ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.38 > p22〜p25

教育実践例
生徒が主体的に取り組めるテーマを使った授業展開
−他教科との連携による情報活用の実践力を目指してー
智辯学園和歌山小・中・高等学校 前川 倫男
mmaegawa@wakayama.chiben.ac.jp
1.はじめに
 本校は,平成14年開校の小学校と中高一貫教育を行っている中学・高等学校が一体となり,小中高12年一貫教育を行っています。
 平成10年に学習情報センターとしての機能を持った図書館を建築し,これを核として校内情報システムを構築しました。小中高校の校舎が同じ敷地内にあり,校内LANで図書館の学習情報にアクセスできるようになっています。
2.情報教育
 情報に関する授業は,主に中学1年時の技術・家庭科の技術分野と,高等学校の情報Aで行い,中高一貫コースの生徒には中学3年時,高校コースの生徒には高校1年時に行っています。PC教室は,他の教科でも空き時間を予約し授業に使っています。
 平成15年度に始まった情報Aの授業を行うにあたり,各社の教科書を検討しましたが,教科書の構成では指導しにくさを感じ,本校に合った独自の授業展開を工夫しました。結局,教科書は内容の充実度から日本文教出版の情報Aを採用し,授業プリント作成時に該当ページを記載し,教科書を参考書代わりに使っています。
3.情報Aの授業展開
 次頁に中学3年時の情報Aの授業の年間指導計画を載せています。情報Aの授業は週1コマ70分で,毎回コンピュータ教室で行っています。各回の授業は講義と実習を組み合わせ,生徒が能動的に活動できるように組み立てています。生徒は各自のユーザIDでネットワークにログインし,サーバー内にある各自のドキュメントフォルダを使用しています。電子メールは各自のアドレスで校外とも送受信可能です。毎回の授業内容プリントは共有フォルダにアップするとともに,紙に印刷して配布しています。課題の提出にも電子メールを使っています。

(1)1学期の授業内容
 1学期は,情報モラルの授業とワープロソフトを使った小冊子作りを行います。昨今のインターネットを取り巻く問題点から,年度の最初に情報モラルの授業を行い,インターネットの利用で被害者や加害者にならない方法を指導しています。インターネット上で提供されている情報モラルビデオを見せ,情報倫理の副読本を使って学習しています。宗教の授業でも情報モラルの内容を降ろしてもらい,コラボしています。
 ワープロソフトを使った小冊子作りでは,7月の淡路臨海学校を題材に,施設周辺の文化,地理,産業など様々な情報をインターネットで検索・収集し,一人1ページにまとめ,クラス単位で小冊子を作成しています。総合的な学習の授業の一環として,調べるテーマや分担はホームルームで学級担任に指導をお願いしています。授業では,一太郎の使い方,日本語入力等を指導し,情報活用方法の基礎を学習します。プリントした用紙を頁順に並べ,移動しながら手で丁合し,ステープラで止め,製本テープで仕上げます。生徒は感想を述べ合いながら楽しそうに小冊子作りを行っています。臨海学校終了後,現地での体験を交えながら自己評価を行います。

ワープロソフトで作った小冊子
▲ワープロソフトで作った小冊子

学期 内容 概要 教材
【1】




1.インターネットのしくみ 1)環境の確認PCの確認,ID・パスワード,電子メールの確認 情報モラルの学習を通じて,インターネット社会における規範と自分を守るための方法を学ぶ。 教科書p32
2)ネットワークのしくみ
【1】「インターネットのしくみ」ビデオ
【2】「電子メールが届くしくみ」ビデオ
【3】「パスワードの管理」ビデオ
【4】「情報の信頼性と責任」「チェーンレターを出してはいけないことの意味」ビデオ
教科書p15,33-37,
情報倫理p38-45
3)電子メールを利用する上での注意点 教科書p50-51
4)電子メールで学習の感想や意見を提出  
2.情報を守る技術 1)ネットワークに対する不正行為「コンピュータウィルスの被害」ビデオ 教科書p56-58
2)セキュリティ対策「コンピュータウィルスとセキュリティ」ビデオ
3.情報を守るために 1)個人情報および保護「個人情報およびそれを保護しなければならない理由」ビデオ 教科書p54-55
情報倫理p2-3,8-11
2)知的財産権の保護「知的所有権が侵された」「著作権/類似権利」「著作物の使用」ビデオ
3)電子メールで学習の感想や意見を提出  
【2】




