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ICT・EducationNo.38 > p7〜p13

教科「情報」テキスト活用事例
私は情報Bの授業をこのように実施した(1)
ー年間計画と実践の流れおよび授業改善の取り組み─
岐阜県立大垣北高等学校 高納 成幸
p80296@gifu-net.ed.jp
はじめに
 本校における教科「情報」の授業は,2年生において日本文教出版の教科書「新・情報B」を使用し2時間連続で実施している。
 私は授業計画を作成するに当たって,前年の生徒の授業アンケートを参考にしている。平成18年度の授業アンケートの中で多くの生徒が指摘した項目のうち,今年度の授業に生かすべき項目を3つあげてみる。
1)2時間連続の授業の内容をできるだけ詳しく知らせてほしい。
2)講義式の授業だけでなく生徒が関心を持てる実験や実習などを取り入れてほしい。
3)ホワイトボードの文字が見づらく授業の内容がわかりにくい。
 この3つの課題への対応を中心に,今後3回にわたって授業実施の報告をする。

図1 指導と評価の年間計画
▲図1 指導と評価の年間計画

 今回の内容は以下の通りである。
(1)年間授業計画の作成と実施状況
(2)授業実施上の留意点と進め方
(3)副教材や実習ノート・問題集の活用
(4)「新・情報B」第1章の授業内容について
・アナログとディジタル
・インターネット
・問題解決
・授業で用いた小道具など
1.年間授業計画の作成と実施
(1)教科「情報」の年間計画
 全生徒に対して,年度初めに「指導と評価の年間計画」(図1)が配布されている。すべての教科・科目の年間の学習の流れが事前にわかるように配慮されている。
 その中で,平成19年度「情報B」年間計画を表1のように作成した。しかし,生徒に聞いてみると,年間の授業の流れより,1回の授業の中で何を目標にして,どのような内容が実施されるのかを授業の前に知りたいということであった。今までも,授業開始時にその時間の目標や内容について説明をしていた。しかし,生徒には十分に伝わっていなかったということである。
 毎回生徒が実験や実習を行うことができることと,授業に関連のある実物を見せることに留意した授業計画を立案した。

※画像をクリックすると,PDFが開きます。

(2)授業の実施状況(平成19年度)

時間 内容
1/2 わたしたちの生活とコンピュータ
3/4 問題解決
5/6 インターネット
7 コンピュータの機能とCPUの動作
8 演算のしくみとソフトウェアの実行
9 コンピュータにおける数値の扱い
10 コンピュータにおける文字の表現
11 色と画像の表現
12 コンピュータにおける音の表現
13 データ表現の工夫 データの圧縮
14 前期定期考査にむけた復習    
15 簡単なプログラムとフローチャート
16 やや複雑なアルゴリズム
17 問題のモデル化とシミュレーション
18 太陽光発電
19 生物個体数
20 待ち行列
21 モンテカルロ法
22/27 12 総合実習 節電計画
28 データベース
29 情報社会をつくる情報技術  
30 学年末考査にむけた復習    
▲表2 授業の実施状況(平成19年度)

 年間計画では70時間実施の予定であったが,実際には60時間の実施で,一部省いた内容もあった。
2.授業実践上の留意点と進め方
(1)授業目標と内容の提示
 授業開始前にその時間の授業目標と内容をホワイトボードの端に書いておく(図2)。これは,授業中においても必要に応じて目標や授業内容を生徒に確認させることができるからである。場合によっては,プロジェクタを用いてスクリーンに提示しておくこともある。生徒は,教室を移動してコンピュータ室に入ってきたとき,この提示を見てその時間の授業の内容を前もって確認することができる。
 たとえば,インターネットのしくみの授業の前に,内容として「プロトコル」とホワイトボードに書いておくと,教室移動してきた生徒同士の「プロトコルって何?」という話し声がコンピュータ室からドア越しに隣の準備室へ聞こえてくる。まず生徒に一つの動機付けができたといえる。

図2 ホワイトボードに記入した授業内容
▲図2 ホワイトボードに記入した授業内容

(2)ホワイトボードの見にくさの解消のために
 教科「情報」の授業は,すべてコンピュータ室で行っている。教室より大きい部屋で,ホワイトボードにマーカーで板書するのが見づらいということであった。この程度のことは重大な問題ではないと考えていたが,自分が生徒の位置でホワイトボードを見ると大きな問題であることがわかる。この問題を解消するために,前もって必要な語句を大きく印刷しホワイトボードに貼り付ける方法(図3)をとった。すべての板書内容を印刷しておくことはできないが,重要な部分が大きくはっきり表現できれば,全体としての見やすさは大変向上する。

