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ICT・EducationNo.26 > p6〜p9

教育実践例
情報A 総合実習 「椙山プレゼンテーションコンテスト」の取り組みについて
−ポートフォリオ作成による総合学習とのコラボレーション−
椙山女学園高等学校 水野嘉基
y-mizuno@js.sugiyama-u.ac.jp
http://www.sugiyama-u.ac.jp/
1.はじめに
 21世紀初の国際博覧会である「愛・地球博」が,現在,地元愛知県で開催中です。この万博会場から西へ10km程のところに位置する名古屋市千種区に椙山女学園高等学校のキャンパスがあります。椙山女学園は,幼稚園から小学校,中学校,高等学校から大学,大学院までを擁する総合学園としてこれまで歩んできました。1905年(明治38年)に開校され,今年で創立100周年を迎えます。椙山女学園の教育は,建学の精神「人間になろう」のもとに展開されています。特に,自ら問題を設定し,まとめ,調べ,発表するという学習スタイルは,本校では従来からの教育の柱として位置づけられています。

  今回の実践報告は,昨年度の高校2年情報Aの単元「総合実習」についての取り組みを総合学習と連携して行ったものです。生徒個人によるテーマ設定と資料収集,レポート作成の指導を総合学習で,その後のプレゼンテーションに向けた作品制作を情報の授業で指導しました。
2.本校の情報教育と総合学習
 本校の情報教育については,2001年度(平成13年度)から学校設定科目の選択授業として,「情報」を実施しています。また,他の教科でもコンピュータ等を積極的に活用した授業を展開しています。現在の教科情報の単位数は,高校1年・2年の授業で情報Aを1単位ずつ,高校3年の選択科目として,情報Bを2単位実施しています。担当教員は,専任教員4名と非常勤講師1名で,計22クラス分の授業を担当しています。

 総合学習については,2003年度(平成15年度)から年次進行の形でスタートしました。名称を「総合『人間』」とし,人権,環境,国際理解・平和の3分野から,大テーマ「人間」について深く追究しようとするものです。

 授業時数は,高校1年・2年での2単位と高3の1単位で活動を展開しています。カリキュラムの内容は,各学年から選出された総合担当者1名と学年主任から構成される「総合係」が企画・構成をします。担当と運営は,クラス担任を中心とする学年群で行います。私は昨年,高2のクラス担任であったため,総合学習と情報の教科担当という両方の立場からの指導を行いました。
3.総合での取り組み
(1)テーマ設定(1時間)
 まず,6月中旬の総合の時間に,各個人による研究テーマの設定に取り組みます。テーマ設定における確認事項として,以下の3点を生徒に伝えました。

1) 椙山総合学習の大テーマ「人間」,小テーマ「人権,環境,国際理解・平和」に関連したテーマ。
2) 世の中の人々全てに「知ってほしい」,「考えてほしい」という主張があるテーマ。
3) 研究テーマはより具体的なものとすること。

 その後,ワークシート「その1」の作業を指示します。具体的な作業内容としては,まず,予め考えてきたテーマを複数書き出させ,グループ内でディスカッションを実施します。そして,状況を見て,以下のような,テーマの基本的な考え方を示しておきます。

1) 自分が気になっていること,関心のある問題を取り上げる。
2) 今までの総合で関心を持ったことについて取り上げる。
3) 自分の進路として考えていることに関連した問題を取り上げる。
4) 夏休みやこれから自分が予定していることに関連した問題を取り上げる。

 その上で,どんなテーマにしたらよりよい研究発表になるか,ワークシート「その2」の作業を家庭での課題として与え,完成したものを担当の教員に提出させます。

  生徒によっては,テーマがなかなか決まらず,取り組みの進捗状況は様々ですが,1通りのチェックと指導を受け,ワークシートを返却してもらってから,再度よく考えてから各個人がテーマを決定していきます。