1.情報活用の流れ 問題解決の手順 淡路臨海学校事前学習資料「淡路島大研究」(B5小冊子)の作成を通じ情報の活用能力を養う。 教科書p18-19
2.資料の作成 1)調査項目の決定 【1】淡路島 【2】うずしお 【3】人形浄瑠璃 【4】野島断層(阪神淡路大震災) 【5】明石海峡大橋,大鳴門橋 【6】大原国際美術館 【7】世界の名画:(ア)古代,(イ)中世,(ウ)ルネッサンス,(エ)バロック,(オ)近代,(カ)現代  
2)情報の収集 インターネットの検索エンジンを利用して情報を収集する。 教科書p42-43
情報倫理p2-53
3)情報の加工:ワープロでの資料の作成 自分の考えに基づいて情報を整理しまとめる。説明文だけでなく絵や写真を入れ,情報を受け手にわかりやすく伝える工夫をする。ファイルをネットワークフォルダに保存する。 教科書p46
4)情報の発信 各自のページを提出フォルダに保存する。印刷し,クラスの生徒のページを小冊子にする。
【3】








1.表計算ソフトウェアの使い方 1)表計算ソフトウェアの使い方
(ア)表計算ソフトの操作
  教科書p68
(イ)計算をする 計算式の入力(合計の計算),四則演算 プリントp21
(ウ)関数を使用する 合計を求める(SUM関数),判定をする(IF関数) プリントp22
(エ)検索と並べ替え プリントp23
(オ)グラフ作成 教科書p96
2)例題:都道府県別人口密度順位表
計算式,関数を用いて計算し,グラフに表示する。
 
2.日本の人口問題 テーマ 【1】高齢者(65歳以上)問題 【2】少子化問題(15歳未満)【3】その他,人口に関わる問題等 日本の人口問題について,表計算ソフトを使って統計資料を作り,問題点を調査し,レポートにまとめ,プレゼン発表を行う。自分の考えを受け手に伝えるのに,どのように作表したり,グラフ化すれば良いか考える。  
1)インターネットを使った情報の収集
総務省統計局から統計データをダウンロードする。
教科書p42-43
2)情報の加工 集計表を作成し,グラフ化する。都道府県や地区別,年齢区分別の比較をする。 教科書p96
3)情報の発信 ・ワープロを使って,資料をまとめる。・表計算ソフトで作った表・グラフをレポートに貼り付ける。・プレゼンスライドを作成する。 教科書p28-29,
78-81
4)プレゼン発表 調査した内容を,クラスでプレゼンテーションして発表する。(一人2分程度)
【4】







1)ディジタル化の特徴 情報の科学的理解を通じて,アナログな情報をデジタル化することでコンピュータなどを活用して編集,加工,統合し,多様な表現をすることができることを学ぶ。また,文字や画像,音声,映像などさまざまな形態の情報がどのように処理されているか,情報のデジタル化の仕組みを学ぶ。 教科書p63
2)ディジタル情報 アナログデータ,ディジタルデータ,2進数,ビット,バイト,情報量の単位 プリントp100-101
3)2進数と10進数と16進数の変換  
4)文字のディジタル化 教科書p66-67
プリントp102
5)音声のディジタル化 教科書p72
プリントp102
6)ディジタル化の手順:[1]標本化(サンプリング),[2]量子化,[3]符号化,ADコンバータ,DAコンバータ 教科書p72
7)画像のディジタル化 a)カラー画像のしくみ:光の三原色RGB,フルカラー,色の三原色 b)動画の表示のしくみ 教科書p70-71,73
プリントp46,p103,104
8)コンピュータで画像を処理する方法:画像のデータ量,データの圧縮・展開,画像のファイル形式 教科書p133
9)ディジタル化のメリット:情報の統合化,マルチメディア,双方向性 教科書p65
プリントp105
学期 内容 概要 教材
【5】



