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ICT・EducationNo.35 > p14〜p17

教育実践例
プレゼンテーションを用いた新商品の販売企画
京都府立福知山高等学校 宮崎 真成
twilitjemini@yahoo.co.jp
1.はじめに
 京都府立福知山高等学校は,1900年に設立された府立第三中学校から歴史が始まり,1948年には福知山高等学校と名を改め,今年で108年目を迎える実に長い歴史を持つ進学校です。2000年には創立100周年を記念する様々な催しが行われました。
 福知山高等学校では「勉学」「自律」「敬愛」の精神の下,文武両道を目指し日々励んでいます。2007年度には,専門学科「文理科学科」が設立されました。「文理科学科」では,大学や研究機関と連携して通常の授業では味わえないことを行っております。大学教授や各機関の方の講演を聞いたり,その内容を自分たちで調査し,発表したりしています。4月に農学部教授の講演を聴き,その後に自分たちで農業に関すること(農薬・環境ホルモンなど)を調査・発表しました。この発表には外部の方も興味を持たれたようで,発表当日には様々な方が見学に来られていました。
 私自身は,昨年度から福知山高等学校で数学・情報の教鞭を取っています。昨年度は数学1クラスと情報を7クラス持ち,日々四苦八苦することとなりました。情報は新しい教科で,「何をどのように教えればよいか」に悩み,複数の教科書を組み合わせたり,研究会やセミナーに参加した時の内容を授業に取り入れたりして1年を過ごしてきました。今回紹介します授業実践例は,そんな試行錯誤の中で思いついた内容です。授業内容としてはまだまだ拙く,改良するべき点が多々あると思いますが,1つの報告として紹介致します。
2.年間授業計画
 本校は2007年度より新課程へと移行し,専門学科「文理科学科」を除く1年生全員が「情報A」を履修しています(文理科学科は2年次に履修)。一方,2006年度までに入学した生徒は,普通科第I類が1年で,普通科第II類が3年で「情報C」を履修することとなっています。座学は授業内容がそれぞれ異なりますが,実技に関しては,「情報A」「情報C」共に同じ内容の指導をしています。これは,コンピュータの基礎的な活用能力やメディアリテラシーの向上を目的としたとき,最も基礎となることは同じであると考えたからです。基礎の指導終了後には,科目の内容や教科書を元にした実技を行いました。
 2006年度の実技の流れは,表1のようになっています。1学期には,コンピュータ操作の基礎となる文章作成能力の育成を図り,2学期では,1学期で習得した技術を生かしてインターネットを用いた情報検索やプレゼンテーション能力の育成を図り,3学期には,1年間の集大成として個人によるプレゼンテーションを行いました。
 基礎的な技術の習得は1学期に全て終えて,2学期以降に情報伝達と基本的な道徳に関わる授業を展開していきます。

学期 2006年度 実技授業計画内容
1学期 ソフトウェアを利用した文書作成能力の育成(Word・Excel)
2学期 インターネットを利用しての情報検索とクロスチェックを用いた情報の取捨選択方法
プレゼンテーション能力の育成(PowerPoint)
メモ帳で作成するマイ・ホームページ
3学期 GIFアニメーションの作成
個人で行うプレゼンテーション
▲表1 各学期の取り組み
3.本プレゼンテーションの狙いと授業計画
 プレゼンテーション能力育成の一環として,「自分たちで考えた新商品のプレゼンテーション」を実践しました。
 これは生徒達の「自分で考え・行動できる力」,「自分の力で新しいものを生み出す力」を育てるための取り組みです。しかし,新しいものといっても何かしらの取っかかりがないと何もできません。無から有を生み出すことは極めて難しいことでもあります。そこで,自分で新しいものを作り,他人に報告・発表を行う企業などのプレゼンテーションに着目しました。
 今回のプレゼンテーションに用いた授業時数は,合計8時間です。少ないと感じる方も多いとは思いますが,限られた時間内にやるべきことを行うことが大切だと考えています。本校の情報の時間は2時限連続となっておりますので,今回のプレゼンテーションは1ヶ月かけての授業となります。8時間の内訳は,表2の通りです。