(2)夏休みのレポート課題
 資料作成の第2段階として夏休み課題レポートを作成させます。レポートは6つの項目にしたがって,調査,研究を進めるものです。

1) 個人研究テーマについて
2) 序論:「テーマを選んだ理由と,研究を行う前にそのテーマについて考えたこと」「テーマを研究するためにおこなった活動」
3) 内容1:「活動によって知ったことやわかったこと」(取材,インタビュー,セミナー参加,アンケートなどによってわかったことも含む)
4) 「文献・新聞雑誌・テレビ番組・「文献・新聞雑誌・テレビ番組・インターネットなどを調べわかったこと」
5) 結論:「私の主張」「問題解決のために私たちにできること」
6) 訪問先(場所,相手の団体名,名前まで)と参考文献(本なら著書名,著者名,出版社名までを書く。新聞,雑誌なら新聞雑誌名,日付,見出しまで書く。テレビ番組なら放送局名,日付,番組名まで書く。インターネットなら,URLを正確に書いておく)

 レポートはB4用紙2枚分の量になりますが,最終的にはプレゼンテーションソフトを活用した発表にするため,「ディジタルカメラで写真をとる」などの他,できるだけ多くのアナログ・ディジタル資料を集めておくことと,レポート作成の注意点も併せて指導します。

1) 自分の主観を述べるだけでなく,説得力のある研究発表にするため,「自分で体験する」,「自分が現地に行って調べる」,「当事者の話を聞く」,「何人もの人からアンケートを集める」など,夏休みを有効に使った活動を必ず入れること。夏休み課題レポート
2) インターネットや新聞,雑誌などは大いに活用して資料を集めておく。インターネットは誰かの研究発表の形式になっていて,偏りや主観も多いので,必ず異なるものを最低3つ以上は集めること。
3) ビデオやニュース番組なども,自分のテーマの材料として録画するなどしておく。その場合も,ニュース番組の内容をそのまま発表して終わり,ということのないように,自分の主張に沿った材料として使えるようにしておくこと。
4) セミナーなど様々な企画も積極的に利用して,自分の研究テーマの材料を集める。ただし,セミナーなどの内容をそのまま報告して終わり,ということのないように注意すること。

夏休み課題レポート
▲夏休み課題レポート


(3)レポート中間発表(2時間)
 2学期の総合の時間で,課題レポートと収集した資料をもとにした中間発表を行います。これまでの取り組みを振り返って,一人3分以内での発表を行います。
この発表は,パソコンとプロジェクターを活用したものではなく,模造紙やポスター,画用紙などの紙媒体を利用した,アナログ的な形式でのプレゼンテーションです。最終的には,情報機器とプレゼンテーションソフトを活用した,いわゆるマルチメディア的な発表になるのですが,ディジタル表現の基本となるのが,構成を組み立て,具体的な資料などを提示し,結論や問題提起をする構成力が大切になってきます。プレゼンテーションソフトのスライドの美しさや凝ったアニメーション効果といった,単なる表面上だけのものにならないようにするためにも,資料収集と課題レポートがしっかり書けているかということと,伝える内容を明確にした構成を見るためのものです。主な発表項目として,以下の4点を指示します。

1) テーマについて。テーマを選んだ理由と,そのテーマについて自分が考えていること。
2) 夏休みにどんな取り組みをしたか。研究のための材料をどうやって集めたか。
3) これからの取り組みで「難しい」と思うのは,主にどういうところか。
4) よい研究発表になるためには,これからどういった工夫ができるか。
4.情報での取り組み
(1)編集作業(4時間)
 ここからは,2学期の中間テスト後の情報の時間を使って,研究発表用の提示資料をもとに,情報機器やプレゼンテーションソフトなどを活用した編集作業を行います。これまでの取り組みから,テーマ設定や,素材集めがしっかりできていれば,これ以降の作業は,基本的にレポートの構成にしたがったスライド作りとなります。
5.全体発表に向けての取り組み
(1)クラスでの発表(4時間)
 情報の授業で作った作品の発表については,各クラス単位で一人5分以内の発表を実施しました。パソコンとスライド,プロジェクターを使用するものです。全員での発表であることと,機器の不具合が出るクラスなどもあり,終わるまでに5時間ほどを要したクラスもありました。期間が長く,中だるみがあったということが反省点です。ここは来年度への課題とする部分です。

