ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.22 > p20〜p23

教科「情報」テキスト活用事例
進路情報を中心にした教科「情報」の実践
鹿児島県立垂水高等学校 吉田陽一
Tarumizu-sh111@edu.pref.kagoshima.jp
1.はじめに

 「情報A」の最初の1年が終わった。多くの学校がそうであったと思うが,本校も手探りの1年であった。私は,情報の免許を取得したのが情報教員養成の最初の年であったため,暇な折にぼんやりと構想を練る時間があったのだけは幸いだった。アイデアとしては面白いが,ハードウェア,ソフトウェアとの関係からアイデア倒れで終わりそうなものなど,浮かんでは消え,浮かんでは消えした。しかし,教科書の見本が届いたころから急速に方向性が明確になっていった。

2.テーマ設定
 「情報」において重要なことの1つに,コンピュータの技術習得ではなく,ものの考え方に重点を置くというのがある。

 私は,本校の生徒が,高校生活において一番分析せねばならない情報は,教科書の第1章第2節「身近な問題を解決しよう」で示されている「進路情報」であると考えている。

 本校では,LHR,総合的な学習の時間などで進学習の機会を増やしている。しかし,全体的におこなう指導も多く,積極性に欠ける生徒もいる。高校生の職業意識の低さが指摘されているが,該当する生徒ほど進路学習に積極的でなく,聞き流していることが多い。生徒が,自分にとって有意義と感じる題材を提示し,少しでも積極的に参加させる状況を作り出したいと考え,私は進路情報を実習の中心に据えることにした。

 また,本校では1年時に実施するので,これからの高校生活で自分が何をすればよいのか深く考察するきっかけになることや,今後ある進路学習に少しでも積極的な参加を促すことにつなげられるのではないかという願いも込めている。
3.教科書の利用方法について

 まず,生徒の基本的な能力がどの程度であるか,確認した。自宅にパソコンを持っている生徒も持たない生徒も,系統立てた理解という視点からはほとんど差がなく,ワープロソフト操作とWebを閲覧したことがあるくらいだった。Webについても,検索して閲覧するのではなく,Yahoo!などからリンクされているものをたどって閲覧するくらいであり,受身的なものでしかなかった。インターネットを利用して「進路情報」を収集するには難しいレベルであった。

 「情報」においては,極論ではあるがコンピュータを使わなくてもよいといわれるが,実際にそれでこの授業を受講した生徒が納得できるかというと,それは難しい。また,ある程度はコンピュータを操作できることが前提であり,それを系統立てて理解するように構成されている。

 実施した生徒たちは,コンピュータの操作が「情報」を実施するには不十分なレベルであり,実際問題としては技術修得をさせながら進めていく必要があった。そのため,教科書は,あちらこちらつまみ読みするように扱うことになってしまった。著作者に対しては,順を勝手に入れ替えて扱ってしまい申し訳ないことをしたと思っている。しかし,実施する実習のためには,教科書のどの部分が必要なのか,またそれに関わる考え方と技術の説明がどこにあるのか,私の能力の範囲では最大限の知恵を絞ったつもりである。概略は表1にまとめた。

  1学期 2学期 3学期


第1章 第1節,第3節
第5章 第1節
第2章 第1節,第3節ー1
第1章 第2節
第2章 第2節,第3節
第1章 第3節ー2(再度実施)
教科書P73コラム
第3章 第2節ー2
第2章 第3節(著作権を再度実施)
第1章 第3節ー2(再度実施)

進路に関する情報の収集・分析・まとめ。
①情報収集
インターネット・進路室・図書室・職員・知人など。
②職業に関するやりがいと苦労の両面を調べる。
③収集した情報の整理,分析,感想を,Wordを利用し書き言葉でまとめる。
④履歴書を書く。
プレゼンテーションによる進路情報の発信と共有。
①情報の抽出
②情報の表現
③PowerPointを利用する
Webページ制作を通じ,自身の言葉
で表現する。
①自分自身の言葉で表現する(話し言葉ではなく書き言葉で表現する)。
②制作するWebページには,図が含まれることとリンクを設定する。
③ホームページビルダーを利用してWebページを作成する。