第1回 総合実習の説明 オリエンテーション グループ分け,テーマの設定,役割分担 理科総合Aで学習した地球温暖化をテーマに,プロジェクト学習とプレゼンテーションを学ぶ。テーマの決定,計画の立案,情報の収集,資料の制作,発表,評価を通じプロセスを学ぶ。発表は1グループ当たり12分程度。場所は,マルチビジョンルーム。 教科書p78-79,
88-92,96,98-103
第2回 作業計画立案,情報の収集 スケジュール,予備調査,資料の収集
第3回 情報の収集,整理分析,統合 調査結果分析,考察,再調査,レポート,スライド作成
第4回 情報の収集,整理分析,統合 調査結果分析,考察,再調査,レポート,スライド作成
第5回 プレゼンテーションファイルの作成 プレゼンテーションの準備,スライド作成,スライド修正,リハーサル(マルチビジョンルーム)
第6回 プレゼンテーション発表1 グループ別に舞台でプレゼンを表示・発表,相互評価,自己評価
第7回 プレゼンテーション発表2 グループ別に舞台でプレゼンを表示,発表,相互評価,自己評価
第8回 総合実習を振り返って 評価方法の学習,相互評価集計,順位発表,総合実習の感想を電子メールで提出
【6】情報の授業を振り返って

(2)2学期の授業内容
 2学期は表計算ソフトの活用と情報の科学的理解をテーマに展開しています。初めに,表計算ソフトの基礎を例題を使って学習します。その後,応用として,日本の人口問題について表計算ソフトを使って統計資料を作り,レポートにまとめ,プレゼン発表を行います。公民科の教師と打ち合わせを行い,少子高齢化問題についての基本的な内容は公民の授業で行ってもらい,情報の授業では情報活用能力の向上に主眼を置いて展開しています。インターネットから総務省統計局の日本統計年鑑「2−9都道府県,年齢3区分別人口」をダウンロードさせ,都道府県別の高齢化率や少子化率を時系列でグラフ化し可視化しています。これをワープロに貼り付け,各自の切り口でレポートを書かせています。わかりやすいグラフを作成することで,問題点がよく見えてきたと感想を述べてくれます。このテーマは,表計算ソフトを活用する教材として打って付けのテーマだと思います。情報の科学的理解の授業では,コンピュータの内外で行われている情報のデジタル化の仕組みを学びます。
 成績評価は,考査点50%,成果物の評価や取り組み態度50%で行っています。

(3)3学期の授業内容
 3学期は総合実習を行います。理科総合Aの授業とコラボして,地球温暖化をテーマにグループに分かれてプロジェクト学習を行います。テーマの決定,計画の立案,情報の収集,スライド資料の制作,プレゼン発表,相互評価,自己評価を通じてそのプロセスを学んで行きます。
 最初2時間程度で,Office2007の解説本を使ってパワーポイントの使い方を学習します。その後グループに分かれ,理科総合Aの「科学技術の進歩と人間生活」の単元の実習1〜10の中からテーマを選び,プロジェクトを進めて行きます。理科担当の教師と打ち合わせ,地球温暖化に関する基礎的内容は理科の授業で取り扱ってもらっているので,生徒はインターネット上の情報の中から必要な情報を取捨選択し,上手くまとめてくれます。生徒には大まかなスケジュールを提示するだけで,後は情報Aの教科書の総合実習の進め方や総合実習の実践の単元を読ませ,グループで話し合いをさせながらプロジェクトを進行させています。グループのメンバーだけがアクセスできる共有フォルダを作っていますので,各自が分担して作成したスライドをそこに保存し,リーダーが一つにまとめ完成させています。ファィル共有による協働作業を体験させています。
 プレゼン発表は視聴覚教室(マルチビジョンルーム)の大型スクリーンにスライドを投影し,発表者は演壇からプレゼンを行います。同じ場所でリハーサルを行うのですが,人前で説明することの難しさを実感するようです。中には,非常に上手くプレゼンを行うグループもあります。聞き手は発表内容を4段階で評価し,相互評価シートに記録します。後日の授業で相互評価シートを集計し,評価ポイント順に順位付けし,優勝チームに景品を授与しています。これを通じて数値化しにくい内容を客観的に評価する手法を学ばせています。生徒は評価結果に概ね納得しているようです。

