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ICT・EducationNo.38 > p1〜p3

論説
新学習指導要領で,小学校の情報教育の扱いはどうなるのか
メディア教育開発センター 中川 一史
 新学習指導要領が告示された。9年ぶりの全面改訂だ。文部科学省によると,学習指導要領改訂のポイントは,以下の7点にあるという。
・改訂教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂
・「生きる力」という理念の共有
・基礎的・基本的な知識・技能の習得
・思考力・判断力・表現力等の育成
・確かな学力を確立するために必要な時間の確保
・学習意欲の向上や学習習慣の確立
・豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実

 ここにあがっているポイントは,ある意味,これまでも大事にされてきたものであるが,それでも上記のポイントを受けて,総則や各教科もさまざまな改訂箇所が見受けられる。本稿では,総則と国語科での情報教育の扱いに触れ,いくつかのポイントを紹介する。
1.総則から見る小学校情報教育
 総則の「第4指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」の2の(9)に,これまでの「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実するとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」に「〜コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,〜」という文言が加わった。
 各教科や総合的な学習で活用できるように,これら学習活動のベースとしての基本的な操作の習得と,子どもをとりまく状況を踏まえて情報モラルが強調されている。これまでも含まれていたと言えなくはないが,より明確に示すことで,各学校での着実な取り組みを促していると言える。
 小学校でも機器整備が進み,地域によっては,すべての学校の各教室にもコンピュータが数台ずつ設置されることになり,その活用の可能性は広がっている。小学校では,コンピュータルームの整備はほぼ落ち着き,教員一人1台のコンピュータとともに,特別教室や普通教室への設置が焦点になりつつある。小学校は,学級担任制である場合がほとんどなので,教室に1台2台しかなくても,日常的なちょっとした活用にはそれで十分な場合が多い。そうなると,なおさらのこと,基本的な操作を身につけていれば,使いたい子が使いたい場面でコンピュータや情報通信ネットワークを日常的に活用できるようになる。
 また,情報モラルについては,昨今の社会状況を反映して,都道府県市町村の教育委員会も学校での指導に本腰を入れ始めている。特に,メールや掲示板等での情報通信ネットワークへの関わりや携帯電話の取り扱いなどについて,独自にカリキュラムや指導例を提示したり研修で行ったりするケースが増えてきた。
 しかし,基本的な操作の習得にしても情報モラルにしても,小学校では共通の課題が存在する。それは,高等学校での教科「情報」のように,どこの学校でも共通に指導できるような教科や時間枠が存在しない,ということだ。ある小学校では,3年生以上で,総合的な学習の時間から年間数時間ずつを機器の操作の習得に充てたり,他の学校では,情報モラルを道徳の中で教え,特定のテーマを扱ったりしているなど,学校や地域でかなりのばらつきが見られる。最終的には,学年や教師個人に任されているのが実情だ。今後,市町村単位のカリキュラム検討において,さらに踏み込んで推進していく必要があるだろう。「情報モラルの時間」として確保するだけなく,各教科横断的に埋め込みながら,年間を通して,理解させていくような工夫も検討する余地がある。
2.国語科からみる小学校情報教育
 さて,情報教育の中でも,「情報活用能力の育成」に目を向けたときに,その扱いが一番注目される教科は,何といっても国語であろう。国語においては,伝統的な言語文化に関する事項が盛り込まれていることが話題となる場合が多いが,これまでの「連続型テキスト」中心の学習活動から,さらに「非連続型テキスト」を意識した内容に踏み込んでいる。
 例えば,第3学年及び第4学年の「B 書くこと」では,「収集した資料を効果的に使い,説明する文章などを書くこと。」が求められている。そのため,教科書では,説明書作りや新聞の読み取りなど,資料と文章との連動を意識させるような題材を載せることになる。さらに,第5学年及び第6学年では,「A 話すこと・聞くこと」で「考えたことや伝えたいことなどから話題を決め,収集した知識や情報を関係づけること。」,「B 書くこと」で,「引用したり,図表やグラフなどを用いたりして,自分の考えが伝わるように書くこと。」「表現の効果などについて確かめたり工夫したりすること。」「書いたものを発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合うこと。」など,情報活用能力を総合的に発揮しながら言葉の力をつけていく,1つの国語の方向性が見てとれる。
 具体的な授業場面で見ていこう。

事例:紙面で伝えるために特徴をつかませ,考えさせる

 光村図書出版小学校国語教科書6年上巻に「相手や目的に合わせて書こう ガイドブックを作ろう」という「書くこと」の単元がある。11時間扱いで,いろいろなガイドブックを集めてその構成や材料の選び方の特徴をつかみ,実際に自分でガイドブックを作成するという構成になっている。
 ガイドブックを実際に作るためには,見つけてきたガイドブックを見て,その特徴をつかむところが大切だ。熊本市立飽田東小学校の前田康裕教諭は,「全体の構成はどのようになっているか」「写真や図の使い方にどんな工夫が見られるか」などの特徴をつかませるとともに,「何を伝えたいガイドブックなのか,それはどこから伝わってきたかなどについて話し合わせてみる」「文章,画像(写真,カット,地図など),色づかいの工夫についてワークシートに書かせる」「同じジャンルの他のガイドブックと比較して考えさせる」など,具体的な指導まで踏み込んでいる。

図1 本物を見る
▲図1 本物を見る

 ガイドブックやパンフレット作りでは,相手意識とシチュエーションをしっかりとおさえていなかった場合,すべての活動があいまいになってしまう。この相手には,この写真や文章が通用するのか,検討の場を保証すべきだし,教師サイドで適切な評価の観点をもっている必要がある。

図2 ページ原案を考える
▲図2 ページ原案を考える

 さらに,実際に手にとってくれるのかどうかリアクションを得る場の設定も必要だ。パンフレットなどは「手にとってもらってなんぼ」の世界だ。
 そのような状況は国語の時間だけで確保できないことも考えられるので,たとえば総合的な学習の時間の学習活動との具体的な関連でを視野に入れる必要も出てくるだろう。制作活動の過程で,子どもそれぞれの思いがあるので,選ぶことも,順番を決めることも難航が予想される。しかし,ディスカッションしながら結論を出さなくてはならない過程が大事なのだ。

図3 写真を選択する
▲図3 写真を選択する

 しかし,総合的な学習などでも,「調べて,まとめて,発表会しておしまい」という授業がよくある。計画通りに授業はすすんでいるかもしれないが,ここで何が子どもの学びとなり,教師がどのように介在するのか,目の前の子どもたちの実態がどうであるのかなどにしっかりと踏み込むことが重要なのは言うまでもない。
 前田教諭の授業に戻るが,これらのことが,学習指導要領国語第5学年及び第6学年にある「B書くこと」の「オ 表現の効果などについて確かめたり工夫したりすること。」「カ 書いたものを発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合うこと。」を具現化した授業ということになる。いずれにしても,情報教育の視点で考えるならば,従来の国語の「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」に,「見ること」「見せること」をどのように絡ませていくかがポイントだ。

 情報教育は,「教科等におけるICTの活用」と「情報活用能力の育成」で構成されている。それぞれ,学習指導要領の中で小学校においてもじわりじわりと大事にされているように感じてはいるが,一方で,それをどのように解釈し,授業レベルに落とし込んでいくかが重要だ。地域や学校単位で全体のカリキュラムにいかに埋め込んでいくかが問われることになりそうだ。

図4 写真を配置する
▲図4 写真を配置する
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