図3 ホワイトボードに貼りつけた語句
▲図3 ホワイトボードに貼りつけた語句

(3)授業ごとの学習指導案と授業ノートの作成
 授業実施前に学習指導案を作成することは重要である。完璧な指導案でなくても,授業の流れを前もって作成しておくことは大きな意義がある。指導書に示されている授業目標や指導の流れ,指導上の留意点や過去の実践内容を参考にしながら学習指導案を作成する。また,同時に授業のシミュレーションを行うことができるようにするためにも,学習指導案をより具体的に書き記した授業ノートを作成することも大切である。この教師用授業ノートには,授業計画や板書内容,プレゼンテーション内容を書き留めておく。授業を展開していく中で,図表資料や実物資料をいかに効果的に提示するかを検討することもできる。授業後,気づいたことや問題点,生徒の反応や動きなどを書き込む。このような授業ノートを作成することで,その後の授業改善の資料として大いに役立っている。
3.副教材や実習ノート・問題集の活用
(1)実習ノートの活用
 実習ノートは,生徒にとって最も重要な教材の一つと位置付けている。したがって,生徒に教科「情報」用のノートを持たせていない。実習ノートを見直せば,いままでに学習したことをすべて振り返ることができるようにしている。重要語句のまとめや実習の整理を行うことに利用することは言うまでもない。また,この実習ノートにはメモ欄が用意されているので,必要に応じて生徒にメモを積極的に取らせるようにしている。授業では学習プリントを利用する場合もあるが,このプリントは実習ノートの該当箇所に貼付させ,いつでも参照できるようにさせている。

(2)問題集の利用
 問題集は,各章の学習が終了した段階で2時間ほどの時間をかけ,章のまとめを行うところで利用した。授業のみでは重要語句の定着率は意外に低く,問題集による再確認には大いに意義がある。また,年2回の定期考査の前に復習を行う場合にも有効であった。問題集は1度書き込むと2度目に使うことができないため,各章ごとの復習時には,解答欄のみ別に印刷してその用紙に書き込ませた。定期考査前の復習では問題集に直接書き込ませて学習内容の定着を図った。

(3)パワーポイント資料の利用
 教師用指導書の「ディジタルデータ編」に収録されている「パワーポイントスライド集」を利用することによって,講義式の授業を効果的に実施することができる。これは,前述の授業目標と内容の提示にも利用できる。パワーポイントによる授業資料では,初めにその節における学習目標などのスライドがあるため,授業開始前にプロジェクタを用いてスクリーンに提示しておけば授業に入る動機付けになる。また,教科書の内容や実習内容をわかりやすくまとめてあるので,授業における教師からの説明に利用するのに便利である。さらに,必要に応じて内容を変更することもできるので,自分の授業計画に合わせることもできる。このファイルをサーバに保存して生徒自身に既習事項の復習として利用させることも効果的である。
 この他にも「ディジタルデータ編」には「実習テンプレート集」などが収録されている。実習ノートのワークシートに対応したファイルが収録されておりこれを校内LANのサーバにおき,生徒に利用させることができる。
4.「新・情報B」第1章の授業実施について
(1)第1章1節 コンピュータが扱う情報
 この内容では,コンピュータはディジタル化された情報を処理することを教え,ディジタルデータの特徴を生徒に考えさせて理解させるというものである。
 まず,ディジタル化を理解させるとき,アナログとディジタルについて知らせたいと考えた。アナログ方式の代表として,レコード,エジソン式蓄音機を例にとって説明する。
 授業の始まる前には,レコードをかけて授業開始を待つことにしている。生徒がコンピュータ室へ入ってくるとレコードプレーヤーでレコードが回っている(図4)のを物珍しげに見る生徒がいる。「どのようにして音がでるのか」と質問する生徒がいるので,この授業はうまくいきそうな予感がする。

図4 レコードプレーヤーでレコードが回っている様子
▲図4 レコードプレーヤーでレコードが回っている様子

 授業では,アナログ量である音がどのようにレコードに記録されるのかを説明する。さらに,エジソン式蓄音機の模型(図5)で実際に声をプラスティックのコップに記録し,再生してみる。これには生徒も驚きを見せる。さらに,音を記録したプラスティックのコップに刻まれたれ溝をUSBディジタル顕微鏡(図6)で拡大して提示(図7)する。この溝が音の記録の正体であったことを生徒は確認する。この蓄音機の模型は市販のものを組み立てたのだが,教材として十分に役立つ。
 また,図6のディジタル顕微鏡は実物の拡大提示には大いに威力を発揮する。一台用意しておくとよい。