情報機器やネットワークの概略
問題解決の手順。
収集した情報の保存(フォルダの作成など)。
収集した情報の分類。
圧縮・解凍(情報発信にあわせて説明。ZIPやLZHだけでなくJPEG,MPEGなども含む)。
タグを記述する方法と,タグの記述を省略したWebページ作成ソフトとの比較。
▲表1:初年度の指導の概略
4.進路指導のデータベース
 1学期の実習では,感想も書かせるようにした。自分が3年間で何をすればよいか考えることができたというものも多かったが,履歴書の書き方を見ると,職業意識が不十分であると言わざるを得ない。基本的には自分にとっての利点にすぎないものが多く,他者の役に立つために働くという意識が低い。代表例は,公務員希望の生徒である。希望理由が「安定している」というものに終始している場合がある。公務の意義ではなく,安定した収入源であるから希望している。他にも,職業のやりがいは見えているが,苦労する点に関する考察不足が目立つ。就職後の離職率が高いことが問題になっているが,対策として職業に対する考察をもっと重視すべきであるように感じる。「情報」の中で進路指導のすべてを網羅することは教科の意義としても時間的にも無理である。しかし,今後,担任や進路指導部がLHRや総合的な学習の時間で進路学習をあつかう際のデータベースが得られたことには大きな意義があったと分析している。

 また,今年度,本校の進路学習の中で,進学希望者には自分が進学したときにお金がいくら必要であるかを計算させる取り組みがあった。1年生においては進学後に必要なお金を調査させることよりも,高校生活の間に必要なお金を計算させることが適切ではないかと思っている。制服代,教科書代を始め,食費,私服代など,生徒によっては交通費と携帯電話代なども含め,どのようなものが自分が生活するうえで必要なのかを計算させると,保護者がどれぐらいの負担をしているか実感できるのではないかと思う。茶飲み話のレベルではあるが,2年生末に進路学習の一環として,就職後の収支を計算させることをLHRまたは総合的な学習の時間での題材とするようにしてもらうことも提案している。自分への投資に対し,将来どれだけの利益を生み出すか考えさせたいからである。これは「情報」を他の活動のための基礎として位置づけることになる。私は,「情報」は生徒の活動において,可能な限り多くの場面で役立つものとなって欲しいと考えている。そのためにはLHRや総合的な学習の時間との結びつきは欠くことのできないものと考えている。

 今年度は,表計算ソフトに取り組ませることは,ほとんどできなかった。表計算ソフトを利用するよい題材がないか検討していたが,来年度,取り組んでいこうと考えているテーマである。
5.来年度の計画
 基本的にはコンピュータの操作技術不足がもとで,教科の理解不足になっていることを強く感じる。また,検索エンジンの利用方法などでは,基礎学力不足も課題であると考えられる。

 基礎学力不足に関しては「情報」でどうにかなるものではないが,技術不足は,やり方によって何とかなるのではないかと考えている。当たり前のことだが,「情報」を進める上で不足している技術に関する指導を当初おこなうのである。私は専門の教科が化学である。化学ができない生徒は覚えておくべき用語,記号,法則などを把握しておらず,また,基本的な四則計算や分数,比例計算などが十分にできないというケースがほとんどである。問題を解く作業において掛け算や割り算に集中せざるを得なく,新たに学習した内容にまで集中する余裕がないようである。逆に言えば,基本的なことが徹底できていれば,応用に集中できるということである。情報の授業において,コンピュータを使わなくてもいいという,言い訳めいた理想論はともかく,現実的にはコンピュータを使う局面でいかに適切な利用方法ができるかということが授業の本質である。であるならば,操作ができることが前提であり,できないならば,まず前提条件を達成することが先決で,それにより後の内容を効果的に習得させることにつながると考えている。

