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ICT・EducationNo.24 > p8〜p11

教育実践例
総合実習の指導事例
−情報の収集・加工・発信を学ばせる論文指導−
筑波大学附属高等学校 川崎宣昭
1.研究のねらい
 本校では,情報の授業を高校1年生で2単位必修としており,1年間の授業の成果を各教科・総合的な学習の時間などに積極的に生かせるような指導法の工夫を試みた。その指導方法として,自分自身で疑問を持った事柄について論文を作成し,発表させることを1年間の目標とした。この指導によって自ら学ぶ力を育成することができると考えられる。論文を作成するためには,自分自身が疑問に思っている事柄について情報収集をしなければならない。以前に数学の学習内容について研究論文を課したことがあり,情報収集として参考文献を最低1冊は読むという指導を行った。しかし今回は,文献研究以外にインターネットの活用を情報検索の方法の1つとした。最近はレポート作成というと,参考文献がインターネットのURLだけというものが多くなってきている。したがって,情報を収集するにはインターネットに限らず,文献研究その他様々な方法があることも指導上の留意すべきこととなる。また,インターネットだけでは自分自身が必要とする情報が必ずしも入手できないこと,自分自身で計測してデータを作ったり,場合によってはデータを購入したりしなければならないことを指導するととともに,著作権への配慮を行わなければならないことも指導できる。また,得られたデータを相手にわかりやすく発信するために加工することも必要となる。
2.研究の経緯
 今までにも様々な教科で情報検索をさせ,論文を作成させるという指導が実施されていたと思う。

 そこで情報検索とは何か,そして効果的な情報検索を行うにはどのような技術や配慮が必要であるのかを指導することにした。

 情報検索の技術といっても,検索エンジンの使い方ではない。インターネットで検索をさせながらも文献研究が必要であること,インターネットからはなかなか自分の欲しい情報が得られない場合があること,情報が検索できても,それを使って発表する場合には著作権に配慮しなければならないことを指導することとした。

 今までにも外国の学校とWeb上で数学の問題の練りあい活動を行うという実践を行ってきた(筑波大学教育学系との共同研究)。その際に相手の立場に立って通信しなければならないことを研究してきた。今回は論文作成であるが,今までの研究の経緯から,発表を聞く人の立場を考えてわかりやすく発表しなければならないことを指導することにした。
3.情報の授業とは?
 「情報」の授業というと,生徒には何かしらイメージがある。その多くが,常にコンピュータを利用した授業を行ったり,コンピュータの使い方を学習したりする教科であると誤解しやすい。

 そこで4月は,情報の授業とは何かについて,論文指導を含めた年間指導計画を説明した。以下は,そのときに配布したプリントの概要である。

<プリントの概要>

情報の授業とはコンピュータのことを学習する授業だと考えていませんか?

 情報の授業というと,すぐにコンピュータを思い出す人が多いと思います。情報の授業はコンピュータのことを学習する授業であると考えている人も多いのではないかと思います。もちろん,コンピュータなどを用いた実習の時間が半分以上ありますが,コンピュータの学習が情報の授業ではありません。

情報の授業とは何を学習するのでしょうか?

 情報には「正しい情報を入手」し,「わかりやすい形に加工」し,「相手に正しい情報を発信する」という流れがあります。情報を入手する方法にはどのようなものがあるのでしょうか。わかりやすい形に加工するとはどういう操作が必要なのでしょうか。また,相手に正しい情報を発信するとはどういうことなのでしょうか。具体的に次の例で表してみました。

<正しい情報の入手>
○1996年の東京と新潟の気温及び降水量のデータを入手したい。
 ・CD-ROMを購入する。
  ←お金がかかる。そのままデータを文書に記載する場合は,著作権の問題が発生する。
 ・気象庁のお天気相談所に行く。
  ←コピー代がかかる程度である。出典を明らかにする。
 ・気象庁の統計室で資料をコピーする。
  ←コピー代がかかる程度である。出典を明らかにする。

<わかりやすい形への加工>
○東京と新潟の気温及び降水量のデータの違いをわかりやすく表現したい。
 ・表計算ソフトを用いて気温を赤の折れ線グラフに,降水量を青色の棒グラフに表す。
 ・気温や降水量の平均値を計算し,値を比較する。
 ・気温や降水量の時系列的な変化を調べる。

