ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.30 > p20〜p23

教育実践例
プロジェクト型実習の企画と評価
−総合学科の選択科目における実践事例−
大阪市立扇町総合高等学校 池田 明
http://www.ocec.go.jp/hs/ogimachi
ab@mb.infoweb.ne.jp
1.はじめに
 大阪市立扇町総合高等学校は,平成12年度までは,扇町商業高等学校として,全クラス商業科の生徒で構成されていた高等学校である。学科改編により平成13年度より新たに総合学科の高校としてスタートを切り,今年度で6年目を迎えた。総合学科の特色でもある生徒が自ら選択して自分の時間割を組みあげていくというメリットを最大限に活かすため,以下のような六つの系列を展開してさまざまな授業を行っている。
・マーケティングデザイン系列
・国際観光系列
・大阪文化系列
・環境科学系列
・会計ビジネス系列
・情報ネットワーク系列
 系列の選択は一年時の必習授業「産業社会と人間」の中でのガイダンスに基づき,生徒自身が選択する。各系列の定員枠は特に設けていないので,所属の希望は100%実現されることになる。
 扇町総合高校における情報教育は,一年時の必修科目「情報」(現在は,全員,情報Cを履修することになっている)で,基本的な情報活用能力を習得させることからスタートする。そして,二年次以降にさまざまな選択科目において主体的な情報活用能力をさらに育成していくための,さまざまな取り組みが用意されている。
2.情報教育の概況
(1)情報処理教育の時代
 従前より実施されてきた情報処理教育の実践は,主としてコンピュータ操作スキルの上達と,関連知識の習得を主眼とした内容であった。しかし,近年のめざましい技術革新により,操作スキル習得の難易度は下がり,これらの教育内容の一部が,中学校段階までに習得されてくる状況になった。これにさらに拍車をかけたのは,学校におけるコンピュータ関連のインフラ整備の充実と教員のスキルアップである。そのため,全国の高等学校においては,より高度な操作スキルや知識の習得が求められるようになってきた。また,かなり以前から潜在的に,コンピュータをある程度以上使いこなすための操作スキルとそれに伴う知識の習得へのニーズが,保護者や生徒で一般化していたという現状もある。
 さらに,これらの習熟度は,実技試験やペーパーテストで測定できるので,学校の授業としても簡単に取り組めるものである。具体的な内容としては,より難易度の高い検定資格取得をめざすものであったり,より複雑なアプリケーションソフトを使用した操作スキルの実習であったり,あるいは,操作スピードのより一層の向上を図るものである。このような取り組みは,高度で専門的な内容である。すなわち,将来の進路選択という観点から鑑みれば,より特化した専門分野への進学・就職には一定の効果があると考えられる。反面,社会一般的に必要とされる情報関連スキルの枠からは徐々に乖離していったとも考えられる。
コンピュータでのグループワーク
▲コンピュータでのグループワーク

(2)情報教育への進化
 また,一方で,主体的な情報活用能力を育もうという取り組みも進められてきている。これは,単に操作のスキルにとどまらないコンピュータの主体的な活用を目指すものである。与えられた課題を指示されたとおりのコンピュータ操作でこなしていくのではなく,自ら考えて課題解決的に進めていく実習を柱にした指導ともいえる。このような広い意味での情報教育に根ざした指導が,今後さらに中心的役割を担っていくことが予想される。情報処理教育から情報教育への進化あるいは脱皮とも考えられるのではないだろうか。
プレゼンテーションの準備
▲プレゼンテーションの準備
3.プロジェクト型実習の要点
(1)情報発信の重要性
 新しい情報教育で重要視されるのが,情報発信スキルの育成ではないだろうか。情報の流れを考えてみると,収集→加工→発信という,繰り返し循環する過程を経て継続的に流通しているものであるといえる。しかしながら,旧来の情報処理教育においては,情報の流通経路のこれらの過程のうちで「加工」部分にのみ力点が置かれていた。近年は,インターネットの爆発的な普及に伴って,情報「収集」についてのスキル育成が必然的に実施されるようになり,今に至っている。ところが,もう一つのセグメントである「発信」という視点から見た教育内容は,未だ充実しているとは言い難いのが現状である。
情報の流通経路
▲情報の流通経路

 ここで,重要視されるべきなのが,表現に関する指導を取り入れた情報教育だと考えられる。扇町総合高校においても,情報加工活動のみに終始するコンピュータ操作スキル実習から脱皮した授業の模索を行ってきた。

(2)プロジェクト型の効果
 筆者が主として担当している情報ネットワーク系列の授業では,主体的で実用的な情報活用能力の育成を目指して,プロジェクト型の実習を伴う取り組みを積極的に取り入れている。
 数時間以上の比較的長い時間をかけて課題を解決していく方法で進められるので,生徒は自ら考え問題解決を図るスキルを自然と身に付けていく。また,グループワークの形式になることも多いため,人間関係調整力を高める効果もあるといえる。さらに,期限までに課題を解決するというプロセスの繰り返しで,構成力やマネジメント能力も身に付けることができる。
プレゼンテーション本番
▲プレゼンテーション本番