 とはいえ,技術教育ばかりでは無意味であることもわかっている。私自身が授業を進める上で,いちいち指示されずに操作できるようになってほしいのは以下のものである。

①ウィンドウの調整:大きさ,移動,最小化と終了の区別
②フォルダ・ファイル操作:作成,移動,コピー,削除,名前の変更。
③エクスプローラーによるツリー構造の理解:ファイルのある場所を特定できる。
④IMEのON・OFF ⑤カットまたはコピー&ペースト
⑥編集機能を重視したワープロ操作:生徒のできる内容が,フォントの変更など体裁にかかわるものに偏りすぎている。
⑦CD-RW:マルティメディアデータの保存のため。またパケットライトではない書き込みができる(特殊な環境に依存しない操作)。
⑧一部のショートカットキー:削除(Delete),IMEのON・OFF(半角/全角)などマウス操作の方が面倒なもの。最初の時点ではこの2つで十分と思われる。
⑨検索エンジンの利用方法

 以上9つのことが「情報」を進める上で最低限必要な技術ではないかと考えているが,実施していく中で見直しが必要になるかもしれない。来年度については,生徒のコンピュータ技術が十分でない場合(おそらくそうであると思っているが),初めは,これらのことを習得させ,「情報」に臨もうと考えている。内容については,本校の生徒にとって,重要な情報が進路情報であることに変わりはない。概略は表2としてまとめた。

  1学期 2学期 3学期


8つの技術習得の後
第1章 第1節,第3節
第2章
第1章 第2節
進路情報のまとめの後
第3章
プレゼンテーション,Webページの実習後
第5章

8つの技術習得
Webや情報の整理などにおいては教科書を参照。
7月から夏季休業中にかけて自己分析および進路情報の収集。
ITーLiteracy進路学習編を宿題とし2学期に備える。
ワープロを利用して進路情報をまとめる。履歴書を書く。
表計算ソフトを利用した,高校生活に必要なお金の計算。
画像処理,音声処理の技術習得。
プレゼンテーションによる進路情報の発信。
Webページによる情報の発信(進路情報,または今年度と同様,何かを紹介する)。


授業の目的が技術習得ではないことを強調。 コンピュータで入力する前に,紙に下書きさせ事前に提出。 発信の形態によって,情報提示の方法が異なることを理解。
紙に下書きさせ事前に提出。
▲表2:2年目の指導計画の概略
6.今後「情報」に対応するための条件

 幾度も繰り返すが,コンピュータの技術を習得することが目的ではないとはいえ,習得していることが前提のものが多い。小学校からとはいわないが,せめて中学校では,名の通りの「技術」の分野で最低限のことを習得させて欲しい。不十分な場合には,来年度に計画しているような技術教育で対策せねばならないだろう。

 しかし,私自身はそれ以上に危惧しているのが,むしろ基礎学力の不足である。検索エンジンを利用するときに重要なのはキーワードの選別であるが,それができないのは一般常識の不足である。調査事項に関する直接的な言葉は入力できるが,周辺情報を選別することにより,絞り込みの精度を加減することができない。また,極端なものとしては,入力速度が遅いのは,漢字が読めないからというものまである。この点を徹底できない場合,情報教育とは絵に描いた餅でしかない。

 また,パソコン室に空き時間がほとんどないため,「情報」で習得したものを他教科での実践に生かせないことも書いておきたい。情報の現職教員等講習会でこの点に関して質問があったが,回答は「各学校で工夫してください」であった。今年の3月にも例年通り,コンピュータを授業で使っているかアンケートがあったが,本来あるべき情報教育の運用ができない現場の実態を行政側は理解しているのだろうか。教育目標を示しておきながら「財政が厳しいのでハードウェアやソフトウェアの整備は難しいが,各学校で工夫して実施してください」とは,「作戦内容を伝達する。物資等については本部にも余力がないので,現場で工夫せよ」と言われている気分である。行政は理想論を語るのではなく,現場の状況を目で見て,積極的な支援に乗り出してほしい。

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