3.ICHIROサイコロをつくる |
(1)相対度数の算出
次に,このデータをもとにイチローが1試合で打つ安打数の相対度数(確率)を計算する。8月以降の成績を予測するには,この相対度数に従って安打の出るICHIROサイコロをパソコンの中につくる必要がある。このICHIROサイコロを未来の1試合ごとに振って,何安打打ったかをシミュレーションするのである。仮想イチローのバッターボックスでの戦いは,気が抜けるほど汗をかかないあっさりしたものになる。
相対度数の計算は簡単だ。7月31日まででイチローの出場した試合数は101試合。例えば安打3を打った試合は14試合あるから,14÷101で相対度数(確率)は0.139となる。こうやって計算してみると,7月末の段階で,その試合がノーヒットに終る相対度数は0.178,安打1本の相対度数は0.337,打2本の相対度数は0.307といった具合になる。安打4本の試合となると0.030。そして安打が5本出る相対度数は0.010。確率は1%しかない。実はイチローが1試合5本の安打を打ったのは7月29日のエンジェルス戦が最初である。7月31日の時点では,1試合5本のヒットというのは1回しか実現していなかったのである。
(2)累積相対度数のアイデア
この相対度数を使ってICHIROサイコロをつくるには,累積相対度数というアイデアを使う。
試合ごとに0〜1までの一様乱数を発生させ,その値が0.178以下だったらその試合はノーヒットということにする。発生した乱数が0.178より大きくて0.178に0.337を加えた0.515以下だったらヒットが1本出たとする。2本目から5本目まで同様に各相対度数を加えた(累積した)値を境界とし安打数を出していく。つまり,0〜1までの一様な乱数の分布の中に安打数の境界線を引くことになる。
図Ⅱは,イチローの安打数の累積相対度数グラフである。0〜1までの乱数をパソコンに1個発生させ,その値が0.75だったとすると,グラフからその試合の安打数は2本だったことになる。

▲図Ⅱ イチローの安打累積相対度数
(3)累積相対度数の理解
累積相対度数の考え方がこの授業の最も大事なところだが,生徒たちにいきなりこの累積相対度数の考えを示すのは難しい。したがって,前もってランダムウォークモデルといわれる簡単なシミュレーションとその応用を学習させている。
ランダムウォークモデルのつり銭問題はよく知られている。
例えば,文化祭でバザーを行なうことにしたクラスがあるとする。中古のCDや漫画の単行本を持ち寄り,すべて150円で販売することにした。商品は100点集まった。さて,つり銭の50円玉を何枚準備しておけば大丈夫かという問題である。50円のおつりが必要な客とそうでない客はちょうど半々になると仮定しておく。つまり相対度数はおのおの0.5ということになる。また,客1人につき1品しか買わないとする。
このとき,客ごとに0〜1までの一様乱数を発生させる。乱数が0.5以下だったらその客は150円出した客でつり銭は必要ない。0.5より大きかったら200円出した客で,50円のつり銭が必要だとする。この50円玉の収支を100回(客100人分)行なって50円玉の不足分を割り出す。これを文化祭50年分ほどやれば,50円玉の不足分合計が変動するグラフをつくることができる。ここから生徒たちは,50円玉を何枚程度用意しておけば80〜90%程度の信頼度でつり銭の準備は大丈夫かを見つけ出すことができる。
さて,このシミュレーションのあとにこんな課題を与える。
「それでは10人に1人の確率で,500円玉を出すような客がくると想定した場合,つり銭の50円玉と100円玉は何枚準備しておけばよいでしょう。
このとき,今度は0〜1までの一様乱数分布の真中の0.5で線引きするのではなく,0.45と0.90で線引きすることを学習させるのである。例えばエクセルのセルに入れる計算式は次のようになる。
=IF(RAND()<0.45,200,IF(RAND()<0.90,150,500))・・・① |
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