プレゼンの様子
▲プレゼンの様子

 3学期の最後の授業ではインターネット安全教室のビデオを見せ,インターネットの危険性から自らを守る方法を再確認させ締めくくっています。
 1年間の情報の授業を通じ,他教科と連携し協働しながら,情報Aの学習指導要領の目標に言う「コンピュータや情報通信ネットワークなどの活用を通して,情報を適切に収集・処理・発信するための基礎的な知識と技能を習得させるとともに,情報を主体的に活用しようとする態度を育てる。」ことを目指しています。
4.新情報システムの概要
 平成19年度にIT教育設備整備国庫補助を得て,校内情報システムを全面的に更新しました。その概要は次の表を参照してください。
新情報システムの概要
1〕PC教室(図書館2階)
生徒用PC(50台),先生用PC(4台),Windows Vista,Office2007,JUST Suite2007,カルキング7,カラーレーザープリンタ(2台), 液晶プロジェクタ,AVシステム

2〕コンピュータ学習室(図書館3階)
生徒用PC(5台)

3〕図書館総合システム(Lib Max)
管理用,カウンタ用,検索用PC,カラーコピー機(プリンタ,コインラック付)

4〕教材制作システム
デスクトップ(1台),ノートPC(2台),タブレットPC(1台),カラーコピー機(プリンタ,ADF,フィニッシャ),一眼デジカメ,デジタルビデオカメラ

5〕映像録画表示システム
映像録画取込用PCastBOX(3台),映像保存用TeraStation(3TB),映像表示用20インチ液晶モニタ,LinkTheater,DVD・Video装置

6〕サーバー機器
PCサーバー(4台),QuadCore(1U),管理用サーバー(1台),DualCore(1U),iSCSI HDD(6T),TeraStation(3T),VMWare Virtual Infrastructure Server,VMWare VirtualCenter,Windows Server 2003&2008,ISA,Domino,Web,他20Server

7〕講堂プロジェクタシステム
高輝度プロジェクタEMP-8300NL,DVD・Video装置,プロジェクタ用PC

8〕Gbit校内LAN(認証機能付)

9〕教務システム「賢者」中高一貫対応

 生徒用PCはWindowsVistaで構築し,Office2007を入れましたので,慣れない点もありますが,情報の授業は大変やりやすくなりました。教務システム用PCは,WindowsXPで当面やっていくことにしました。新システムの目玉は仮想サーバー(VMWare Virtual InfrastructureServer)とiSCSIの導入です。これによりサーバーのメモリーやディスクスペース等の資源の有効利用と管理の省力化が図れるとともに,必要とするサーバー機能を手軽に提供できるようになります。校内LANは今後の情報量の増大や情報流出に対するセキュリティを考慮して,末端までUTPCat.6ケーブルに張り替え,全てのHUBを認証機能付きのものにしました。また,中高一貫教育向けで生徒のポートフォリオに対応した教務システムを導入しましたので,生徒に対してきめ細かな指導が行えるようになると考えています。サーバーに多くの情報を蓄積し,情報システムを利用し授業や教材研究に大いに活用したいと考えて構築しました。
5.終わりに
 校内情報システムは,情報教育だけでなく教育の情報化にも使うことで先生の教育活動に役立ち,生徒に還元されます。そのためのバックボーンをしっかり構築し,生徒や教師に使いやすい環境を提供する必要があると考えています。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る