語や数学,工業を専門とする教師が参加している。これはプロジェクトを活性化する上では,必要なことで,ユニークなアイデアが出てくる可能性が高い。

  その際,教師間のコミュニケーションをきちんと取っていく必要がある。特に,外国の学校との交流をする上で,相手国の教師とのコミュニケーションは必要である。私達は,そのためのメーリングリストを作っている。アイデア相談をするために,日本人教師だけの会話も必要であるため,日本人教師だけのメーリングリストとプロジェクト参加教師全体のメーリングリストの2つを作っている。前者には日本語で,後者には英語で書くのがきまりだ。

  学校生活について学生にアンケートを取ろうとしたときのことである。こちらが作ったアンケート項目をコーディネータであるファレルさんに提示した。

  その中に「高校を卒業するとどのような進路に進みたいですか。」という項目があった。私達の用意した答えは「就職する」「大学や専門学校へ進学する」の2つだけであったが,彼はもう一つ追加するように求めてきた。それは,「一年間旅行をして将来の進路について考える」であった。北アイルランドでは,高校卒業後,すぐに進路を決めず,一年間の猶予期間をおいて決定する学生が多い,という理由からである。

  お互いの文化や考え方の違いをできるだけ尊重しながら,共同学習を進めていく。これが異文化理解教育を進める上でのポイントである。

(4)パートナー交流と全体交流

  もともとこの交流プランは参加校すべてに共通していたものの,基本的には1対1の学校間交流である。そこで,それぞれの学校の活性度がお互いに見えるように,下のようなホームページを作った。このホームページでは,共通の話題についてアンケートをとったり,その結果についてディスカッションを行うような仕組みを作った。

  パートナー校との交流とアンケートを取り入れた交流。いろいろな組み合わせで,わいわい言いながらできると楽しい。

(5)いろいろなサポート体制

  せっかくネットワーク環境が整いつつあるので,授業やホームルームの時間を使って実践をしてみたい。でもネットワークやコンピュータ操作が難しく,ついつい尻込みをしてしまう。そういう先生が多いのではないだろうか。

  このプロジェクトで活躍しているN先生やK先生もそういう先生の一人である。英語教育の面では一目も二目も置かれている先生達であるが,いざコンピュータを使おうとしても,操作方法に自信がない,また,ネットワークを使おうにも何ができるのかよくわからない。

  このような先生をできるだけサポートして,いい環境を作りあげ,逆にこれらの先生からアイディアを出してもらい,有効性の高い交流をすることが,教育効果を上げる意味で大切なことである。

  プロジェクトのホームページもこのような体制で作られている。「このようなホームページができたらおもしろい」「学生が作ったクリスマスカードを見せてあげたい」という要望を出してもらい,それをサポートする大学院生(富山大学教育学部)がその要望に沿ったホームページを作ってくれている。
5.テレビ会議で学生へインパクト
 電子メールやホームページによる情報発信は相手の時間を気にせずに使うことができるというメリットがあるが,学生にとっては相手がどのような反応を示すかは,その場では確認できない場合が多い。 相手と時差を調整して,リアルタイムで会話を行うことができると,学生へのインパクトが強い。それが学習参加のモティベーションとなりうることが多い。

  リアルタイムのツールとしては,テレビ会議が有効である。筆者は,ISDN回線を利用したテレビ会議システム(PictureTel社 SwiftSite)を使って,定期的にバレークレア高校の学生と会話をさせている。電話料金の問題から,1回あたりの接続時間は短いが,これによって学生の学習意欲は確実に上がるようである。

北アイルランドとのテレビ会議の様子
▲北アイルランドとのテレビ会議の様子
6.最後に
 私達の目指している交流は,日常感覚で息の長い国際交流を続けていくことである。そのための基本的なツールは,やはり電子メールであり,それを補助するツールがホームページやテレビ会議であると考えている。

  2003年より,小・中・高等学校で新学習指導要領が実施される。中学校卒業生を受け入れる高等専門学校としても,情報活用能力や国際理解能力を持った学生をどのように育てなければならないのか,ということを真剣に考えなければならない時期に来ている。試行錯誤を通して,この問題に取り組んでいきたいと考えている。
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