ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.22 > p24〜p27

教科「情報」テキスト活用事例
自己評価を相互評価に役立てる
─生徒の書き込みを授業へ─
沖縄県立那覇高等学校 安次嶺百恵
ashimnem@open.ed.jp
1.はじめに

 新学習指導要領への移行に伴い,本校でも「情報C」を1年生に2単位で設置し,2時間連続の授業を行っている。より主体的な授業,総合学習やプロジェクト学習の充実を目標に「情報C」を選択した。生徒の入学時のスキル差は非常に開いているが,それらは,コンピュータの所有の有無というよりは,ひたすらタイピングの練習をしてきた生徒や,Power Pointやホームページビルダーを利用した生徒など,各出身中学校での取り組みの差に起因しているように思われる。本校では,このスキル差に対応するため,個人での作業やペアワーク,グループでの取り組みなど様々な形態で授業を行っている。

2.教科「情報」でのねらい
 情報の授業というと「コンピュータの使い方を勉強するもの,インターネットを使うもの」と考えている生徒が多い。生徒ばかりか教師もそう考えているだろう。もちろんそれは間違いではない。しかし,教科「情報」=パソコンスクールではない。ソフトを使いこなすスキルは(私自身がそうだったように)必要とされる状況に直面すれば必ず身に付く。だからこそ,教科「情報」で育むべきものは第一にスキルではなく,情報社会を生き抜くための情報選択能力や情報収集能力,発信能力にほかならないのだと考えている。そこで本校では,「○○するために,○○したいために〜〜のソフトの機能を使う」(例えば「Webページに載せるアンケート結果などを相手に伝えやすくするために表計算ソフトを使う」など)という状況をいかに作り出すのかという問題やその状況から課題を取り出すタイミングの検討,生徒が自然にもっと工夫したいという意欲が生まれる課題の設定などに力を入れていきたいと考えている。

 氾濫する情報の中から自分の知りたい情報を的確に選択できる力,誤った情報に惑わされない判断力,それを支える豊富な知識。このような能力や知識の獲得こそ,教科「情報」の,そして他教科を含めた高等教育での大きな目標であると考える。このような意図もあり,本校では,授業以外に多くの情報に触れるために新聞の切り抜きを実施している。
3.授業形態

 本校では,情報のすべての授業を情報教室で実施し,2時間連続の授業を行っている。このような時間設定で実習を行う中で,その内容に適した教科書の部分の座学授業を行うという形態が可能になった。また,実習と座学が切り離されることなく,実習内容を例にとりながら一連の作業の中で著作権や情報の光と影,ネットワークなどの学習ができるため,2時間連続の授業は非常に有効である。また,図書館を利用した調べ学習や調査なども容易になり,今後も継続して連続授業を設定していきたいと考えている。

 授業においては,生徒のスキル差も考慮してペアワークやグループ学習が主である。グループ学習とはいえ,作業は一人ひとり分担して行うことにしている。グループを組むことによって,コンピュータの操作が分からなくて先に進まない生徒や,調べた内容をうまくまとめられない生徒は,それを得意とするグループのメンバー同士で助け合う中で自らの弱点を克服し,また,他者に教えることによって得意分野をさらに伸ばしていく姿が見受けられた。できる生徒のみが作業を行い,逆にスキル差が開くのではないかという危惧があったが,そのような結果は見られなかった。

4.年間計画
 本校において教科「情報」元年にあたる昨年度は,主に情報発信の立場を意識させるため,以下のような年間計画を立てた。前述したように,教科書に沿った指導ではなく,実習の中で情報モラルや著作権,ネットワークの学習の必要性を生じさせ,座学を行うことに挑戦した。見直すべき点も多いが今年度もこのように計画している。

1学期

自己紹介(スクリーン利用のプレゼンテーション)
→PowerPoint,プレゼンテーションの基礎など
新聞比較学習→情報の信憑性など
総合実習Ⅰ(2〜3名グループでプロジェクト学習)
・レポート作成(図書館,インターネットの利用)
→インターネット検索,情報化の光と陰,情報のディジタル化など
・プロジェクトのテーマ決定
→テーマ報告会(他の生徒の意見を聞く)

2学期

総合実習Ⅱ(夏休みの宿題としてレポート作成をさせ,できたレポートをチェックする)
Webページの作成
→著作権,肖像権についてなど
大展覧会→ポスターセッション形式のプレゼンテーション

3学期

ネットワークの仕組み
表計算ソフト(Excel)の利用
1年間のまとめ


 年間計画を見れば分かると思うが,本校では年間で3回のプレゼンテーションの機会を設置し,プレゼンテーションの基礎や,発表の状況や内容によるプレゼンテーションの違いを意識させている。最初のプレゼンテーションは,前方スクリーンを利用したPower Pointでの自己紹介である。ここで,目線や話し方,時間配分や効果的なスライドについて学ぶ。2回目は,総合実習の最初に実習テーマを発表するものである。ここでは,伝えたいことをきちんと伝え,納得させる難しさなどを学ぶ。そして最後は,総合実習の成果を発表するプレゼンテーションである。このプレゼンテーションは,ポスターセッション形式をとったため,質疑などが活発に行われるなど,発表者と聴衆が身近なプレゼンテーションとなった。発表者が用意していなかった部分を質問されて困ったり,聴衆が感心したりするのを実感できたりと,過去2回のプレゼンテーションとは違ったプレゼンテーションの経験ができたと考えている。
5.実習ノートの利用〜自己評価を相互評価へ〜
 総合実習の集大成であるWebページの完成が近づくと,生徒から「先生,この作品はみんなに見せないの?」「他のグループの作品も見てみたい。」という声を聞くことが多くなった。もちろんプレゼンテーションを通して作品を見せ合う場を作るつもりでいた。そこで思いついたのが,ポスターセッション形式のプレゼンテーションである。ポスターセッション形式のプレゼンテーションとは,市場でいろんなお店が建ち並んでいるように,各グループはそれぞれのエリアを与えられ,そのエリアで自分たちのWebページをアピールする方法である。コンピュータ教室に同時に15グループほどのワークスペースができることになる。また,ワークスペースに残ってWebページの解説やアピールを行う人と,他のグループを回って評価する人に分かれた。同時に各ワークスペースに張り出すポスターも作成させた。どのグループも他人が興味を持つようなポスターになるよう工夫を凝らし盛り上がっていた。

