ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.26 > p10〜p15

教育実践例
いたみ商店街活性化プロジェクト
−伊丹がすきやねん!という市民意識を持った生徒の育成−
伊丹市立伊丹高等学校 畑井克彦
katu@po.iijnet.or.jp
https://itamachi.jp/
1.はじめに
 阪急伊丹駅とJR伊丹駅の間に商店街があり,JR伊丹駅東に出来たダイヤモンドシティの影響を受け大変な状況にあると,伊丹のまちづくりのメンバーから聞いていた。伊丹市立伊丹高等学校は,阪急伊丹駅から徒歩7〜8分の位置にあり,商店街との関わりも深い。と言うことは商店街も何とかしたいという思いがあり,高校側としては生きた教材がすぐそばにあるということだ。

 まちづくりの団体の会合に出席したときに,イタリアレストラン店主のアントンさんから,「テレビで商店街活性化についてやってたよ。天神橋筋商店街と大阪市立扇町総合高等学校が連携して取り組んでいるよ。」と声をかけられた。実は同じことを考えていたので,これは時代のニーズでもあると思った。

 情報は,人と人との信頼の上にやりとりされることを学ぶのに,こんな面白いことはない。商店街を活性化することを場として,情報について学んで欲しいと考えた。名付けて「いたみ商店街活性化プロジェクト」。このプロジェクトを動かしていくためには,人的なネットワークのパワーが成功の鍵となる。商工振興課,教育委員会,それから商工会議所,まちづくりメンバー,他地域のまちづくりコアメンバー等に声をかけ,思いを伝えて協力をお願いし,このプロジェクトをスタートさせた。

 もう一つこのプロジェクトをスタートさせるに当たってベースになっていることがある。それは阪神大震災以後取り組んできたボランティアで得られた,地域に対しての信頼感だ。
私はネットデイ(http://www.netday.gr.jp/)というボランティア活動を97年から続けている。この活動は各教室に情報コンセントを付ける工事を行うボランティア活動であるが,それ以上に,しっかりつながっていくのは地域の人と人の『絆』である。地域に潜在化している学校への強い思いが,つながることによって本当の意味で開かれた学校となり得ているのを,目の当たりにしている。

 この活動を通じて得られたノウハウを生かして教育を生き生きとしたものに変えてみたいという願いがあった。
2.ねらい(目的)
 このプロジェクトの企画書(資料1)を参考にしていただきたい。以下3つのねらいを持っている。

(1)伊丹が好きやねん!という人材育成
 伊丹の地で暮らしている人が,「伊丹が好きやねん!」という実感を持つことが,地域活性化の大きなポイントだと考えている。生徒は実社会にもまれたことがあまり無いので,人との関係の中で苦労し,何かをつかんで欲しいと願った。

(2)社会体験を通して生徒の自己実現を支援
 商店の持っている強みや,問題点を洗い出し,課題を解決するために立案し,実行していくことが,生徒の達成感を引き出す。このプロジェクトは単に生徒の思いつきだけで出来ることではなく,商店主と相談したり,交渉する必要がある。生徒が自分の考えを正確に商店主に伝えない限り,次の段階には進めない。生徒の社会性の欠如を指摘されることがあるが,このような社会体験をして,実際に生きて役立つ成果を出して,社会から評価されることが,社会性を育成する上で大切であると考えている。その中で日々社会で何が起こっているのかを体感できると思われる。

(3)小中の総合的な学習を継続
 小・中学校では,総合的な学習で地域連携を図った取り組みを行っている場合が多い。平成16年度入学生は平成10年度に学習指導要領の告示があり,多くの小学校で総合的な学習に取り組んでおり,中学校では平成14年度完全実施している学年である。また,小学校3年生では,自校の学区の産業を調べており,中学校2年生ではトライヤルウイーク事業として1週間の勤労体験を行っている。これらの活動で得られた,調べる力やプレゼンテーション力を使う場を設ける必要があると考えた。

 また,コンピュータの操作についても学校による差はあるものの,例えば,マウスの使い方から教える必要はないと言うように,基本的は技術はマスターしている。これらの学習成果を継続することが大切であると考えた。

 また,高校での総合的な学習が昨年度(平成15年度)から開始されたが,生徒の自主的な学びを引き出すところまでは来ていない。その中で,プロジェクト学習にチャレンジする意味は大きいと思われる。
3.取り組み(プロジェクトの経緯)
 大きく以下の3段階を経て進めていった。

(1)第1期(プロジェクト始動への準備)
1) コンピュータとその周辺機器の使い方の学習(4月)
2) 商店街活性化プロジェクトについて概要説明(5月)
3) 商店主来校,商店の抱える課題についての話(5月)
4) お店調査,実際に商店街に行って問題点を探る(6月)
5) HPの作成について(6月)


(2)第2期(問題点の整理,改善策の実行)
1) 協力店の決定(7月)
2) お店のHP作成(7月)
3) お店探しとHP作成をメイキングにまとめる(8月)夏休みの課題
4) HPを改善(9月)
5) 改善策を企画(10月)
6) ビデオ編集講習(11月)
7) 改善策実施(12月)
8) HPにまとめる(1月)
※5)まではすべて個人として作成。 それ以降は班として分担して作成(1人1店舗の場合もあった)。