  評価法としては,コメントカードを用意し,全員に感想とアドバイスを記入させ,発表者に渡します。また,採点用紙に4観点を設定し,4段階で評価を記入させ,全体発表に向けて,各クラス1名ずつ選出しました。

(2)評価の観点項目
1) テーマについて(選んだテーマに意義が感じられるか。テーマが自分のものになっているか。)
2) 研究のプロセス(充分な量と質の資料を収集しているか。研究のための多彩な活動があるか。)
3) 情報機器の活用(情報機器の特性を生かして利用しているか。)
4) 発表の仕方・説得力(発表に自信や熱意があり,聞く側を説得する力があるか。聞く側の気持ちを引き付けているか。)

(3)全体発表の実施(2時間)
日時:平成17年2月17日(木)
    5・6限(13:25〜15:10)
場所:和風館(本校体育館)

コメントカード
▲コメントカード

<クラス代表・テーマ>
1組 「DRUG」
2組 「手相」
3組 「心理学」
4組 「広げよう!献血の輪」
5組 「戦禍に巻き込まれた子どもたち」
6組 「ペットのネット販売」
7組 「薬物のおそろしさ」
8組 「4町村の合併」
9組 「たばこについてのマナー意識」
10組 「農業,そして食について考える」
11組 「マンション建設に反対する住民の権利」

<注意事項>
1) 発表は,発表者が壇下に平台を出し,その上で発表。客電をつけ,壇上は暗くする。
2) 全体進行は総合係長,進行アナウンスは放送部で行う。
3) 審査員は学校長を含めた,5名の教員で行う。審査発表を行い,最優秀賞,優秀賞を決め,賞状を渡す。
4) 終了後,生徒は教室に戻り感想を書く。


(4)生徒の感想
 各クラスの中から集まった代表者ということで,どれもとてもすばらしい発表で,ひとつひとつに感動させられながら聴き入っていました。

 普段何気なく歩いている町の風景を目に留めて,調べ,考えた発表からは,まず,その普段の生活の姿勢に学ぶものがありました。そして,実際に反対運動を起こしている住民の方から話を聞き,スライドも見やすくまとめてありました。また,自分で献血ルームや農場へ向かい,実体験をした中で,学んだことをまとめていて,とてもよい発表でした。

 今日の全体発表を聞いて,学ぶ姿勢の素晴らしさを実感させてもらいました。日常の何気ない場面にも大切なものは溢れているということ,それに気付けるということの大切さも同時に学びました。1日1日をもっと大切に,有意義に生きていきたいと思わせてくれました。
6.おわりに
 今回の取り組みは,テーマ設定から全体発表までの期間が長く,比較的大がかりなものになるということで,情報と総合のタイアップ企画として実施しました。複数の教員による生徒の進捗状況の把握と資料作成のきめ細かい指導,情報担当教員による情報機器についての専門的な指導が可能になり,全体発表の講評の場で,「内容の濃い作品が多かった」という評価をいただきました。授業での指導は,発表の時間も含め実質約13時間でしたが,生徒,教師ともに,ポートフォリオの作成やその準備等に費やした時間は,夏休みや放課後,家庭等での作業時間も含めると多くの時間を要しました。したがって,情報というよりは,総合での取り組みの色合いが強くなってしまったようです。この部分については,情報の教員だけでは完全に指導できなかった部分でもあり,これまでの総合学習で蓄積された指導のノウハウによるものであることを改めて実感しました。

 総合学習は,昨今,学力低下問題に関連した「ゆとり教育」の見直しに向けた動きの中で,矢面に立たされている現状があります。教育現場では,「削減」や「廃止」の声も聞かれます。そうした中にも,総合学習や教科「情報」は,生徒たちの人間的な成長に大きな影響を与えるものがあるように感じます。カリキュラムの内容や運営・評価法などのモデルケースが少なく,課題は山積していますが,これからもこういった実践を少しずつ蓄積していくことが求められています。今後も新たな課題に挑戦していきたいと思います。

  また,ご意見等お聞かせいただければ幸いです。

当日の発表の様子
▲当日の発表の様子
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