<相手への正しい情報の発信>
○東京と新潟の気温及び降水量の違いをわかりやすく説明したい。
 ・どのようなデータを用い,どのような手法で解析し,どのような結論が得られたのかを文章で簡潔にまとめる。
 ・図や表を利用し,PowerPointを用いてわかりやすい説明をする。
 ・Web形式のファイルにまとめて,ホームページ上に公開する。
 ・情報を発信する際のモラル(著作権・肖像権などを含む)を考える。

情報の授業の評価はどのように行われるのでしょうか?

 情報の授業の評価は,課題の提出と発表によって行います。7月まではモラルとコンピュータリテラシーの授業,9月〜12月は研究活動を行います。前期の終わりには中間発表を行います。1月からは発表を行います。
4.研究の進め方
 年間指導計画の概要は,以下のとおりである。

(1)4〜7月

 自分自身で疑問を持った事柄について論文を作成し,発表させることを1年間の目標としているため,論文としてまとめるためのワープロソフト,入手したデータの加工や分析をするための表計算ソフトの指導,画像を入れた効果的な発表ができるためのフォトレタッチソフトなどの利用について指導した。情報実習室における情報検索(インターネットを利用)の方法について指導し,様々な検索エンジンを紹介するとともに,検索エンジン自体の検索も指導した。リテラシーの指導としてはExcel,Word,PowerPoint,Photoshopのアプリケーションソフトの基本的な操作を指導した。Wordではテキストボックスの作成,画像の埋め込みやレイアウトの方法など,論文としてのスタイルができ上がるような技術を指導した。また,PhotoshopやExcelでは,以下の図程度の画像処理やグラフの作成が可能となるような指導を行った。

奥多摩湖
▲奥多摩湖:
撮影時の天気は曇りであったが,やや青みを濃くして空と湖の美しさを際立たせる画像に加工させた。

柳沢峠の富士山
▲柳沢峠の富士山:
実際にこの場所で見たときの富士山はきれいに見えたが,川�が撮影したデジタルカメラの写真では富士山があまり鮮明ではなかった。そこで,富士山がある程度はっきりする画像となるように加工させた。また,楕円形に画像を切り取るトリミングについても指導した。

東京のハイサーグラフ
▲東京のハイサーグラフ:
散布図を利用したグラフである。横軸が月平均降水量,縦軸が月平均気温である。気候区分の違いを表現するひとつの方法である。

東京の気温と降水量のグラフ
▲東京の気温と降水量のグラフ:
地理の統計資料で必ず出てくるグラフである。Excelのグラフ機能としては複合グラフであり,少々難しいが,ゆっくりと時間をかけて指導すれば,生徒は30分程度で完成できる。


 少々レベルは高いと思われるが,実質3〜4時間程度でほとんど全員の生徒が完成できた。

(2)夏季休業中

 研究テーマを決定させる。ただし,情報の授業の中で実施する研究なので,論文はWordまたは一太郎を利用し,画像の利用,数値データなどを用いたグラフの利用を義務づけた。

(3)9〜11月

 論文の執筆,情報検索,執筆方法の留意点については,研究の経緯(前述)や評価の内容(後述)を指導し,論文執筆にあたらせた。

(4)12月

 発表用の資料(PowerPointによるスライドショーなど)を作成させた。作成時間は2〜3時間程度であった。

(5)1月〜3月

 各自執筆した論文の発表を1人5分で発表させ,聞いている生徒自身にもその都度評価させる。
5.研究の進め方
 12月までに1人あたり4ページ程度(超えてもよい)の論文を作成し,1月〜3月までに発表させて評価するが,その評価のポイントは以下のとおりである。

