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ICT・EducationNo.24 > p18〜p21

教科「情報」テキスト活用事例
総合学科における教科「情報」の展開
−普通教科「情報」と専門教科「情報」−
埼玉県立小鹿野高等学校 川窪慶彦
k.yoshi@ogano-h.spec.ed.jp
1.はじめに
 「情報」の授業が本校に導入されてから,2年目に入りました。

 初年度は教科書に頼りつつ,授業の方向性を模索する1年間でした。正直なところ授業内容は,私的にはとても満足できるものではありませんでした。

 今年度に入り,教科「情報」に関する研修会や,各校の先生方のお話を伺う機会も増え,また本誌のような授業展開の例などの情報が入手できるようになり,多くの先生方のさまざまな工夫や努力,またつらく厳しい現実などを参考にすることができるようになり,教科「情報」もようやくエンジンがかかり,これからスタートだという印象を持っている今日この頃です。
2.総合学科の教育課程
 本校は埼玉県の観光名所である秩父の山間にある小規模な学校です。

 平成15年度より総合学科制となり,現在は次のような学年構成となっています。

 1・2年次生・・・総合学科
 3年生・・・・・・普通科

 総合学科は4つの系列に大別されており,そのうちの1つに「情報・ビジネス系列」があります。この系列では「情報」と「商業」に関連する科目を選択履修することが可能となっています。

 幸い本校では,1年次に「情報A」(2単位)を履修できるようになっており,2年次以降の選択科目に繋げられる教育課程を編成することができました。

年次 科目 単位
1 情報A 2
2 アルゴリズム 2
コンピュータデザイン 2
3 情報システムの開発 2
マルチメディア表現 2
3.普通教科「情報」
 本校のカリキュラムでは2年次以降の科目が実習中心となる予定であることから,「情報B」や「情報C」と比較して多くの時間を実習で展開し,「情報活用の実践力」を育成することを主目的としている「情報A」を選定しました。

 「情報A」の授業の年間指導計画は,概ね次のようになっています。

1学期 ・授業心得(徹底的)
・情報処理室利用法
・パソコン操作基礎
・インターネット基礎(エチケットなど)
・日本語入力練習
2学期 ・各種ディジタルデータの取り扱い
・情報表現と発信
・情報セキュリティ
3学期 ・作品製作実習など


 年度当初は,どうしても日本語入力に関するスキルを身に付けさせるための指導に時間を費やす必要があり,そのための教材として,インターネット上でサービスを展開している「e-typing インターネットでタイピング練習」(http://www.e-typing.ne.jp/)というサイトのタイピング練習機能を利用させていただいています。

 無料のサービスですが,充実した機能構成となっており,予算の厳しい現場ではとても重宝します。レベル表示やランキング登録機能などゲームライクな部分もあり,生徒も楽しく練習に取り組めていました。

e-typing{インターネットでタイピング練習}
▲e-typing{インターネットでタイピング練習}

 ただし,ローマ字タイピングにしか対応していないため,ひらがな入力で練習をしたい生徒がいる場合は利用することができないという問題点もあります。

 その他,ネット上のマナーやエチケット,危険や危機意識に関する指導についても,できるだけインターネット上のサービスを利用するようにしています。(ネチケットを学ぼう! http://www.disney.co.jp/netiquette/


▲特許庁 模倣品流通防止のためのサイト[FAKE TOWN]
 (http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/kanren/fake_town/

 ある意味安易ではありますが,コストが低いという点と,準備にかかる時間を少なく抑えることができる点ではとても魅力的であるといえます。
4.「情報A」の評価方法
 昨年度の授業では,パソコン操作に熟達した生徒の評価が高くなる傾向が強くなってしまいました。

 「情報=パソコン」ではないということを承知していながら,そのような傾向が強い結果となったことは,反省すべきであると,自分としては感じていました。

 2年目に入り,多くの先生方の実践報告を参考にしながら,評価についても工夫をするよう努めています。

 定期考査は実施しない予定で展開しているため,基本的に授業中の態度や課題などの成果物が評価の材料となります。特に課題成果物については計画段階から自己評価までの一連の流れをワークシートとして用意し,これに沿って授業を進めることで,生徒自身にも評価の内容が見える状態を維持しています。

 「情報」の評価は何を基準としておこなうのが最も適切であるか模索中の段階でもあり,指導する教員はもちろん,生徒にも保護者にも納得のいく内容と基準を提示できればと思っています。

 例えばルーブリック評価法などは,導入実績のある複数の先生方から薦められましたので,本校現場でもぜひ利用してみたいと考えています。
5.専門教科「情報」
 本校では2年次より専門教科「情報」の科目を選択履修することが可能となっています。

 2年次で選択できる科目は「アルゴリズム」と「コンピュータデザイン」です。

 これらの科目は3年次に設定されている「情報システムの開発」および「マルチメディア表現」と連携する前段階の科目という位置付けで設定されています。

 専門教科「情報」の授業実践例は,県内の高等学校でもあまり情報が多くなく,本校でも今年度初めてスタートした科目でもあり,まさに暗中模索,手探り状態で毎時間の授業内容を検討しています。

 3年間を通しての情報に関する教育のイメージはあるものの,実際に授業を通してそれを実現することは,思ったより困難であると感じています。

(1)専門科目「アルゴリズム」

 「アルゴリズム」の年間指導計画は概ね次のようになっています。

1学期 ・アルゴリズム概念
・フローチャート
・Visual Basicによる基本制御
2学期 ・Squeakの基本
・Squeakによる基本制御
3学期 ・JavaScriptの基本
・ウェブページ制御