(3)展開における留意点
 プロジェクト型の実習を単元として展開する場合,生徒に対して目的と評価について明らかにしておくことが重要である。生徒のモチベーションを高め,持続させるために,工夫を凝らさなければならない。どのような「ネタ」で授業を展開して,どのように「落とし前」をつけるかが,重要であるということである。
 また,プロジェクト型の実習の評価方法については,単に考査の点数によるものだけでは十分ではない。生徒の気づきや育ちを確認するために,生徒自身での自己評価や相互評価も行う必要がある。そこで,ルーブリック評価を取り入れ,事前に評価基準を示すようにしている。これにより,何を目的としてどんな力を身に付けるための実習なのかを生徒が把握できる。また,時によって生徒自身にルーブリックの評価表を作成させることで,取り組みに対する目的意識をより明確に持たせるという効果を狙う場合もある。
 最終的に問題になるのは,授業における取り組みである以上,点数化された評価を出さねばならないということである。今のところ,考査とルーブリック評価と平常点などを勘案して点数化する方法で行っている。
4.実践事例
(1)プレゼンテーション大会
 全国生徒商業研究発表大会や全国プレゼンテーションコンテスト,プレゼン定期戦などをはじめとする高校生が参加できるプレゼンテーションの大会にエントリーし,大きな舞台での発表を経験させている。大会の本番を目標としてプレゼンテーションを作成していくので,生徒は当面の目標を明確にして活動を行うことができる。また,主としてグループで取り組むスタイルになるので,役割分担やスケジュールの調整といった人間関係を調整するスキルも大きく向上することが多い。
 このような取り組みでの注意点は,大会本番をゴールとしないということに尽きる。プレゼンテーション本番を終えると,生徒のモチベーションはほぼゼロに近くなる。しかし,重要なのは自らのプレゼンテーションについてきちんと振り返ることである。単に感想を書かせる程度にとどめるのではなく,評価シートを記入させたり,改善ポイントの洗い出しを行ったりする必要がある。このような事後処理は,取り組みを始めた当初から常に意識して用意しておく必要がある。また,できれば複数の大会のスケジュールをうまく組み合わせ,振り返りを行いつつ次の取り組みに進めるというのが望ましい。おおまかな取り組みの流れは以下のようになる
1)概要説明・グルーピング
2)作業計画と役割分担
3)調査・研究でデータ収集
4)台本・発表データの作成
5)発表練習とリハーサル
6)本番
7)評価

項目
内容を相手に伝えることができたか? すべて伝えることができた ほぼ伝えることができた 必要な内容は伝えることができた 伝えることができなかった
堂々と自信を持って紹介できたか? 文句なしにとても良くできた 特に問題なく予定通りできた 堂々とできなかった部分が一部あった 消極的だった
▲生徒によるルーブリック例

(2)学校間交流
 インターネットを利用した交流活動も,プロジェクトとして有効なネタである。年間何度かの期間をもうけて,国内外の学校との掲示板等による交流を行っている。また,毎夏実施されている学生・生徒のための国際交流会議であるワールドユースミーテイングには2001年より継続的に生徒が参加して,毎回英語によるプレゼンテーションも行っている。
 学校間交流の取り組みは,双方が何を目的としているのか,良好なギブアンドテイクのバランスがとれているか,など独特の留意点がある。また,指導する双方の教員もインターネットでの情報共有が不可欠である。そのため,通常の実習プランに比べ手がかかるという欠点がある。
 逆に長所としては,生徒が高いモチベーションを持続させやすいこと,継続的な交流は想定した学習効果以上のメリットを生徒にもたらす場合があること,多文化理解を図ることができることなどが挙げられる。
ワールドユースミーティング
▲ワールドユースミーティング

(3)Webページやディジタルコンテンツの作成
 最近の表現活動の定番となりつつあるのが,Webページやディジタルコンテンツの作成である。どこの学校でもインターネットが利用できるようになって,ますますこのような取り組みは増加すると考えられる。しかし,例えば,Webページの制作にあたっても,単に自己紹介や学校紹介を作成して,完成すれば終わりという取り組みでは,Webページ作成の基本的なコンピュータ操作スキルを学んだだけになってしまう。したがって,プレゼンテーションの場合と同じくどのような場面を設定して作成させるかが問題となってくる。扇町総合高校では,この問題を解決すべく,教材ホームページ作成コンテストであるシンククエストに参加させ,より実用的なページ作りを意識させるようにしている。
 また,生徒のプレゼンテーションのノウハウを活かして,小学生向けでプレゼンテーションの動画クリップ教材の作成を行った。このデータは,ディジタル表現研究会で既に配布されている。
 このような取り組みを実施することで,生徒はマルチメディアコンテンツについて主体的に学ぼうという態度が見られるようになった。画像の加工や動画の制作,さまざまなメディアの統合などの技法を必要に応じて修得していった。教師が教える技術を,一斉に同時同業で学ぶのは基本操作だけで,多くのスキルは自分たちが必要と考えたものを自らの力で学び取っていくようになった。
○参考Webページ
ディジタル表現研究会 http://www.d-project.jp/
ワールドユースミーティング http://www.japannet.gr.jp/w2005
シンククエスト http://www.thinkquest.gr.jp/
ルーブリックチャート http://www.nichibun.net/classsupport/rubric/index.php
○参考文献
「地域とのかかわりと子どもの学び」中川一史編著高陵社書店
「企画実践型カリキュラムをつくる」田中博之編著明治図書
「コンピュータ教育のバグ」池田明著日本文教出版
「メディアリテラシー教育を創る」森田英嗣編著アドバンテージサーバー
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