(1)論文の評価

 研究の動機・方法・結論がはっきりしているかどうかを評価する。特に論文の「はじめに」の部分で以下の内容がはっきりと記述されているかどうかを評価する。

 ・研究のきっかけとは何か。
 ・問題点と明らかにしたい事柄がはっきりしているか。
 ・問題点が明らかになるとどのような利点があるか。
 ・研究の方法がしっかりとまとめられているか。第一に…,第二に…,そして最後に…という記述方法を指導しておく。
 ・情報検索の手段(インターネット,文献の名称など)が記載されているか。
 ・分析の方法を記載しているか。
 ・利用したデータをどのような方法で加工したのか,あるいはどのようなデータをいかなる観点から表に分類したのかなど,分析方法が他者にわかりやすく説明できているか。
 ・得られた結論(自分自身として新しく発見した事柄)が明確に表現されているか。
 ・著作権に配慮し,参考としたホームページのアドレスや文献のタイトル・出版社・著者名を明らかにしているか。

(2)発表用資料の評価

 以下の観点から評価する。

 ・発表時間は5分である。発表の内容が自由テーマであるため,伝えたい情報を短時間でわかりやすく伝えるということが最大の評価項目である。
 ・原則として,PowerPointを利用した発表である。PowerPoint以外のプレゼンテーション(例えば模造紙や身振り手振りなどの演技・板書・OHPなど)の方が効果的な発表と思われる場合は,PowerPoint以外でもかまわない。PowerPointの資料は,タイトルまで含めて全部で6枚とする。

PowerPointの場合

<1枚目>
 ・タイトル・自分の名前などに適切なフォントが使われているか。
 ・わかりやすい発表テーマであるか。

<2〜6枚目>
 発表に必要な資料をまとめる部分である。
 ・適切な文字の量となっているか。
 ・言いたいことがすぐにわかるような表やグラフ・キーワード・画像などが効果的に利用されているか。
 ・教科書の記載のように,5W1Hがはっきりわかる発表(記述)であったか。特にHの部分は大切であり,情報の収集や加工の方法がわかりやすく発表されているかどうかを評価する。
 ・何が新しい発見であったのかについてわかりやすい発表(記述)となっているか。

(3)発表(プレゼンテーション)の評価

 わかりやすい発表であることが一番大切である。テーマが自由であるため,人によってもともと興味があるテーマであったり,そうでない場合がある。「興味・関心のある発表であったかどうか?」ということではなく,わかりやすい発表であったかどうかが一番大切な評価項目である。

 担当教師による評価と同時に,発表を聞いた同じクラスの生徒の評価も参考にする。評価項目は以下のとおりであり,4.3.2.1の数値で評価させる。

 ・適度な声の大きさだったか?
 ・声に抑揚がつけられていたか?
 ・原稿の棒読みではなかったか?
 ・聞き手の気持ちになり,相手の方を見て発表できたか?
 ・情報過多ではなかったか?
 ・焦点が絞りきれていない発表になっていなかったか?
 ・著作権に配慮していたか?
 ・わかりやすい表・グラフ・画像を利用できたか?

 なお,発表の参考となる事項として,教科書(日本文教出版)の「第1章−情報を理解しよう(第3節−情報伝達の工夫)第4章−総合実習に取り組もう(全節)」の部分を学習させた。
6.研究成果物の内容と普及方法
 生徒1人1人に研究成果を論文という形で提出させた(A4の用紙に印刷)。論文は,1人あたり約4ページとなるようにした。4ページを超える量については特に制限を設けなかった。また,自分の研究成果をまとめた論文を1人5分で要点をまとめて発表させた。そのための発表資料としてPowerPointのスライドを6ページ作らせ,クラスごとにメモリースティックに保存した。

 情報教育は,情報科学としての独自の分野を開発することも大切ではあるが,高等学校の場合には,総合的な学習の時間や各教科の学習活動にその成果を生かすということが一番効果的であると考える。したがって,情報科と各教科との連携をはかり,今回の論文指導の成果を各教科の先生方が積極的に活用していけるように,校内研究会などで研修会を開きたい。
7.まとめ
 本校では,第一学年で情報の授業を実施している。第二・三学年における総合的な学習の時間や,各教科の学習で情報の授業の成果を活用できるように指導している。したがって,今回の研究成果を総合的な学習の時間や,各教科の主体的な学習活動に積極的に生かしていけるようにしたい。特に,第三学年の総合的な学習の時間では,今回の論文で研究した内容の継続研究も可能であり,さらに情報検索の技法を新たに習得させることも可能である。
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