 「アルゴリズム」では,プログラミングの指導に偏ってしまうことは避けなければならないと思いましたが,計画にあるように1学期は「Visual Basic」によるプログラミングでのアルゴリズム理解を進める内容となりました。

 アルゴリズムの概念を理解させるためにプログラミングを用いることは悪くない方法だと思いますが,実際に私が授業で実践したケースでは,「Visual Basic」の操作体系や概要,コマンドの意味や使い方といったことを理解させるために,予想以上に時間を費やさねばならなかったという結果となりました。用いたプログラムの種類が適切ではなかったのかもしれないと反省しています。

 そこで,2学期からは小さな子どもでも楽しみながら学習できる,「Squeak」というソフトウェアを用いた指導に切り替えました。

 このソフトウェアも無料で提供されており,コストがかからない点が非常にありがたい教材です。

 またプログラミングの要素に関してはオブジェクト指向に対応しており,3年次の「情報システムの開発」に関連付けることが可能である点でも導入する価値がありました。

 テキストとして用意したのは『スクイークであそぼう』(翔泳社,Thoru Yamamoto 著,阿部和広監修)です。

▲『スクイークであそぼう』
▲『スクイークであそぼう』

 テキストの内容はそのままでも大変わかりやすいものですが,本校の生徒向けに多少アレンジした課題を用意し,アルゴリズムにつて自然と理解が進むように工夫をするように心掛けました。

 生徒自身が考えたアルゴリズム通りに,生徒自身が作成したオブェクト(自動車や生物などの絵)がインタラクティブに反応するため,「Visual Basic」に比較して楽しく学習できる点は高く評価できると感じています。

 評価については,あらかじめ用意した作品を見させて,生徒自身が考えたアルゴリズムを組み立て,見本を再現させるという課題を用意し,特定のポイント(知識・理解)を押さえた上で,見本により近いものを作成できた生徒に高い評価を与えるようにしました。

「Squeak」を使った実習の様子
▲「Squeak」を使った実習の様子

「Squeak」の開発画面
▲「Squeak」の開発画面

(2)専門科目「コンピュータデザイン」

 コンピュータによるデザインに関する技術を習得させるとともに創造し応用する能力と態度を育てることがねらいとなっているこの科目について,本校では実習中心の学習を進めています。

 「コンピュータデザイン」の年間指導計画は概ね次のようになっています。

1学期 ・デザイン概要
・デザインと表現
・Photoshopによる作品製作
2学期 ・造形(形態・色・質感など)
・Shadeによる作品製作
3学期 ・ウェブデザイン
・Flashによる作品製作

 この授業は実習中心ということで,総合学科への転換時に確保した予算で,数種類のソフトウェアを購入しました。

 本来は造形表現や,表現と心理など,美術に関する知識を育成する必要もあることから,美術の先生との連携が取れることが望ましいと思われますが,現在はソフトウェア操作の指導にかかる時間が短縮できず,本来指導すべきデザインに関する内容については予定していたより時間を割けない状態となっています。

 使用しているソフトウェアは「Photoshop Elements(Adobe)」および「Shade7(e frontier)」,「Flash MX(Macromedia)」,「ホームページビルダー(日本IBM)」などがメインです。

 それぞれのソフトウェアは完成度が高く,高度な機能を備えており,基本的な使用方法について学習するだけでも,相当な時間を必要とします。これは「アルゴリズム」で「Visual Basic」を使用したときと同様で,本来指導すべき内容よりも,準備段階とも呼べる技術的指導に授業のウェイトがかかりがちになってしまう点が,改善しなければならないポイントと考えられます。

デザイン実習の様子
▲デザイン実習の様子
6.来年度へ向けて
 先に述べたように,本校では2年次に指導している「アルゴリズム」と「コンピュータデザイン」から3年次への「情報システムの開発」と「マルチメディア表現」へと繋がるカリキュラムを用意しています。

 科目設定は安易なようにも感じられますが,歴史の浅い教科「情報」の各科目の内容は,毎年の積み重ねで少しずつ具体化し,より良いものへと育っていくものと思います。

 3年次の専門科目についても,今年度と同様に手探りでの授業展開が待ち受けていることは間違いい状況ですが,生徒へ興味を持たせ,可能な限り充実した指導をしていきたいと思います。
7.おわりに
 まだ始まったばかりの「情報」の授業は,全国の先生方が学習指導要領や教科書,各種参考資料を手に取り,工夫・研究を重ねている最中でしょう。来年度より初めて「情報」の授業が展開される予定の高等学校もあることから,これからが「情報」の本格始動だといえます。また,中学校で展開されている「情報とコンピュータ」の授業実績は,ぜひ参考にしなければならないと思います。

 今後もさまざまな教科「情報」に関する情報を得て,自分自身,日々研究に努めなければなりません。情報の1つとして,本誌などもとても参考になり,頼りになる存在の1つであり,感謝しております。

 科目の特性上,少なからずパソコンに触れる機会の多い授業になりますが,「情報=パソコン」という解釈を生徒はもちろん,他教科の先生方にも思われないような指導をしていきたいと思います。

 生徒達には「パソコンの先生」ではなく,ぜひ「情報の先生」と呼んで欲しいものです。
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