1限 新商品のサンプル紹介
班決め・新商品の考察
情報収集
2限
3限 発表内容の考察
発表用資料の作成
4限
5限
6限 リハーサル・最終調整
7限 発表・質疑応答
相互評価
アンケート・感想
8限
▲表2 授業時間の内訳

 最初にサンプルの発表を行い,これから自分たちが何をするのかを考えさせ,その後班分けを行います。このとき,名簿順で4人1グループの班を作ります。友達同士で作業を行えば楽しくできるのでしょう。しかし,社会では知らない人や苦手な人と一緒に仕事をしていくことが多々あることを考慮し,機械的に決定しました。
 新商品の条件として「ノンアルコール飲料水」であること,発表時間は5分間であることを生徒に指示しました。各班は条件に合致する商品の下地・骨組みなどを考えます。また,インターネットも利用して情報収集を行います。これらを元にして発表の準備を整えていきます。
 授業では6時間かけて新商品の資料集めや考察などを行っています。放課後など授業でコンピュータ・ルームを使用していない時間は,生徒が調べたり発表用資料を作成したりできるようにしてあるので,各班の平均作業時間は10時間前後となりました。
 発表時の注意・作法などの説明は事前の最終調整の時に行います。発表は大型のモニターを利用して行い,発表後は質疑応答の時間を用意します。質疑応答は,質問・意見のある生徒がいないかを確認し,その後,前もって当てておいた班に質問してもらいます。もちろん次が発表の班には当てないようにしています。最後にアンケート・感想を書いて終了となります。
 プレゼンテーションの行い方と,PowerPointの操作については,事前に別の課題で行いました。今回の課題を行う下地ができた上での計画となります。
4.実践内容(2006年度)
(1)新商品のサンプル紹介

 生徒たちが新商品を考えプレゼンテーションする前にこちらで見本を提示して,自分たちがこれから何をするのか,どんなことを発表しなければならないのかを提示しました。例として見せた新商品は,炭酸水を混ぜたお茶です。「今まで味わったことのない新しいお茶」という宣伝文句や,お茶を選んだ理由(現在のお茶の情勢),会社(グループ)としての今後の発展課題など,新商品の発表に必要な要素をサンプルに組み込んでいます。

(2)新商品の考察・情報収集

 新商品を考えるに当たって,「新商品販売企画書」というプリントを各班に配りました。内容は
1.新商品名
2.商品の狙い
3.商品の対象
4.企画の背景
5.今後の展開
6.発表の手順
となっています。項目ごとに,自分の班の新商品について考えさせます。特に,項目の2・3・4はそれぞれ「何を」「誰に」「何のために」を明確にするために用意しました。
 生徒たちには,何をするべきなのかをここで明確にしてから作業を行わせました。何から手をつければよいかがわかり,快調なスタートを切ったようです。現在の飲料水の人気や売上高などを調べ,売れ筋の飲料水で新商品を作ろうと考えたり,逆に今までない商品を考えたりと様々でした。中には,サンプルの発表内容を元に何を調べ,どのように新商品を考えるかを話し合う班もありました。

(3)発表内容の考察・発表用資料の作成

 作成した企画書や収集した情報を元にして,発表用資料を作成していきます。概要を考え,それを元に発表内容の順番や骨組みを作成していきます。一方で,細かな説明ができるように一層の情報収集を手がけるなど,どの班も役割分担を行い発表に向けて作業を行いました。最初は何もしていない生徒もいましたが,授業が進むにつれ,班の仲間に刺激されて自主的に動く姿を見かけるようになりました。
 発表用資料はPowerPointを利用することだけを条件としていましたが,前回の課題で指導した発表用原稿や配布用資料を自主的に作成している班もありました。発表用資料の提出は,6限目の最終調整後に提出としていましたので,生徒たちは,休憩時間に教室で話し合ったり,放課後にコンピュータ・ルームで作業を行ったりしていました。

(4)リハーサル・最終調整

 発表前の指導として,各班にストップウォッチを持たせて班内でリハーサルを行わせました。制限時間内に収まるか,発表内容は道筋を立てて説明できているかなどを確認し,最終調整を行いました。
 この時に発表態度(よそ見をしない,発表時には顔を下げない・声は大きくハッキリと)や注意事項(時間厳守,ふざけない)などを,もう一度確認しました。他にも発表時に出てくる新しい単語などは,質疑応答の際に答えられるように事前に調べ直しておくようにも指導をしました。