(1)評価シートの作成

 ここで問題となったのが評価である。評価シートのスタイルは,情報C実習ノート(日本文教出版)のP.74にあるものを参考にした。しかし,評価項目には本校の実習に適さないものもあり,見直しが必要であった。それまでは評価項目は教師が用意したが,生徒が自分たちの作品に対してどう思っているのか,教師から見た観点以外に生徒が意識したこともあるのでは,という思いもあり悩んでいた。そこで目に止まったのが実習ノートに書き込まれた生徒の自己評価である。本校で利用している実習ノートは記述式の部分が多く,生徒の関心や考えが教師側に伝わりやすい。Webページ完成の自己評価も(P.37)自分の言葉で書くようになっており,Webページ作成に対する生徒の様々な視点を見ることができた。生徒の記述例をいくつか挙げてみる。

・目次など他のページにすぐにいけるように工夫した。
・わかりやすい文章になるように心がけた。
・コンビニまでいってアンケートをとった。
・図書館の本やインターネット,進路室の本などいろいろなものから調べて書いた。
・実際に祭りの現場までいって写真をとった。
・自作イラストが自慢。
・チームで背景を統一したのがよかったと思う。

 生徒の自己評価を踏まえて相互評価の項目を作成したことで,生徒からは「俺たちグループは2と3が有利だな」「よかった〜,がんばったポイントが評価されるよ」などという声があがった。項目だけ見ると当たり前のものばかりが並んでいるが,生徒の自己評価から相互評価表を作成したというプロセスを説明するだけで,生徒の相互評価表に対する感じ方が身近なものに変わり,積極的な態度で評価しているように感じた。教師が設定した評価項目で評価するよりも,たとえ同じ評価項目になったとしても生徒の自己評価から吸い上げた形の方が望ましいと痛感した。そこに気づかせてくれたのが実習ノートの書き込みである。記述式のまとめはとっつきにくいことも多いが,今回の場合は記述式であったことに意味があった。記述式のまとめは,生徒の実態や考えを把握するには必要不可欠なものであるといえる。

評価の論点

1

ポスターを見て,興味がわいた

2

ページ全体の統一感がある

3

写真やイラストなどでわかりやすくしている

4

ページのリンクなどが操作しやすい
(見たいページにすぐに行ける)

5

グループの人たちのオリジナリティがあった
(実際のアンケート結果や自分の考えがある)

6

読んでみてわかりやすい

7

背景と文字の色のバランスが考えられている

8

ロールオーバーや音など,工夫されている

9

説明の人の話に興味がもてた
(質問にきちんと答えてくれた)

10

Webページの内容に興味が持てた

11

Webページの内容に関するものを自分で調べてみようと思う

12

ページの内容が信用できる
(情報源がかたよっていない)

▲実際の評価シートの評価の観点

(2)展覧会の様子

 この大展覧会は予想以上に大好評だった。ポスターセッション形式を取り入れたことで聴衆(評価者)と解説者の距離が近くなり,多くの質問が飛び交ったり,解説者は自チームの作品の良さを身振り手振りで必死にアピールするなど積極的な評価の場となった。評価者が実際にコンピュータを操作できるのもよかった。また,評価活動も非常に活発に行われていた。

 大展覧会の後,グループごとに,他のグループがどのような評価をしたのか,評価できる点と改善してほしい点を確認した。再び自己評価が行われたわけである。この作業を経てWebページ作成総合実習は終了となった。

展覧会:評価者は実際に操作しながら質疑や評価を行う
▲▼展覧会:評価者は実際に操作しながら質疑や評価を行う
展覧会:評価者は実際に操作しながら質疑や評価を行う

展覧会:説明担当者は自チームの作品をアピール
▲▼展覧会:説明担当者は自チームの作品をアピール
展覧会:説明担当者は自チームの作品をアピール

6.おわりに

 教科「情報」は新しい教科であり,担当している教員も他教科が専門という方も多いだろう。実際に本校でも全員が数学の教師であり,手探りで情報を担当している現状である。プリントを作成するのも四苦八苦していたが,実習ノートに目を向けるようになり,大きく変わった。たくさんの授業のアイデアが含まれているのである。ほとんどのワークシートが記述式で生徒の考えをたっぷり書き込めるようにされている。今回は,Webページの自己評価と巻末にある評価シートを参考にしたが,実習ノートから生徒の考えや観点を垣間見ることができた点が今回の大きな収穫といえる。生徒も教師も満足する評価活動であった。

 実習ノートはアイデアの宝庫である。そこにあるワークシートを学校の実態に沿うように工夫し活用すれば,情報の授業の幅は格段に広がるに違いない。そして,情報の時間だからこそノートの記述のようなアナログ情報を大事にしなければならないし,情報の教師だからこそ,今回のように生徒の書き込みなどからも「情報」を収集し,授業に活用できるように日々努力したいと強く思う。

前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る