図5 蓄音機の模型
▲図5 蓄音機の模型

図6 ディジタル顕微鏡
▲図6 ディジタル顕微鏡

図7 顕微鏡での拡大画面
▲図7 顕微鏡での拡大画面

 続いて,ディジタル方式の音の記録としてCDを取り上げる。CDの構造については,実物は見せられないので,図を利用して説明をする。ここでは,アナログ方式の記録とディジタル方式の記録の違いを理解させる程度の説明にとどめる。
 音の表現については,第2章で詳しく学習することを知らせておく。

(2)第1章2節 インターネット

【1】ビデオクリップを見て適切なメモをとろう
 第1章2節「インターネット」においては,ビデオクリップ「インターネットのしくみ」を生徒に見せ,その内容のメモを取らせて,実習ノートにまとめさせる実習を行った。
 情報を入手する最も基本的な手段は,聞いたことや調べたことをメモすることである。ビデオクリップを見ながら適切にメモが取れることも情報収集能力の一つである。ここで利用したビデオクリップは「情報機器と情報社会のしくみ素材集(※注1)」の中の「インターネットのしくみ」である。

【2】パケット通信とTCP/IPについて知ろう
 次に,コンピュータ間でデータをやり取りする場合の共通のルール,プロトコルの内容ではTCP/IPとパケット通信について簡単な実験を行った。クラスを5人ずつのグループに分け,この一つのグループを一つのネットワークと考える。その中の一人をルータ役とし,もう一人をハブ役とする。他の人はコンピュータ役である。あるグループのなかで,つまり一つのネットワークのなかでのデータのやり取りを行う。ここでは,ハブ役の人を介してデータのやり取りを行う。データには紙テープを使うことにする。つぎに,ネットワーク間でデータのやり取りを行う。ハブからルータを経由して他のネットワークとデータのやり取りを行う。この実験で,パケット通信の有効性やTCP/IPについて理解させることができる。

(3)第1章3節 問題解決
 問題解決の学習においては,「問題を見つけ,問題を調べ,解決策を考え,複数の解決案を比較して評価し,適切な解決案を作成して,実践してその結果を評価する」という一連の学習活動の中で,問題発見能力や問題解決能力を育てようとするものである。

【1】問題解決学習の概要
 本校では,毎年6月下旬に修学旅行が行われている。この中には,班別研修が1日含まれている。班別研修計画の作成は,普通教科「情報」の「問題解決」の教材としてふさわしい内容を持っていると考えている。
 つまり,問題解決の学習に必要な要素をすべて持っているといえる。すなわち,朝9時にホテルをスタートして,午後4時にホテルに帰着するという条件が与えられている。生徒自身が問題を見つけることが比較的容易である。たとえば,見学地点を何か所設定するのか,見学施設の内容,見学地点間の距離や移動時間,昼食場所などである。解決すべき問題に対して資料を収集し,整理,分析,検討を行う。これをもとに,生徒各自が自分の計画案を作成する。その後,班のメンバーがそれぞれの計画案を持ち寄って,最善と考えられる研修計画案を作成する。実際に修学旅行で実践して計画の内容について評価することができる。さらに,実施後の反省点をまとめて,次年度の参考資料を作成する。なお,実施後の反省点や班別研修に関わるいろいろな情報は,「班別研修アドバイス集」(図8)として,生徒の学習用サーバーに保存され,毎年計画作成時に参考にしている。

図8 班別研修アドバイス集
▲図8 班別研修アドバイス集

【2】学習の流れ
 班別研修計画作成の学習に4時間を充てている。
第1時
・学習の流れの概要を説明する。
・問題を発見し,それを文章に表現する。
・情報や資料を収集する(学習プリント1)。
第2時
・収集した情報や資料を整理する。
・資料等を分析・検討し見学場所を決定する。
・各自計画案を作成する(学習プリント2)。
第3時
・各自計画案を完成させる。
・グループでメンバーの計画案を発表する。
第4時
・グループの最適な計画を作成しまとめる。
 この計画に従って,修学旅行において班別研修を実施する。修学旅行実施後に実施報告書(図9)を各自作成し,次年度へのアドバイスとする。このアドバイスは毎年追加され,生徒にとってより役立つ資料となっている。
 次回は,「新・情報B」第2章,第3章の授業内容について報告する。

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学習プリント1
▲学習プリント1

※画像をクリックすると,PDFが開きます。
学習プリント2
▲学習プリント2

図9 実施報告書
▲図9 実施報告書
注1:http://www.kayoo.org/home/mext/joho-kiki/
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