(3)第3期(成果のまとめ)
1) 改善策の効果測定(1月)
2) 個人提言書の作成(1月)
3) グループ提言作成(2月)
4) 校内プロジェクト成果発表会 (2月25日)
5) 校外プロジェクト成果発表会 (3月12日)
4.提言書について
 伊丹市商工振興課に提出した提言書の中から1例を紹介する。

 阪急伊丹駅ビルに入っているテナントの組合であるリータからお茶の「みどり園」に取り組んだグループを取り上げたい。

 提言内容は『若い人を呼び込むために,みどり園らしいキャラクターをつくる』である。

  このグループは3クラスから9名の構成となった。老舗のお店との交渉もさることながら,グループワークにかなり苦労したが,うまく役割分担を行い,ICTを活用して成果をあげた。

 1月にはいり,ほぼ毎日誰かがお店との連携して動いている状態で,しっかりと信頼関係を築くことが出来た。その成果として,お店のワゴンセールに合わせて,チラシを配り(このみどり園には喫茶部がある)喫茶の無料券を付けて効果測定が出来るように交渉していた。

 お店のイメージづくりに,コンサルが入っており,生徒が連携を取ることが難しい面があったのだが,こまめなコミュニケーションによって,かなり質の高い改善策(ちらしなど)が取れたと言える。
5.コミュニティウエアについて
 グループウエアの地域版としてのコミュニティウエアを活用した。(https://itamachi.jp/

  このサイトに「いたまち.jp」という名前を付けている。この「いたまち.jp」は会員制でSSLで暗号化しているサイトである。

 生徒は申請すると,グループが作成でき,HP,BBS,カレンダー,MLが得られる。これらの管理は生徒が行っている。

  今年度,約60店舗に分かれて活動したわけだが,これを自主運営することによって責任が生まれたようだ。

 このサイトは,ミームネット(株)に構築を依頼した。The XOOPSProjectのソースを使っている。
6.自発的な学びについて
 今回特筆すべきことは,生徒たちが自発的に取り組めたということだ。ある生徒は,「最初は授業ということで取り組んだが,それはきっかけであって,ふと気がつくと知らず知らずのうちに,商店街が,自分たちの住むまちの人々が,明るく楽しくなればいいなという希望のもと,精一杯に活動していました。」と語った。このように,多くの生徒が自主的に動いていた。その要因を探ってみる。


(1) 学び方を知っていた
 2の(3)で述べたが,小学校から教科の壁を越えた学習に対しての経験をかなり積んでいる。例えば小学校では,生活科や総合的な学習で,「学び方を学ぶ」ということを主眼においてとりくんでおり,発表会にしてもかなりの場面で経験している。そのノウハウの蓄積が自信となっているように思われる。


(2)人との関係性にはまる(自己効力感)
 商店を活性化するという共通の目的を持って動く中で,店の人との関係性,つまり絆が感じられたのではないか。改善策は,広告を作るというものが多く,広告代理店の質にはとても及んでいない。

 しかし,高校生として感じたことを大切にしてもらえたことで,「自分たちだからこそ,わかること,見えること,気づくことがある」という自信が得られた。商店の方の信頼の上に,自己有用感を持った生徒たちが活動を始め,うまく歯車がかみ合ったように思える。商店の懐の深さを感じている。


(3)自己決定の場
 大まかなプロジェクトの流れは13ページにある企画書で伝えているが,店を決定して,課題を探り出すことや,解決方法を考えて商店主と交渉するのは,すべて生徒である。自分で考えたことがうまくいっても,失敗してもそこから学ぶことが出来る仕組みである。

 解決策については,2回実行し効果測定して評価するように指導した。これは1回実施して始めてものごとが見えてくるからである。2回目については,要領よく店と連携し効果をあげていた。それによって店の信頼も得られたようだ。

 校内と校外の2回の発表会は,実行委員会のメンバーと発表者で役割を担った。プロジェクターにパワーポイントとビデオカメラの映像を組み合わせ効果的にプレゼンテーションすることとはもちろん,イベント企画全体を学ぶ場と捉えた。
7.課題について
 商店を決めるときに祖母の行きつけの店に決めていたり,成果報告会に家族を巻き込んだ事柄は少数であった。家族だけでなく,消費者という括りで企画当初に,まちづくりのメンバーからこのようなコメントをもらっていた。「このプロジェクトに,消費者が不在ではないですか?どうすれば商店街が活性化するかというキーは消費者が握っているように思います。マーケティングという意味からも,その商店に買いものにくるお客さんが,コーディネーターとして入るというのはいかがでしょう?」

 この消費者としての視点は是非次年度取り組んでみたい。

  また,人と人の交流を図るためにエコマネーを活用することも視野に入れたいと思っている。龍野市での,たつのe−スクール事業(http://tesp.jp/)を先行事例として参考にしたい。
8.今年度(平成17年度)の活動
 最後に,今年度の活動を紹介する。

(1)1年生の商店街活性化プロジェクト
 必須2単位。今年度は店舗数を増やしたいと思っている。


(2)理想の商店街プロジェクト
 4単位中2単位。2年のコンピュータの授業で行う。1年生からの継続実践にチャレンジする。


企画書
▲企画書


みどり園1
▲みどり園1


みどり園2
▲みどり園2
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