(5)発表

 発表では,実に様々な商品が発表されました。構想として特に良かったものでは,ノンアルコールカクテル「姫」やフルーツジュース「三大美珠」がありました。
 「姫」は童話に出てくる主人公をモチーフにした味を表現したカクテルです。この企画の背景は「飲酒運転による事故が多発している当時の問題を改善するため,ノンアルコールカクテルに目をつけた」とのことでした。ただ味や奇抜さだけを求めるのではなく,自分の身の回りの事柄にも目を向けた商品でした。

「姫」
▲「姫」

 「三大美珠」は女性の美しくありたいという願いをコンセプトに考えられた「飲んで綺麗になる飲料水」です。世界三大美女の伝説・逸話をもとにしており,楊貴妃・クレオパトラ・小野小町が美しさを保つために利用した食物をジュースに利用していました。効能なども説明してくれ,事前の下調べや発表の仕方などクオリティーの高いプレゼンテーションとなりました。

「三大美珠」
▲「三大美珠」
 
5.授業評価
 新商品プレゼンテーションの評価は,私自身の評価を全体の40%とし,残り60%を生徒による相互評価としました。評価の基準は「新商品の設定」「発表用資料(Power-Point)」「発表方法(態度・時間など)」とし,さらに各項目を細かく分け,小項目の評価を1〜4点で採点していきました(表3)。最終的に各項目の合計点が最終評価となります。
 相互評価では,友達同士で多少は甘い採点になった部分もありましたが,基本的に各班の発表内容を自分できちんと評価してくれました。どの班も個性溢れるものが多かったためか,興味・関心をもって発表を聞いて評価していました。そのため,私自身の評価と生徒の評価は似通っていました。
 相互評価と共に行った新商品のアンケートには,商品に関するものや発表のために行わなければならなかったことなど,実に様々な内容がありましたが,どの生徒のアンケートにも「他人に新しいことを伝えることは,本当に難しかった」「商品の良さをわかってもらうための説明が不十分で,人にものを伝えることは難しかった」など,情報伝達の難しさと大切さを実感したようです。「また発表をする機会があるなら,もっと相手に内容がわかってもらえるような発表がしたい」という自身の反省を生かそうとする感想もあり,当初の目的は果たせたかと思います。

発表内容(新商品販売企画) 発表用資料(PowerPoint) 発表(表現)
・発表の内容的な流れはスムーズか,話が急に飛んだりしていないか

・商品の背景など,新商品の設定がよく考えられているか

・新商品の販売対象(誰に売るか)がはっきりしているか,またそれは適切な対象か

・発表する新商品の内容はよく考えられているか
・フォント変更やアニメーションなどを使って,発表内容の強調を効果的に行っているか

・パワーポイントの内容は簡潔で分かりやすいか
・発表された新商品を購入したいか

・グループが一致団結して発表しているか(私語・よそ見はないか)

・声の大きさや,話す早さは適切か

・発表時間は適切か(発表時間を守っているか)

・発表の内容は分かりやすいか
▲表3 評価の判断基準
 
6.考察と今後の課題
 新商品の内容は,どの班も大変面白くできていました。凝った内容のもの,実用化ができそうなものもありました。ただ,評価の「発表(表現)」が今ひとつ上手にできず,結果が思わしくない班もありました。しかし,生徒自身は自分たちが考えた新商品を評価してもらえることが嬉しかったようで,結果に関係なく自分の商品には満足していたようでした。今回の企画で肯定的な自己評価が得られたということは,少なくとも「自分の力で新しいものを生み出す力」は養われたのではないかと考えます。
 その一方で,班で行動する際に,今ひとつ班に参加していない生徒や,何をしたらよいかわからず仲間に言われたことだけをやっている生徒がいました。もう一方の「自分で考え・行動できる力」については,今ひとつと言わざるをえませんでした。
 今後の課題としては,「自分で考え・行動できる力」をいかに育てるかが1つ挙げられます。また,作業時間の確保や発表内容のレベル向上などもあります。抱える問題は数多くありますが,本プレゼンテーションは生徒にとって有意義なものとなったと判断します。
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